芸術家と子どもたちでは、埼玉県立小児医療センターと連携して、入院中や外来の子どもたちを対象に、オリジナルの動画番組を作成しています。2022年度は、Yahoo!基金「インターネットやIT技術の利活用を通じた市民活動の支援プログラム」の助成を受けて、6本の動画番組を制作しました。

動画はYouTubeの限定公開なのですが、活動の様子をブログでご紹介します。

小児医療センターに入院・通院している子どもたちやご家族の方々は、この数年、新型コロナウイルス感染拡大の影響で外部から院内への出入りが制限され、院内でのイベントも減り、以前より楽しい体験の機会が失われたと思います。

そこで、アーティストの新井英夫さん(体奏家・ダンスアーティスト)、板坂記代子さん(ダンサー・美術家)、はしむかいゆうきさん(音楽家)たちと、オリジナルの動画番組を作成。子どもたちが、ダンスや音楽等で楽しく表現活動する機会を創出し、子どもたち本人や、その家族を心理面で支援したいと考えました。

番組は『ちゃっちゃ☆チャンネル』と題して、病院内で制約のある生活をしている子どもたちのリクエストを、番組のキャラクター「ちゃっちゃ」が、病院と外の世界をワープして実現するような内容で構成。例えば「公園に行きたい」など、病院の外の世界と子どもたちの生活をつなぐ役割を果たしながら、ダンスや音楽のコーナーを取り入れて、それぞれの場所から気軽に負担なく楽しめる内容を工夫しました。

ダンスや音楽のコーナーには、病院の様々なスタッフが出演。保育士さんやチャイルド・ライフ・スペシャリストさん、救急車の運転手さんや、作業療法士さん、臨床心理士さんなど、たくさんの方々にご協力いただき、それぞれのお仕事の内容を紹介したり、リクエスト曲で踊っていただいたり、子どもたちに関わる方々のいつもと違った一面や魅力を伝えることができました。また、院内のお菓子屋さん「マーブル」や屋上庭園、併設されている「ドナルド・マクドナルド・ハウス」など、ホッと一息つけるような院内のあたたかい場所を紹介することもできました。

チャイルド・ライフ・スペシャリストのお二人(左上)とダンス!
発達診断室での撮影の様子。12月はクリスマス・スペシャル!

子どもたちとのやり取りには「おたよりカード」を配布し、院内各所にポストを設置してもらいました。おたよりカードには、毎回クイズやだじゃれコーナー、「好きな食べ物」「好きな動物」などのQ&Aをつくり、その答えを番組内で紹介しました。こうしたやり取りを通して、「この病院にはこんな楽しいこともある」と特別感と安心感のあるコンテンツを提供できたのではないかと思います。

これからも、一度限りではなく番組を蓄積していくことで、新しく入院してくる子や、外来に移行した子たちに、継続的に関わっていきたいと思います。

毎回の撮影の度に、出演者や撮影場所の調整をしたり、公開時には院内にポスター掲示をして周知してくださったりと、病院と私たちをつないでくださったボランティア・コーディネーターの冨澤さん。そして、院内で出会った皆様が、いつもとてもあたたかく、子どもたちのために日々力を尽くされていることを実感し、快く撮影にご協力いただいたことにも、改めて心よりお礼申し上げます。

都内公立保育園の子どもたちと取り組んだ石坂亥士さん(神楽太鼓演奏家・踊るパーカッショニスト)とのワークショップをご紹介します。今回は4歳児、5歳児クラスの子どもたちと、それぞれ60分ずつの音楽のワークショップを行いました。

保育園のホールに子どもたちが入っていくと、見たことのないたくさんの楽器を発見!! 「どうしたら音が鳴るんだろう? どんな音がするんだろう?」と興味津々の子どもたちですが、ホールのなかには石坂さんらしい人物はどこにも見当たりません。子どもたちがキョロキョロと周囲を見渡して石坂さんを探していると、ホール奥の扉の裏から太鼓の音が聞こえてきます。音の方に振り返ると、なんと亀の甲羅を首からぶら下げた石坂さんが、太鼓を脇に抱えて演奏しながら登場してきました!!

そして、石坂さんはホールに置かれた楽器の一つひとつを演奏しながら子どもたちの間を練り歩いて、楽器の音色や演奏の仕方を子どもたちに紹介していきます。子どもたちは頭の上で奏でられるシンギングボウル(「シンギング」=歌う・音を出す、「ボウル」=器。鉢の形をした金属製の打楽器)の音の響きや空気の振動にビックリしたり、鹿の角で叩かれた亀の甲羅の音色に目を丸くしたり、初めて聞く楽器の音色にワクワク・ドキドキ。

「早く自分たちも楽器を演奏してみたい!!」 子どもたちの楽器への好奇心がいっぱいに膨らんでいったところで、石坂さんが子どもたちの一人ひとりに楽器を渡して、石坂さんと子どもたちの即興演奏がスタート。最初は石坂さんの太鼓のリズムにあわせて目の前にある楽器を演奏していた子どもたちでしたが、石坂さんが床に横倒したジャンベにまたがって、まるでソリに乗るかのようにホールを移動しながら自由に演奏する姿を見ているうちに、子どもたちが一人、また一人と自分が興味を持った楽器のところに走り寄って演奏を始めました。

その後は、もうすっかり子どもたちの自由時間。石坂さんの奏でるリズムにあわせて一緒になって演奏をしたり、楽器を持ち寄って友達同士で演奏を楽しんだり、お気に入りの楽器を奏でながらホールのなかを行進したり、子どもたち一人ひとりが思い思いの楽器に触れながら、自分だけの音を発見して奏でていきました。

気が付けば、子どもたち曰く「あっという間だった!!」60分間のワークショップも終了時間に。実はワークショップの始めから終わりまで、石坂さんはひと言も喋らずにワークショップを進めていきました。そして、始めから終わりまで、常に子どもたちの様子に目を配りながら、時にゆったりとしたリズムで子どもたちを優しく包み込み、また激しいリズムで子どもたちを鼓舞したり、音とリズムでたくさんの会話を子どもたちとしてくれました。

朝早くから楽器の搬入出や準備にご協力くださり、子どもたちと一緒になって楽器を奏でてワークショップに参加してくださった先生方、本当にありがとうございました!! 全身を使って楽器を奏でる子どもたちのエネルギーが、音とリズムになって昇華していったワークショップの時間でした。