2学期は、学芸会や音楽会などの行事に関わるワークショップの依頼も多くなります。その中で、学習発表会に向けて『ユタと不思議な仲間たち』という物語に取り組んだ、小学5年生57人とのワークショップを紹介します。東京育ちのユタが両親を亡くして東北の学校へ転校。座敷童との出会いによってたくましく成長していくお話です。
アーティストは、通称「なにわのコレオグラファーしげやん」こと、北村成美さん(振付家・ダンサー)。今回は、発表日を含めて全6日間しかないので、台詞の指導などは先生が担当、アーティストは身体表現を取り入れた、オープニング、座敷童が自己紹介をする場面、座敷童とユタが乾杯する場面、そして最後に座敷童が旅立ち「友達はいいもんだ」を歌うエンディングの4つのシーンを主に担当することになりました。
さて、初日は「全員の顔が見えて、全員に顔を見せられる場所に3秒で移動してください。答えを人に言わない。」と、いきなりアーティストの問題から始まりました。「1、2、3!」の掛け声で、戸惑いながらも一応正解と思う場所へ移動する子どもたち。最初はみんな舞台に上がってしまい、「それみんなの顔見えてる?」とアーティストは一蹴。「1、2、3!」とできるまでやり直します。そのうち、子どもの中から「円になったらいいんじゃない?」という囁き声が。次第に円が出来てきたところで、「みんなの顔が見えてるなら合図なしで出来るはず。」と、無言でタイミングを合わせて移動、アーティストへの集中力、呼吸がぐっと一点に集まっていきました。
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円が形になってきたところで、そのまま無言でアーティストがいろいろな動きを始めると、アーティストを見つめていた子どもたちが何も言わずにその真似を始めます。床を叩いたり、回転したり、寝そべったり、時に「シュッ」「ハッ」と声も出しながら、様々な動きを真似します。
そうして開始から30分ほどたった頃、真似の動きの流れで正座をして、呼吸を合わせて「よろしくお願いします!!」と挨拶したところで、改めてアーティストが自己紹介と説明をしました。これからのワークショップについて「みなさんに対してもプロと同じようにやります。ただちょっと根気がない。」と叱咤。改めて真似の動きをしてもらい、アーティストの動きを見てから真似をすると、動きにズレが生じることを気づかせます。では、「見る」とはどういうことか。おもむろに男の子を円の中心に連れ出し即興で踊るアーティスト。踊り終えると「分かった?」「ハイ、二人か三人でどうぞ!」と全員に向かって投げかけます。二人組で何をするか言葉での説明は一切ないので「えっ?」と言いながらも、相手を見つけて何やら動き出す子どもたち。対面するという関係性、気分を合わせる、ということを体験するため、何パターンか二人組の動きを繰り返し「これは遊びじゃないねん。全身で見るからお客さんも見る。」と語りかけると、アーティストが見本を見せる時の子どもの静けさも増していきました。言葉で説明するのではなく、見つめる、呼吸を合わせる、感じる、など身体全部を使っての対話が生まれていたように思います。
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2日目、この日は「よろしくお願いします!」の一言の後は、何も説明せずに、真似の動きから始まりました。子どもたちは既に慣れた様子で、水泳の動き、お尻歩き、何かを投げる動作など、アーティストと呼吸を合わせて動きます。
そして、またみんなの顔が見えるよう円になったところで、これからは学芸会に使う動きをつくっていく事を伝え、オープニングや座敷童の自己紹介にも使う「名前ダンス」の創作に取り掛かりました。四人組になり、一人ひとりの名前を全員でも踊れるようにと指示を出したら早速スタート。どんどんアイデアが出て何個も振りを考える子、1つのアイデアに辿り着くのにも時間がかかる子、様々なグループがありますが、時折1つのグループを取り上げてポイントを全員に伝えながら創作を進めます。一人の名前でも4人で手をつなぐなど協力して動きを作っているグループ、好きなスポーツの動きを取り入れるグループ、掛け声に工夫をするグループなど様々。更に、4人の名前を続けてテンポよく踊れるように「せーの」という掛け声をなくす事、「大事なのは終わりと始まりがあること。終わったらちゃんと止まる!」など精度を上げるよう各グループを回って声掛けをしました。
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そして振りが決まったら、1グループずつ発表です。少しでも終わりのポーズが決まらないと「何やってんの!?」、服を気にして触ってしまうと「振付にないことはやらんといて!」、その他にも「私プロやし、こんなん許されへん!」「面白くないもの作るんやったら、やらん方がいい!」等々、アーティストから激が飛びます。どんどん子どもに詰め寄り、一つ一つの動きに納得できるまで、一切の妥協を許さず何度も何度もやり直してもらいます。すると、見ている子どもたちも発表の後に拍手をするべきかどうか判断するようになりました。拍手をもらえないのは何故か、拍手したい気持ちになるような動きとはどういう事かを身体で感じ取ったようで、最後に全員で一斉に名前ダンスを踊った様子は壮観でした。何を見せたくて、何を見せたくないのか、この日の振り返りで先生が仰った通り「前回までは「楽しい時間」だったのが、「発表して見せる。」という意識に変わった。」という2日目でした。
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そして配役も決まり、ひな壇など舞台も設えられた3~4日目は、名前ダンスを取り入れたオープニングや、初回の真似の動きを使った乾杯のシーンなど、どんどん動きを決めていきました。お話の中で57人全員が一度に登場することは難しく、登場人物は4場面に振り分けて配役が決められていますが、全員が登場して一人ひとりが考えた自分の名前ダンスで始まるオープニングは、これからどんな物語が始まるのか、見る人の期待を煽ります。
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乾杯のシーンでも、場面の登場人物以外のひな壇で待機している子どもたちも登場して、タイコに合わせて掛け声をかけたり全員で踊ったりする工夫をしました。乾杯のしぐさ一つとっても、中途半端な飲み方では伝わらない。そこに無いものをあるように見せられるように、アーティストも実際に違いをやって見せながら、一つ一つ丁寧に伝えていきました。
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途中、ワークショップがない期間は先生に練習を任せて、あっという間に迎えた5日目はリハーサル。リハーサル直前の控室では、アーティスト自身も舞台に立つ前にするという儀式を子どもたちと行いました。「舞台に立つと自分一人やけど、みんなに見られたりするやんか。でも、お客さんに伝える時も、お互いに向かい合ってきちんと挨拶することと同じ。」と、全員がお互いに一人ひとりと握手をしてリハーサルに臨みました。
そしてリハーサル後、教室に戻った後は本番に向けてさらに完成度を上げる時間。「せっかくここまでやってんから、もっとよくなる!」というアーティストの言葉に、「もっと進化させる。」という子どものつぶやき。「一人くらい大丈夫。」と思っている人が一人でもいたら台無しになるからと、オープニングの名前ダンスを、改めて一グループずつやってもらいました。出来ていなければすかさず、「声も何もかも小さい!」「何も伝えてへん!!」「一番大きい声出してみて!」とアーティスト。自分の番ではないグループの子も、お互いに顔を見合わせて自分たちの動きについて本当に大丈夫か確認を始めます。そして、ある子が何度も何度もやり直しをさせられていると、いつの間にか周りがその子の動きを覚えて動き出しました。
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一人を囲んで全員がその子の名前を呼び、その子の動きをやってみる。アーティストが声をかけたわけでもないのに、自然に動き出した子どもたち。何度も何十回も、自分の名前に加えて友だちの名前、いくつものダンスを繰り返していると一つ一つは一瞬の動きなのに、いつの間にか袖を捲りあげ、肩で「ハアハア」と息をする子どもたち。みんなの熱気、そして気持ちが教室中に満ちていきました。更に、終わりのポーズが中途半端な子には、周りからも「ちゃんと止まった方が良い。」とアドバイスや、「しゃがんでみたら?」などポーズを提案する姿も見られるように。次のグループへ進もうとすると自ら挙手して見て欲しいとアピールし、アーティストの気合いに全く引くことなく応えていく子どもたち。何回も繰り返すうちに動きは良くなりましたが、「お客さんには一発目でこれができなあかん!」とアーティスト。結局一時間弱を名前ダンスに費やしましたが、その中で伝えたことが全てにつながっている気がしました。
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そして、後は子どもたちがやりきってくれる事を信じるのみ、と迎えた発表の日。児童鑑賞日と保護者鑑賞日の2回の発表のうち、アーティストが来られるのは一回目だけ。出会ってから約一ヶ月、振り返れば初めはアーティストの言葉に全く反応しない子がいたり、気がかりな事もありました。でも、ここまで子どもたちも先生も一丸となって迎えた本番。様々な想いを胸に始まったオープニングから最後まで、一瞬一瞬、一人ひとりが舞台の上で楽しんでいる様子、緊張している様子、そして観客が物語の世界に引き込まれ会場の空気が変わったことを感じました。しかし、ここまで一緒にやってきたみんなだからこそ、「もっとできるばず。」と、発表後にはアーティストから2回目の発表に向けて最終チェック。今まで、どんな事にも一瞬で応えてくれたからこそ、どこまでも登っていけそうな気がする子どもたちの勇姿に胸が熱くなりました。
校長先生が会の始まりの挨拶で、「お客さんが、劇を観る前と観終わった後では世界が違って見えるような劇を。」と仰っていましたが、スタッフも毎回子どもたちの姿に驚き感動し、この出会いによって世界が違って見えたような気がした6日間。このような出会いをくれた、子どもたち、先生、そしてアーティストへの感謝の気持ちでいっぱいです。
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北村成美/振付家・ダンサー
https://www.children-art.net/kitamura_shigemi/

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通常はほぼ月二回活動しているグリグリですが、今年の秋冬はわけあって月に一回しかワークデーがないのでこの日は一か月ぶりにメンバーが集まりました。前回は、花壇の整備を丸一日かけて行って、うっそうとしていた花壇が見違えるようにきれいになり、冬を越せるかわいいお花が植えられたのですが、今回は実りの秋らしく収穫と食べることが満載のワークデーでした。
畑の収穫といえば、さつまいも。暑さのせいか、秋になるまで葉も茎もほとんど伸びることのなかったおいもがどうなっているのか心配していたのですが、数は少ないものの丸々と太ったさつまいもを収穫することができました。すぐには食べず、12月のクリスマス会でいただくことにしました。さつまいものツルは、甘辛く炒めるととてもおいしいので、丁寧に筋をとって、短く切ってきんぴら風にしていただきました。簡単な一品ですが、筋をとるのに5,6人がかりで約2時間作業という究極のスローフード。あるものを大事にする心って、言うほど簡単ではないと痛感しつつ、美味しさに感動しながらいただきました。
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二つ目の収穫はみかんです。畑の脇にもともと植えてあったみかんの樹が今年は大豊作で、子どもたちが木や塀によじ登ってとってくれました。集めてみるとものすごい量。数えてみたら100個以上にもなっていました。みかんはジャムにしようということになり、エプロンを持参してはりきってきた小4の女子を中心としたメンバーの一部が、午後はジャムづくりをしていました。しかし、あまりにも大量で、ジャムが出来上がったのは日も暮れた5時ごろ。お腹を空かせた子どもたちはパンにできたてのジャムをつけて「うまいうまい」と大騒ぎで食べていました。
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そして三つ目の収穫は柿です。にしすがも創造舎の中庭には大きな柿の木が3本あり、グリグリが集まる教室の窓から見るとおいしそうに熟した柿がよく見えるので、毎年子どもたちが「採りたい採りたい」と大騒ぎします。ついに高枝ばさみも買って、柿もぎが定着したのですが、今年は渋柿が20個くらい採れて、これも渋ぬきをしておいて12月のクリスマス会でいただくことにしました。
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収穫以外も、もちろん畑仕事はあり、レモンやブドウの樹に肥料を与えてふかふかの土にしてあげたり、さつまいもを収穫した後の畑を整備して次の種をまいたり、子ども畑の大根の芽かきをしてあげたり。
グリグリの体験に来てくれた親子も10名ほどいたので、メンバーさんが色々教えてあげたりしながらの、とっても賑やかで暖かなワークデーでした。

小学校の特別支援学級で行われた、音楽家の港大尋さんによるワークショップをご紹介します。昨年度も同じアーティストでワークショップを実施した学校で、今年は「港さんと、とにかく音楽と身体を自由に動かすことを楽しみたい。」という先生からのリクエスト。子どもたちの中に去年のことが何らかの形で残っているようなので、同じアーティストで継続して取り組む方が、安心してより面白い表現が引き出せるのでは、という先生の言葉もあり、同じアーティストにお願いする事になりました。アシスタントにはダンサーの渋谷陽菜さんをお迎えして、3日間のワークショップを実施しました。

ワークショップ初日、子どもたちとの久しぶりの再会。まずは、低学年グループでの実施です。去年と変わらない笑顔を見せてくれる子もいれば、1年生など初めましての子どもたちもいるので、まずはご挨拶。アーティストが「覚えてる?」と聞くと「覚えてな~い!」と返事をした子も、アーティストがジャンベ(アフリカの太鼓)を叩き出すと手拍子をしたり、自分たちも叩きたがったり、去年も聞いたリズムや音にすんなり反応していきました。
一人ずつ叩きながら、真ん中と端を叩く時の音の違いを使って簡単なリズムを叩いていると、ある男の子が、ジャンベを持ち上げた底は空洞になっていて、そこに風が発生することを発見。穴に顔を近づけて風を感じて確認し始める子も出てきました。
そうしてジャンベに慣れた後は、リズムに合わせて身体を動かしていきます。途中、ジャンベの音にあわせてダンサーが即興の踊りを見せました。教室を暗くして、まるでジャングルのような雰囲気の中で踊ります。何に見えたか聞いてみると「ライオン」「蛇」「オオカミ」「宇宙人」「アナコンダ」など、様々な生き物に見えた様子。じゃあ、みんなも一緒に踊ろうということで、ジャンベの音を聞きながら、時にダンサーの真似もしつつ、一人ひとりが即興でいろいろな動物になって踊りました。
一方高学年グループでは、ジャンベで一人一人にリズムを考えてもらうことにも挑戦。「トントントン」「タンタタタンタン」「カカカカカカカ」「タンタタタタタンタン」など、みんなで真似してジャンベを叩いたり言葉にもしたりしました。さらには、出てきたリズムにあわせて即興の動きをつけながらダンスをしました。昨年もジャンベを叩いたりダンスを踊ったりした仲間なので、アーティストがどういう事をするか、お互いの勝手がなんとなく分かっている事や、子どもたちの期待度の高さを感じた1日目でした。

2日目と3日目は、昨年度の経験があってこその子どもたちの反応の良さや、ワークショップへの期待も踏まえて、いくつかの歌や踊りに取り組み、最後には、低学年と高学年で一緒に発表する時間を設けるという計画で臨みました。高学年グループと一緒に取り組んだのは、アーティストの港さん自身による作詞作曲の『がやがやのうた』と、喜納昌吉氏の作詞・作曲の『花』。どちらの曲も歌いやすい歌詞やメロディーで、何回か歌っていると自然に子どもたちの声も大きくなっていきます。ピアノを弾くアーティストの側にくっついていたり、ジャンベを曲に合わせて叩く子もいたり、それぞれの参加の仕方を受け止めつつ、時には歌詞を読みながら言葉の意味も確認していきました。『花』の間奏部分で一人ひとりがソロで踊るシーンを入れたり、「川はどこに行くの?」と問いかけながらイメージを広げて子どもたちにアイデアを出してもらって振付を考えたりしました。

一方、低学年グループは『がやがやのうた』と早口言葉&ダンスに取り組みました。「はらっぱでラッパをふいた」「はらっぱで立派なラッパをふいた」「カッパがはらっぱで立派なラッパをふいた」と少しずつ単語を増やして文章を長くしていきながら、身体の動きもつけていきました。どんどんどんどん言葉が増えて文章が長くなりますが、「もうちょっと足していい?」と聞けば「いいよ!」と答える子どもたち。カッパの動きを考えていたら、動物博士と呼ばれる男の子がカッパの生態について教えてくれるなど、話も弾む中で踊りも組立ていきました。そして最終日には発表することを伝え、歌や早口言葉を少し練習してもらうようお願いして2日目のワークショップを終えました。

そして迎えた最終日。それぞれが発表する歌や早口言葉を何回か練習してからお互いに鑑賞です。直前には、アーティストと円陣を組んで先生にも秘密の作戦会議。ワークショップでやった事に更にひと工夫を加えて発表しました。高学年だけが取り組んだ『花』のサビ部分をみんなで一緒に歌ったり、低学年だけが取り組んだ早口言葉を高学年にも教えてあげたり、お互いが経験した時間を共有して、最後は『がやがやのうた』を全員で歌い踊りました。先生もギターで参加したり一緒に踊ったり、一人一人のバラバラが、音楽の中で心地よく混ざり合い、温かい時間となりました。


最後の振り返りでは、「踊りたい人?と聞いた時に何の表情も変えずにサッと手を挙げて踊ることができる。そういう反応が今の世の中に欠けているんじゃないか。音楽があって通じ合った瞬間だった。」とアーティスト。昨年の経験もあったからなのか、今回は去年以上に、アーティストの「歌ってみよう。」「踊ってみよう。」という投げかけに対する迷いのない反応の良さに驚かされましたが、音楽やダンスを通してのコミュニケーションが、子どもたちの持っている様々な表現を色とりどりに引き出していたのだと思います。
また、先生からは、アーティストの言葉かけが「座りなさい。」ではなく、「座っちゃおうか。」など肩の力の抜けた雰囲気でとても良く、指示がなくても子どもたちは「港さんと動いていると何となく楽しいことがある」というのを分かっている、という感想をいただきました。ピアノを弾けなくなるくらい日に日にアーティストに接近するなど、目に見える距離の近さもありましたが、そうした関係性の中でお互いに気持ちよく表現を分かち合うことができたような気がして、幸せな気持ちで学校を後にしました。
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港大尋/音楽家
https://www.children-art.net/minato_ohiro/