5歳児クラス12人の子どもたちと、東山佳永さん(踊り手・美術家)のワークショップをご紹介します。みんなで一つのイメージを共有して、豊かな表現に出会う機会にしたい、という先生からのリクエスト。この園では、5歳児クラスだけがお昼寝をしない「ひみつの時間」という設定があり、その時間の中でアーティストと出会い、普段できないような体験をしてみたい、とのこと。普段の生活の様子でサーカス小屋をつくった子の話や、みんなおばけが好きということも伺ったので、『おばけサーカス』(作・絵:佐野洋子)という絵本をモチーフにワークショップの内容を組み立てました。アシスタントに音響デザイナーの白石和也さんもお迎えして、世界にたった一つのサーカス団をつくりました。

1日目は、アーティストによる『おばけサーカス』の朗読からスタート。物語に登場するおばけのサーカス団が披露する芸は「虹の橋を渡る」「森の中でヴァイオリンを弾く」など、想像を掻き立てる描写がたくさん詰まった絵本です。
朗読の後「うたと、おどりと、おえかきと、いろんなものを使って物語の中に入っていきます」と子どもたちに伝え、アーティストによるサーカスの芸を披露しました。アーティスト自身が描いた絵を背景に、踊りと音楽で芸を表現してみると、子どもたちは静かに見入っていました。
そしていよいよ、みんなでおばけのサーカスになる時間です。まず初めに「ひ・ひ・ひみつのサーカス団♪」というオリジナルの歌を練習してから、おばけになるためのストレッチ。身体のいろんな部分を伸ばしてほぐしてやわらかくして、身体の準備も整え、歌に合わせた振付も練習しました。
その後は、サーカス団の秘密の作戦会議。一人ひとりがどんな芸を披露したいか、得意なことや、どんな風景が思い浮かぶかということをヒントにアーティストと一緒に考えました。顔を後ろにするのが得意だから「さかさまの国」、「全部がへんてこな国」、「片足が得意」など子どもたちのアイデアを一つずつ拾いながら12人それぞれの芸を相談しました。

何を披露するか決まった後は、一人一枚ずつの布に芸のイメージを描いていきました。クレヨンや絵具、布を貼るなど、どんな風に描いても良く、いろんなものを使って好きなように描いていきました。最初は、自分より大きな真っ白の布を前にして、何から始めて良いか戸惑っている様子でした。でも、一人、また一人と描き始めると、あっという間にみんなどんどん手が動き出します。そのうち、手や足で描く面白さに気付く子も現れ、周りの子がどんな風に描いているかも参考にしながら、夜空の情景や、コウモリのいる洞窟、リンゴの木のある山の風景など、12枚の素敵な風景が完成しました。

最後に「上から見るときれいだよ!」と言ってくれた子がいて、みんなの描いた絵を眺めつつ、アーティストがその絵の中でみんなが考えた芸をヒントに少し踊ってみました。次回はみんなに芸を見せてもらうよ、と予告をして1日目の活動を終えました。
一週間後に迎えた2日目、この日はいよいよサーカスの始まりです。まずは準備運動で体をほぐし、前回覚えた「ひみつのサーカス団」の歌と踊りを思い出したら、早速サーカスの芸の練習です。描いた絵を被っておばけになって踊った後に、一人ひとりの芸を披露しました。芸のイメージを元にアーティストがつくった12人それぞれのテーマ曲に合わせて、山々をジャンプして飛び越えていく芸、ひっくり返ってさかさまの国を表現する芸、一番怖いおばけになって見ている友だちを驚かせる芸、星空を綱渡りする芸、ウサギやライオンに変身する芸など、色とりどりの芸が出そろいました。

さて、サーカス芸の練習が終わったら、次はサーカス小屋が必要です。子どもも大人もみんなで協力して、描いた絵を一つにつなげてサーカス小屋を組み立てました。平らな布が立体的に立ち上がっていく様子も楽しんで見守り、出来上がった時には中に入りたい気持ちが抑えきれない様子の子どもたち。「ひみつのサーカス団」を歌いながら入ったら、しばらくは好きにテントを眺めたり、いつの間にか走り回ったり、テントそのものとふれ合う時間を過ごしました。

そのうち、本を読みたいという子が出てきて、ここでもう一度『おばけサーカス』を朗読しました。でも、今度はお話の中に、12人それぞれの芸の話も織り交ぜてオリジナルの物語になっていました。
そしていよいよ、サーカスのはじまりはじまり。部屋の電気を消して懐中電灯の光だけにし、テントの中という特別な空間で、最初の練習よりも思い切って披露できたように思います。サーカスの最後は、12人みんなでリーダーの真似をするダンス。友だちが考えた動きをみんなで一緒に踊って、サーカスはおしまい。

アーティストから「うたでも、おどりでも、絵でも、何でもいいんだ。何か自分の得意なことを見つけて磨いてみてください。きっときれいになると思います」という挨拶と、みんなの音楽をCDでプレゼントして2日間のワークショップを終えました。
先生との振り返りでは、イメージがあることで動きも広がり、思ったより自己表現ができていた、絵からもイメージをつなげて表現していた、という感想や、「ひみつの時間」に自分たちでつくった特別な「ひみつのサーカス」のことを、人に話したい気持ちと秘密にしたいという気持ちの間で葛藤するのでは、というお話を伺いました。『おばけサーカス』の世界観を共有しながら、その中で一人ずついろんな表現を見せてくれた子どもたち。これから何でもできる可能性を秘めた子どもたちの中に、みんなでつくった「ひみつ」がいつまでも潜んでいられると良いなと思います。
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東山 佳永(とうやま かえ)/踊り手・美術家
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芸術家と子どもたちでは、小学校や保育園だけではなく、児童養護施設でのワークショップも実施しています。今回は、平成26年度に公益財団法人JKA「RING! RING! プロジェクト」の補助を受けて実施した取り組みをご紹介します。
児童養護施設のワークショップでは、施設の担当職員の方との打合せを密に行い、参加対象となる子どもたちの要望や実態を丁寧にヒアリングして実施を迎えます。ある施設では、自己表現や他者との関わりが苦手な小学生を中心に、身体を動かしながら自信を持って自分を表現することを楽しめるような活動を、という希望を受けて身体表現のワークショップを実施しました。実施期間は11月~3月に全10回、最終日には施設の職員の方などに向けて発表の機会を設けました。
最初は、アーティストの動きの真似などから始まったワークショップですが、それぞれの興味関心の違いや、参加することになった子どもたち同士の関係性を築くことにも時間がかかり、時にはワークが思うように進まないこともありました。
しかし、回数を重ねていくうちに、アーティストに対する子どもたちの信頼も深まり、子どもたち同士のコミュニケーションも豊かになっていきました。互いに身体の一部をくっつけたまま動物の形をみんなでつくってみたり、一人ひとりのアイデアを拾いながらリズムに合わせた振付を考えたりするなど、身体を介した他者とのふれあいや関わりを促すことで、参加している子どもたち同士の関係性が豊かになっていきました。
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また、側転や三点倒立など、子どもたちが得意なことや挑戦してみたいこともワークショップの中に取り入れ、それぞれの個性を発揮する場も設けました。中には、ワークショップ以外に普段の生活でも自主的に練習をするなどの意欲を見せる子もいて、その気持ちを受け止めながら、発表会を設けることにもしました。
発表会では、ワークショップで取り組んできた、視線を合わせたまま相手の動きを感じて即興的に踊ることや、それぞれが考えた振付のシーン、一人ひとりが得意技も織り交ぜてソロで踊るシーンなどで作品を構成しました。
大勢の人の前での発表に緊張や戸惑いもありましたが、終わった後に、大きな拍手と職員の方々からの感想など、たくさんの温かい反応を得て、子どもたちの満足そうな笑顔が見られました。また、発表を終えた後にも、普段の生活の中で職員の方と子どもたちがワークショップや発表のことを話題にするなど、施設内での職員と子どもたちとの関わりの面でも、子どもたちを褒める機会が広がったという声もありました。
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近年、児童養護施設における自立支援の拡充に向け、外部支援団体の支援活動なども多様化していますが、半年近い期間に継続して実施する芸術の分野からのアプローチはまだまだ未開拓の分野と言えます。しかし、ワークショップを実施した施設の方からは、継続実施を希望される声も多くいただきました。ダンスや音楽などの表現活動という新しい手法、今までとは違った視点で子どもの自尊感情や自己肯定感の育成に寄与できるよう、これからも事業の拡充につとめていきたいと思います。
※児童養護施設とは、保護者がいない、虐待を受けているなど、様々な家庭の事情により、家族と暮らせない子どもたちが生活する施設です。厚生労働省による2013年の調査では、入所児童の内、虐待を受けた経験のある子どもの割合は59.3%、何らかの障害のある児童は28.5%に上り、一人ひとりの特性に合った支援の充実が求められています。また、大学などへの進学率は22.9%と一般に比べて低く、自己肯定感をもって自分らしく生きる力を育むなど、自立支援の拡充も大きな課題となっています。
※公益財団法人JKA「RING!RING!プロジェクト」
https://www.ringring-keirin.jp/ 

当NPOでは、10日間前後のワークショプを行い、最終的に作品を発表するという取り組みも行っています。例年学芸会などに向けて実施することが多いのですが、今回は、6月の学校公開日に発表した4年生70人との取り組みをご紹介します。「自分で何かをつくり上げる経験がまだ少ない子どもたちに、苦労して考えてこそ、という作品をつくる難しさや楽しさを経験させたい」という先生からのリクエスト。アーティストは、セレノグラフィカ(ダンスカンパニー)の隅地茉歩さんと阿比留修一さんをお迎えして、9日間のワークショップを実施しました。
初めての出会いの日。子どもたちが体育館にやってくると、既に踊っているアーティストの姿が。二人は一言も話さず、そのままアーティストを囲んで鑑賞タイム。いつもとちょっと違う動きに思わず後ずさりする子もいますが、子どもたちに近づいたりふれ合ったり、何人かを誘い出して踊ったりするうちに、アーティストの世界に引き込まれていきました。その後の自己紹介では「たくさんびっくりして、笑って、初めての景色をみましょう」とアーティスト。まずは身近な歩くことから、ダンスが始まりました。狭い範囲でもぶつからないように歩いたり、「ストップ」の合図で片手や片足を挙げて止まったり、少しのルールを加えると色々な身体の動きが広がり始めました。
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2日目以降は、毎回ヨガのポーズでワークショップを開始。三日月のポーズ、立木のポーズ、ウサギのポーズなど、丁寧に呼吸を整えながら集中力を高めました。また、前半4日間はクラス毎に実施して、一人ひとりに向き合い様々な種類のワークを体験しながら、身体の可能性を探りました。「なぞなぞダンス」というワークでは、「カマキリの綱引き」「掃除するロボット」などのお題を身体で表してチームで当てっこ。相手の動きを鏡のように真似する「鏡の中のあなた」や、二人組で身体の一部に触れられたところからスルッと抜ける「さわってぬけて」などに取り組みました。

また、各ワークでクラスを半分に分けて互いに鑑賞する時間も設け、友だちのダンスを見合う時間も大切にしました。自分の名前に振り付けする「ネームダンス」では、一人ひとりが世界にたった一つのダンスをつくりました。一人だけで黙々と考える子、友だちと相談しながら考える子、先生の分まで考える子など、取り組み方は様々。出来上がったら全員で輪になって一斉に、また一人ひとりみんなの前で「ネームダンス」を披露。一人だと大きな声が出ず動きが小さくなる子もいますが、その緊張や恥ずかしさも含め見られることが貴重な体験になっているように感じました。

さて、後半5日目からは2クラス合同70人でのワークショップ。衣装(子どもたちが選んだ6色のTシャツ)を着ると子どもたちの気持ちも更に高まる様子。一方で、ワークショップも後半になると段々慣れてきて新鮮な気持ちが途切れる事も。そんなある日の始まりは、アーティストと体育館を縦横無尽に動き回ってとにかくいろんな動きを真似すること。賑やかな音楽にのって、なんだかセクシーな動きや顔の表情も豊かでどこか笑いを誘う面白い動きに、見ている子どもたちからも笑い声が。気持ちも新たに、いよいよ構成に入っていきました。

作品は、「花」「ロボットダンス①」「STOP&GO」「ネームダンス」「ロボットダンス②」「オクラホマミキサー」の6つのシーンから構成されました。どれも全員がワークショップの中で経験したものですが「花」「ロボットダンス」「ネームダンス」の3つは、子どもたち自身がどのシーンに出たいかを選び、「STOP&GO」とフォークダンスをアレンジした「オクラホマミキサー」は全員で踊りました。また、3つのシーンには出演せず全員のシーンだけに出演する選択肢もつくりました。全員が同じ時間同じように登場するより、一人ひとりの選択と責任に任せることで、一人ひとりのありのままが活かされたように思います。

そして迎えた9日目の本番。直前には目を閉じて隣の人と手をつなぎ、静かに理想の本番をイメージ。全校児童と保護者が見守る中、いよいよ開演です。「花」のシーンを選んだのは5人。両手を合わせて宙に好きな人の名前を丁寧に、ゆっくりと描きました。「ロボットダンス」は大人気だったので曲を2種類用意して2シーンに。曲を感じフロアを行き来しながらロボットになりきります。「STOP&GO」では、曲がストップする度に片手を挙げる、片足を挙げる、両足を挙げるなどのポーズでストップ。一人ひとりの身体から多様な形が生まれます。

「ネームダンス」は12名が登場。一人で自分のネームダンスを披露したら、全員でもう一度繰り返します。スポットライトを浴びて、飛んだり跳ねたり、面白い動きには会場から笑い声も。そして最後は全員で「オクラホマミキサー」。

2人組、4人組、8人組、同じTシャツの色、全員で、などなどアーティストの音頭に合わせて腕を組みながら軽快にステップ。後半は、歌詞を学校オリジナルにアレンジ。子どもたちに聞いた学校自慢を歌詞に織り込んで、「プールの床も動きます!」など元気よく歌いながら踊りました。最後はTシャツの色ごとにお客さんにご挨拶。9日間のいろいろな想いや経験を詰め込んだ本番を、無事終えることができました。

本番の後には、別の部屋で一人ひとり「ネームダンス」を披露してもらい、その後一言ずつ感想を聞きました。「緊張して手がつめたくなった」という子や「思ったより緊張せず楽しめた」などそれぞれの感じ方があった様子。9日間はあっという間に過ぎ去り別れはいつも名残惜しいですが、アーティストと出会い、ダンスに出会ったみんなが、それまで知らなかった気持ちや新たに見たかもしれない景色を抱えて、それぞれの毎日をまた元気に楽しく過ごしていると良いなと思います。
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セレノグラフィカ/ダンスカンパニー
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保育園の5歳児クラスで行われた、東山佳永さん(踊り手・美術家)のワークショップをご紹介します。身体を動かすことが大好きな子どもたちと、身近にあるものも使いながら動と静の動きを楽しめるような活動を、というリクエスト。5歳児ということもあり、少し静かに考えたりイメージを膨らませたりする時間があっても良さそう、と先生。『しずくのぼうけん』(作:マリア・テルリコフスカ、絵:ボフダン・ブテンコ)という絵本をモチーフに、身体と音で物語の続きを表現するという内容が組み立てられました。アシスタントに音響デザイナーの白石和也さんをお迎えして、雨の季節にぴったりな、子どもたちとの2日間の冒険が始まったのです。

まずは、陶器でできた「しずく」のネックレスを纏ったアーティストによるパフォーマンスと、『しずくのぼうけん』の読み聞かせからワークショップがスタート。絵本は、バケツから飛び出した「しずく」が、クリーニング屋さんやお医者さんを訪ねたり、空へ行ったり雨や氷になって旅をする、水の循環がテーマの物語。
しかし、絵本は終わってしまっても「しずく」がどうなったのかが気になるところ。そこで「絵本の続きを考えてみよう」とアーティスト。みんなで輪になって「しずくしずく どこに消えた~♪」というワルツに乗せた歌に、簡単な振りをつけハンカチ落としゲームのようにしながら、しずくの行き先を考えました。「ほし」「やま」「うみ」など子どもが答えると、アーティストが言葉と絵で紙に残していきます。そして最後は「雨になって、水道を通って、家に帰ろう」という物語が出来上がりました。

物語の続きができたら、今度は「しずくの足音」をみんなでつくります。ペットボトルやジョウロ、霧吹き、ストロー、空き缶やアルミホイルなどアーティストが用意した道具も自由に使って、いろんな音を探します。コップの中に水を入れ、そこに物を落として音を出していた子は、落とす高さによる音の違いに気づいたり、「ポトポトって音がする~」「こんな音どうかな?」とアーティストに見つけた音を知らせたり、友だちと相談したり、賑やかに活動しながらささやかな音にも耳を傾けていました。みんなが作った足音はその場で録音し、たくさんの「しずくの足音」をたっぷり捕まえて1日目の活動を終えました。

2日目、この日は子どもたちみんなが「しずく」になって冒険をする日。まず、しずくになる準備のストレッチ。手足をぶらぶら、寝転がって三日月の形になったり、身体を小さく丸めてコロコロ床を転がったり、静かに身体をほぐしていきます。身体の準備ができたところで「しずくの形ってどんなの?」とアーティストが聞くと、先の尖った形や丸い形をつくり始める子どもたち。そのまま「水の中へ」「冷たくなって氷になるよ」「お日様で溶けるよ」「葉っぱの上をコロコロ~」という言葉からイメージを広げて、身体を動かしました。

その後、一度みんなで集まって、前回のみんなで考えた物語からアーティストがつくった歌を聞きました。しずくの行き先を考える時に歌った「しずくしずく どこへ消えた~♪」というフレーズに呼応する形で「すいどうとおるよ せんたくぐるぐる おひさまかわいた くもにあつまり あめになったら にじをわたって やまについた もりをたんけん はっぱころころ うみへきたよ ほしをゆめみる」(作:みんな と かえ と かずや)というとても素敵な一つの歌になっていたのです。

そして、いよいよしずくの冒険の始まりです。「すいどうとおるよ」では、3人組になり、2人で輪をつくってもう1人が輪をくぐり抜けます。「せんたくぐるぐる」では、1人でグルグル回ってもいいし、誰かに出会ったら腕を組んで一緒にぐるぐる。「キャーキャー」大興奮で洗濯されていました。「くもにあつまり」では、床にテープで描いた雲に全員で入って身体をくっつけます。ギューッと抱き合う子もいれば、そっと頭に指先をつけるなど、くっつき方も様々。雨になって雲をピョンピョン飛び出したら、リボンでつくった虹を一人ずつ渡ります。

虹を通って山に着いたら、5人組で山の形をつくり、海の中では一人ひとりが自分の思う海の動きを考えて部屋中を動き回りました。魚になっている子、手を広げて早くスイスイ進む子もいれば、「ハートの貝を見つけたよ」とアーティストに差し出す子も。そして、たくさん身体を動かした長い長い旅路は、星に辿りついてお休みの時間を迎えます。「流れ星流れた!」「地球が見えた」など、子どもたちには保育室からでも宇宙が見えている様子。それぞれの見ている景色の大きさと広がり、豊かさには本当に驚かされました。

再び朝が来て、しずくの家に戻ったら早速「もう一回やりたい!」という声が。歌や音をつけながら、もう一度みんなで旅をしてワークショップを終えました。最後にみんなでつくった「しずくのぼうけん」を小さな本にしてプレゼントすると、ポケットに大事そうにしまってくれました。
振り返りでは、子どもたちがワークショップを楽しみに待っていてくれたことや、保育園でも最近冒険をテーマに日々の活動に取り組んでいたので、自然なつながりの中でワークショップも楽しめたのでは、というお話を先生から伺いました。アーティストが決めた設定もありつつ、その中で一人ずつの世界を広げていった子どもたちの姿に「みんなの中に‘自分でつくれる’という感覚が残っていけば」とアーティスト。アーティストから生まれる動きや音に軽やかに反応しながら全身でそれらを吸収して、自分たちだけの物語を紡ぐことができる子どもたち。そんな彼らがつくる未来を楽しみにしたいです。
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東山 佳永(とうやま かえ)/踊り手・美術家
https://www.children-art.net/touyamakae/

保育園の4・5歳児クラスで行われた、城俊彦さん・伊藤知奈美さん(「Co.山田うん」ダンサー)のワークショップをご紹介します。体操や外遊び、鬼ごっこなど、身体を動かすことが大好きな子どもたちなので賑やかな身体表現活動をやってみたい、との先生からのリクエスト。どんどん新しい動きを経験したり、友だちとふれあったり、みんなの前で踊ってみたり、汗だくになりながら一人ひとりのダンスを探す2日間となりました。

1日目、最初は「おはようございます!」の挨拶から。少し緊張した面持ちの子どもたちでしたが、手を上へ伸ばすなど動作もつけながら「おはようございます」を繰り返し、身体をほぐして自然と大きな声が出るようになっていきました。そして、元気よく挨拶をした後は自己紹介。事前に先生には「ガムテープに好きな名前を考えて貼って下さい」とお願いしていたので、ワークショップの間はみんな一人ひとりの「ダンサー名」で呼ばれます。「ひゃくじゅうのおう」「はっぴー」「ぱいなっぷる」「ひこうき」「ぶるーきのこ」など、バラエティ豊かな名前を、一人ひとりアーティストが呼びながらハイタッチ。その度に繰り出されるアーティストの動きにも、子どもたちの活動への期待が高まっていき、動きもどんどん増えていきます。
みんなの名前を呼び終えたら「おはようございます」から「こんにちは」、「よ」、「は」と言葉遊びのように言葉をつなげて、それに合わせた様々な動きを真似します。ほっぺを叩いたり、お尻を叩いたり、「おにぎりの具はなあに?」という質問に「お肉!」「お魚!」と子どもたちが答えれば、それをその場で取り入れて動きにしてしまうアーティスト。いつもとちょっと違う不思議な動きを次々に真似して動いていたら、いつの間にかアーティストとの距離もぐっと縮まっていきました。

たくさんの動きを経験した後は、その場で好きなポーズをいくつか考えて「ピタッ」と静止。ポーズが決まったら音楽スタート!「ドレミの歌」や「幸せなら手をたたこう」など子どもたちにも馴染みのある曲がジャズ風にアレンジされた曲を使い、振付を真似しながら一緒に踊ります。子どもたちは時には歌を口ずさみながら、右へ左へ部屋中をアーティストと一緒にめいっぱい動き回ります。

たくさん身体を踊った後は静かな曲を聞きながら寝転がり、深呼吸や伸びをした後、自分の身体や一緒に踊ってくれた友だち、お部屋にも「ありがとうございました」の挨拶をして1日目を終えました。
2日目は、1日目とは違うダンサー名を考えた子もいたり、「今日は何する?」と聞けば「ダンスの日!」と元気よく答えてくれたり、子どもたちが活動にもアーティストにも慣れている様子が伺えました。早速動きを真似しながら身体を動かし、自由なポーズで止まったら、音楽が始まります。1日目に踊った曲も、2日目に初めて踊る曲も、みんなノリノリで、決まった振りだけでなく自由な部分も混ぜながら踊ってみました。

そして、一通り身体を動かした後は、一人ひとりのダンスの時間です。まずは、アーティストがみんなの前で一人のダンスを披露。「すごい!」「いろんな踊りが踊れるんだ!」「じょこす(アーティストのこの日の名前)頑張って!」など口々に感想や応援を始める子どもたち。アーティストのダンスに目は釘付けです。

そして、アーティストが子どもたちの側に近づいていくと、踊りたい気持ちでいっぱいになった子が一人、また一人と踊り始めます。いきなり一人で踊ることを躊躇う子も、アーティストや友だちの手をとって、自分なりのダンスを小さい身体でしっかりと踊ります。

全員が一通り踊り終わった後「もう一回踊りたい!」という子どもたちの声が。「踊りたい人は踊ります」とアーティストが言えば、あっという間に全員が世界にたった一人のダンサーになり、自分だけのダンスをあちらこちらで踊り始めました。1日目にはあまり活動に参加できなかった子がフッとみんなの中に入って踊っていたり、友だちと手を取り合い二人でダンスを考えていたり、のびやかに花開いた子どもたちの身体から生まれるダンスに心奪われました。
終了後の振り返りでは、5歳児クラスの子どもたちが、4歳児クラスのワークショップ中も「楽しみがなくなっちゃうから覗かない」と子どもたち同士で決めていたというエピソードや、「自由に表現する(動いていみる)面白さを味わえる良い経験になった」という感想をいただきました。
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Co.山田うん/ダンスカンパニー
https://www.children-art.net/co-yamadaun/

先日、日頃お世話になっているボランティアスタッフの方々への感謝のしるしとして、そしてまた、今後ボランティアをしたいと考えている方たちに、当NPOの活動とボランティア業務について、よりよく知っていただくための機会として、交流会とささやかなパーティを開催いたしました。学生の方や、お仕事終わりに駆けつけて下さった方など、年齢も職業も様々な方々が参加して下さいました。
第一部では、当NPOの全体の事業概要や、ボランティアさんにお願いする仕事内容、私たちが大切にしている想いなどを、映像やスライドを交えながら説明しました。実際のワークショップはどんな様子なのかを、実際にボランティアを経験されている方にも、エピソードを交えながらお話ししていただくなど、現場の雰囲気がなるべく伝わるようにしました。また、参加者の方にも自己紹介や、興味のある分野についてお話していただきました。

第二部では、隣の教室に移動してドリンクや軽食を用意して、スタッフに聞きたい事や参加者同士での情報交換など、ざっくばらんにお話して頂けるよう、グリグリという畑活動やえほんの会の写真をスライドショーで流しながら、リラックスした雰囲気で行いました。
ボランティア経験者の方が、現場の雰囲気や子どもたちの様子をより詳しくお話をして下さったり、参加された方が勉強、研究されている事など、いろいろなお話をお伺いすることができ、スタッフにとっても有意義な時間となりました。

事務局スタッフが少人数な事もあり、ボランティアの皆様のご協力があってこそ、活動が継続できることを改めて実感し感謝する一日となりました。
また、パーティーに参加された方で、早速6月から始まる保育園や幼稚園でのワークショップに申し込んで下さった方もいます。この日だけでは分からなかった事、伝わらなかった事など、また現場で皆様にお会いして交流を深めていけることを楽しみにしています!
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※この日も何回かご質問がありましたが、6~7月は幼稚園・保育園が主になり、8月(夏休み)は公共ホールでの舞台作品をつくる公募型ワークショップ、そして9月以降3月まで小学校・中学校(特別支援学級含む)でのワークショップが続く、というのが当NPOでの大まかな一年の流れとなっております。その都度メールマガジンでボランティア募集を行っておりますので、ご興味のある方は下記リンクより是非ご登録ください!
ボランティア募集→https://www.children-art.net/volunteer/

小学4年生61人と取り組んだ、水内貴英さん(美術家)のワークショップをご紹介します。「空間で遊び、楽しくコミュニケーションとりながら形ができていき、クラス全体で空間を大きく使った作品をつくりたい」という先生からのリクエスト。各クラス2日間、実際に作業できる時間は3時間弱という短い時間が課題でしたが、『フォールダウン・オブジェクト~一瞬の作品~』と題して、作品を落下させる事で一瞬だけ成立する作品を制作することになりました。
ワークショップの導入は、アーティストの自己紹介。「変な事を仕事にしています。」と挨拶した後、実際にどんな作品を作っているか作品を見せながら説明します。興味をもった子どもたちから「それ今日作るの?」「すごい!」などあちらこちらで声が聞こえます。アーティストは「つくるのも仕事だけど、思いつかないと作れない。思いつくのが大変。みんなも自分の創造力をいっぱい使って、面白いことを思いついてください。」とメッセージを送り、この日のワークショップの説明へとつなげました。

落下させる作品ということで、空中にくす玉のような装置を設置し、その中に、子どもたちが自由に制作した作品を仕込んで、最終的にはみんなで一斉に落下する瞬間を眺めるという内容です。装置の使い方や、材料の説明をした後は、一斉に作業に取り掛かりました。
子どもたちは、見本で見せたパラシュートや紙飛行機のつくり方をアーティストやスタッフに教わりながら発展させたり、材料からインスピレーションを得てどんどん新たな形を生み出していったり、迷うことなく手を動かし始めます。作ったものは各自自由に装置に仕込んで、実際にどんな風に落下するか試していきます。装置の扱いがなかなか難しいので、自然と何人かのグループになって作業を分担する子もいれば、自分の作りたいものを大切にして、落下させる時だけ手伝ってくれる人を交渉して見つけるなど、様々なやり方で制作を進めます。

スタッフが見ていると、「それは絶対失敗するなあ。」と思うような特大のパラシュートを作り始めた子が。実際に落下させてみると、やはり紐が長くて重すぎるため上手くパラシュートが開きませんでした。しかし、彼はそこで諦めることなく、工夫すべきて点をアーティストと相談しながら再チャレンジ。子どもたちは失敗を重ねる中でどうすれば成功するのか、装置はどのように使えば良いのか、次々に学んでいっている様子でした。そうしているうちに時間はあっという間に過ぎ、納得できる結果が得られたグループもそうでないグループも一旦作業を終了。次回への期待を胸に挨拶をして学校を後にしました。

そして一週間後、2回目のワークショップは、装置の数を全員分に増やし、最後には一斉に落下させる時間を設けることを説明して作業に取り掛かりました。体育館に入って来た時からヒソヒソと何やら作戦を立てて話を聞くより作業をしたい気持ちが溢れていた子どもたち。この日も迷うことなく作業に取り掛かり、1回目とは違う事に挑戦したり、前回の内容をさらに工夫して発展させたりしがら、黙々と作業に入っていきました。

どんな風に見えるか何回も試してみたり、扱う素材を増やしてみたり、途中で糸が絡まったり装置が引っかかったりするなどのトラブルもちらほら見かけますが、大人も協力しながら、限られた時間の中でも力を尽くします。装置自体にも飾りを付け始める子や、垂れ幕のようなものを作ってメッセージを描いているグループ、プレゼントのようにラッピングする子など、様々な工夫が増えていきました。

そして最後は、いよいよ列毎に同時に落下させます。装置の準備を揃えるだけでも時間がかかりましたが、「私が持っていようか?」「ひっぱるのやっていいよ。」などお互いに協力し合いながら何とか設置完了。「5、4、3、2、1!」のカウントダウンで一斉に落下です!本当にほんの一瞬でしたが、キラキラした陽射しの中をフワフワと舞い散る作品に子どもたちからも歓声が。終わりの挨拶では「自分にしかできないことを考える。誰の真似もできなくなった時に、何もないところから考える。そういう事を思い出してくれたら嬉しいです。」とアーティスト。たくさんの創造力を秘めた子どもたちだったので、これからも面白くて楽しいことでいっぱいの毎日をつくってくれるといいなと思いました。
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水内貴英/美術家
https://www.children-art.net/mizuuchi_takahide/

小学校の特別支援学級で取り組んだ、上村なおかさん(ダンサー・振付家)によるワークショップをご紹介します。昨年度は美術家のアーティストとワークショップを実施した学校ですが、「ゲストが来て何か楽しいことをしてくれた」という体験を継続していきたい、という先生からのリクエスト。今年はダンスや音楽を使って自由にのびのびと表現活動を楽しめるようにということで、友だちと関わったり、普段動かしてない動きを経験したりするような内容に取り組むことになりました。アシスタントにはダンサーの戸川悠野さんをお迎えして、3日間実施した中から2~3日目の様子をお伝えします。

まずは2日目。ワークショップの始まりは身体をほぐすところから。足の先をマッサージしたり、肘、お腹、と身体の部分を一つずつ触ったりつまんだりして感触を確かめ、色々な触り方で自分の身体を労わるようにしてくまなく全身にふれました。続いては二人組のワーク。一人が寝転んで、もう一人が手を差し出した所へ順に足を伸ばして触れていきます。アーティストが見本を見せた後に早速やってみると、上下左右あちらこちらへ差し出される手によって、様々な身体の形が生まれると同時に、相手が届かない所へは差し出さないという自然な優しさも見られました。そうしてだいぶ身体がほぐれたら、次はタンバリンの音に合わせて「シャラララ」と鳴っている時は動いて移動、「パン!」の合図でピタッと静止するワークへ。移動はただの移動ではなく、アシスタントの方へ向かって好きな動きを考えながら進みます。6年生の男の子がスーパースローでゆっくりゆっくり時間をかけて歩く様をアーティストが取り上げ、みんなでその足の動きを観察しました。止まる時は相手にそっと触れて止まります。相手が痛くないように、自分の身体が気持ち良いようにしながら、ゆっくり動く難しさも感じて身体の感覚が開かれていくようでした。
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その後は、教室に青と黄色のビニールテープを交互に一直線に貼り、その上を一人ずつ歩きました。青はゆっくり、黄色は速く、また青になったらゆっくり歩きます。速い遅いも一人ずつ違ったスピードがあります。あっという間に端までたどり着く子、じっくりじっくり少しずつ歩を進める子など、一人ひとりの違いをアーティストが認めながら、息を呑むような静かなソロダンスが続きました。最後には、ビニールテープをあちこちに貼って、音楽をかけながら自由にテープとテープの間を移動、色のルールはそのままに全員で踊る時間です。細いテープの上に同時に何人か集まってギュウギュウになる時もありますが上手く譲り合ったり関わり合ったりして、最後の最後は「今日の形!」でポーズを決めて終えました。
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最終回となる3日目は場所を変えて体育館での実施。校庭に雪の残る寒い日でしたが、広々とした環境の中でたくさん身体を動かす事ができました。最初の身体ほぐしは、お尻だけ床に付けてクルクルと回ったり、全身をブラブラさせてジャンプをしたり、足を開いたり閉じたり、これまでと同じように丁寧に自分の身体に向き合っていきます。続いては、差し込む陽の光を利用して、日向を海に見立てて魚になって動いてみました。アーティストがトーンチャイムを鳴らしながら「いろんな泳ぎ方考えていいよ」と言えば、「ホオジロザメになる」など口々に言いながら、床は冷たいのにニコニコと嬉しそうにそれぞれのイメージを広げていました。
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その後は、体育館に元からある色の線を利用してのワークです。子どもたちにもアイデアを聞いて、赤は「クルクル回る」、白は「滑る」、青は「ブルーなのでブルブル(学校でダジャレが盛んな事を発見したアーティストのアイデア)」、黄色は「カチンコチンで形を決めて止まる」、緑は「ゆっくりと森の生き物になって動く」というルールを一色ずつ確認しながら取り組みました。もちろん全てのルールをアーティストが指定する事もできましたが、この日の子どもたちの様子を見てアイデアを出してもらう事に。結果的に自分たちが決めたルールということも、取り組みへの意欲を高めたようでした。
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アーティストは、色ごとにタンバリン、鈴、マラカス、トライアングル、トーンチャイムと楽器でその場で音を付けながら、面白い動きを認めたり一緒に動いてみたり、子どもたちの表現を広げる環境を作っていきました。子どもたちは色ごとに違う動きにもしっかり反応して、線の上で渋滞になっても喧嘩したりはせずすっと避けたり、出会った友だちと一緒に動いてみたり、様々な関係性も垣間見えました。

その後は一人のダンスの時間。体育館の真ん中を端から端まで「途中にあるポール立ての銀色の蓋の上はジャンプして、それ以外は自由!」と説明してスタート。やりたい子が次々に手を挙げました。かなりの距離ですが、堂々と前を見つめ床を見つめ、くるくると、しっとりと、軽快に、そして時に戸惑いながら一人ひとりのダンスを披露、順番を待つ子どもたちも静かに見守ります。全員が終わってもまだ踊り足りない様子で、「2回目も良いよ」とアーティストから声がかかると、一人ずつではなく次々と前へ進み、そのまま全員でのダンスへ突入。再び一通り色の動きをした後は、一曲分の自由ダンス。広いと思った体育館が狭く感じる程、子どもたちの身体が空間を清々しく埋めていきのびやかに表現する姿に見とれているうち、あっと言う間に終了の時間となりました。
最後の振り返りでは、「見所がちょこちょこあって、みんな音の変化も良く聞いていた。視聴覚室で実施した前回までの経験が残っていて、体育館へと場所が広くなったことで、みんなの中でも表現が広がっていた」とアーティスト。先生からは、「普段ダンスというと運動会行事など決まった動きのものになり、そうすると“できない”“他の子と一緒の動きにならない”などとなってしまうが、ワークショップを通して創作する楽しみを学ぶことができたと思う」との感想をいただきました。毎回先生たちもワークショップに一緒に参加して下さって、子どもたちの変化を丁寧に拾いながら細やかにサポートしていただけた事も、子どもたちがのびのびと安心して表現出来るあたたかい環境につながっていて、子どもたちや先生との再会ができたことを心から嬉しく思いました。
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上村なおか/ダンサー・振付家
https://www.children-art.net/uemura_naoka/

2学期は、学芸会や音楽会などの行事に関わるワークショップの依頼も多くなります。その中で、学習発表会に向けて『ユタと不思議な仲間たち』という物語に取り組んだ、小学5年生57人とのワークショップを紹介します。東京育ちのユタが両親を亡くして東北の学校へ転校。座敷童との出会いによってたくましく成長していくお話です。
アーティストは、通称「なにわのコレオグラファーしげやん」こと、北村成美さん(振付家・ダンサー)。今回は、発表日を含めて全6日間しかないので、台詞の指導などは先生が担当、アーティストは身体表現を取り入れた、オープニング、座敷童が自己紹介をする場面、座敷童とユタが乾杯する場面、そして最後に座敷童が旅立ち「友達はいいもんだ」を歌うエンディングの4つのシーンを主に担当することになりました。
さて、初日は「全員の顔が見えて、全員に顔を見せられる場所に3秒で移動してください。答えを人に言わない。」と、いきなりアーティストの問題から始まりました。「1、2、3!」の掛け声で、戸惑いながらも一応正解と思う場所へ移動する子どもたち。最初はみんな舞台に上がってしまい、「それみんなの顔見えてる?」とアーティストは一蹴。「1、2、3!」とできるまでやり直します。そのうち、子どもの中から「円になったらいいんじゃない?」という囁き声が。次第に円が出来てきたところで、「みんなの顔が見えてるなら合図なしで出来るはず。」と、無言でタイミングを合わせて移動、アーティストへの集中力、呼吸がぐっと一点に集まっていきました。
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円が形になってきたところで、そのまま無言でアーティストがいろいろな動きを始めると、アーティストを見つめていた子どもたちが何も言わずにその真似を始めます。床を叩いたり、回転したり、寝そべったり、時に「シュッ」「ハッ」と声も出しながら、様々な動きを真似します。
そうして開始から30分ほどたった頃、真似の動きの流れで正座をして、呼吸を合わせて「よろしくお願いします!!」と挨拶したところで、改めてアーティストが自己紹介と説明をしました。これからのワークショップについて「みなさんに対してもプロと同じようにやります。ただちょっと根気がない。」と叱咤。改めて真似の動きをしてもらい、アーティストの動きを見てから真似をすると、動きにズレが生じることを気づかせます。では、「見る」とはどういうことか。おもむろに男の子を円の中心に連れ出し即興で踊るアーティスト。踊り終えると「分かった?」「ハイ、二人か三人でどうぞ!」と全員に向かって投げかけます。二人組で何をするか言葉での説明は一切ないので「えっ?」と言いながらも、相手を見つけて何やら動き出す子どもたち。対面するという関係性、気分を合わせる、ということを体験するため、何パターンか二人組の動きを繰り返し「これは遊びじゃないねん。全身で見るからお客さんも見る。」と語りかけると、アーティストが見本を見せる時の子どもの静けさも増していきました。言葉で説明するのではなく、見つめる、呼吸を合わせる、感じる、など身体全部を使っての対話が生まれていたように思います。
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2日目、この日は「よろしくお願いします!」の一言の後は、何も説明せずに、真似の動きから始まりました。子どもたちは既に慣れた様子で、水泳の動き、お尻歩き、何かを投げる動作など、アーティストと呼吸を合わせて動きます。
そして、またみんなの顔が見えるよう円になったところで、これからは学芸会に使う動きをつくっていく事を伝え、オープニングや座敷童の自己紹介にも使う「名前ダンス」の創作に取り掛かりました。四人組になり、一人ひとりの名前を全員でも踊れるようにと指示を出したら早速スタート。どんどんアイデアが出て何個も振りを考える子、1つのアイデアに辿り着くのにも時間がかかる子、様々なグループがありますが、時折1つのグループを取り上げてポイントを全員に伝えながら創作を進めます。一人の名前でも4人で手をつなぐなど協力して動きを作っているグループ、好きなスポーツの動きを取り入れるグループ、掛け声に工夫をするグループなど様々。更に、4人の名前を続けてテンポよく踊れるように「せーの」という掛け声をなくす事、「大事なのは終わりと始まりがあること。終わったらちゃんと止まる!」など精度を上げるよう各グループを回って声掛けをしました。
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そして振りが決まったら、1グループずつ発表です。少しでも終わりのポーズが決まらないと「何やってんの!?」、服を気にして触ってしまうと「振付にないことはやらんといて!」、その他にも「私プロやし、こんなん許されへん!」「面白くないもの作るんやったら、やらん方がいい!」等々、アーティストから激が飛びます。どんどん子どもに詰め寄り、一つ一つの動きに納得できるまで、一切の妥協を許さず何度も何度もやり直してもらいます。すると、見ている子どもたちも発表の後に拍手をするべきかどうか判断するようになりました。拍手をもらえないのは何故か、拍手したい気持ちになるような動きとはどういう事かを身体で感じ取ったようで、最後に全員で一斉に名前ダンスを踊った様子は壮観でした。何を見せたくて、何を見せたくないのか、この日の振り返りで先生が仰った通り「前回までは「楽しい時間」だったのが、「発表して見せる。」という意識に変わった。」という2日目でした。
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そして配役も決まり、ひな壇など舞台も設えられた3~4日目は、名前ダンスを取り入れたオープニングや、初回の真似の動きを使った乾杯のシーンなど、どんどん動きを決めていきました。お話の中で57人全員が一度に登場することは難しく、登場人物は4場面に振り分けて配役が決められていますが、全員が登場して一人ひとりが考えた自分の名前ダンスで始まるオープニングは、これからどんな物語が始まるのか、見る人の期待を煽ります。
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乾杯のシーンでも、場面の登場人物以外のひな壇で待機している子どもたちも登場して、タイコに合わせて掛け声をかけたり全員で踊ったりする工夫をしました。乾杯のしぐさ一つとっても、中途半端な飲み方では伝わらない。そこに無いものをあるように見せられるように、アーティストも実際に違いをやって見せながら、一つ一つ丁寧に伝えていきました。
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途中、ワークショップがない期間は先生に練習を任せて、あっという間に迎えた5日目はリハーサル。リハーサル直前の控室では、アーティスト自身も舞台に立つ前にするという儀式を子どもたちと行いました。「舞台に立つと自分一人やけど、みんなに見られたりするやんか。でも、お客さんに伝える時も、お互いに向かい合ってきちんと挨拶することと同じ。」と、全員がお互いに一人ひとりと握手をしてリハーサルに臨みました。
そしてリハーサル後、教室に戻った後は本番に向けてさらに完成度を上げる時間。「せっかくここまでやってんから、もっとよくなる!」というアーティストの言葉に、「もっと進化させる。」という子どものつぶやき。「一人くらい大丈夫。」と思っている人が一人でもいたら台無しになるからと、オープニングの名前ダンスを、改めて一グループずつやってもらいました。出来ていなければすかさず、「声も何もかも小さい!」「何も伝えてへん!!」「一番大きい声出してみて!」とアーティスト。自分の番ではないグループの子も、お互いに顔を見合わせて自分たちの動きについて本当に大丈夫か確認を始めます。そして、ある子が何度も何度もやり直しをさせられていると、いつの間にか周りがその子の動きを覚えて動き出しました。
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一人を囲んで全員がその子の名前を呼び、その子の動きをやってみる。アーティストが声をかけたわけでもないのに、自然に動き出した子どもたち。何度も何十回も、自分の名前に加えて友だちの名前、いくつものダンスを繰り返していると一つ一つは一瞬の動きなのに、いつの間にか袖を捲りあげ、肩で「ハアハア」と息をする子どもたち。みんなの熱気、そして気持ちが教室中に満ちていきました。更に、終わりのポーズが中途半端な子には、周りからも「ちゃんと止まった方が良い。」とアドバイスや、「しゃがんでみたら?」などポーズを提案する姿も見られるように。次のグループへ進もうとすると自ら挙手して見て欲しいとアピールし、アーティストの気合いに全く引くことなく応えていく子どもたち。何回も繰り返すうちに動きは良くなりましたが、「お客さんには一発目でこれができなあかん!」とアーティスト。結局一時間弱を名前ダンスに費やしましたが、その中で伝えたことが全てにつながっている気がしました。
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そして、後は子どもたちがやりきってくれる事を信じるのみ、と迎えた発表の日。児童鑑賞日と保護者鑑賞日の2回の発表のうち、アーティストが来られるのは一回目だけ。出会ってから約一ヶ月、振り返れば初めはアーティストの言葉に全く反応しない子がいたり、気がかりな事もありました。でも、ここまで子どもたちも先生も一丸となって迎えた本番。様々な想いを胸に始まったオープニングから最後まで、一瞬一瞬、一人ひとりが舞台の上で楽しんでいる様子、緊張している様子、そして観客が物語の世界に引き込まれ会場の空気が変わったことを感じました。しかし、ここまで一緒にやってきたみんなだからこそ、「もっとできるばず。」と、発表後にはアーティストから2回目の発表に向けて最終チェック。今まで、どんな事にも一瞬で応えてくれたからこそ、どこまでも登っていけそうな気がする子どもたちの勇姿に胸が熱くなりました。
校長先生が会の始まりの挨拶で、「お客さんが、劇を観る前と観終わった後では世界が違って見えるような劇を。」と仰っていましたが、スタッフも毎回子どもたちの姿に驚き感動し、この出会いによって世界が違って見えたような気がした6日間。このような出会いをくれた、子どもたち、先生、そしてアーティストへの感謝の気持ちでいっぱいです。
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北村成美/振付家・ダンサー
https://www.children-art.net/kitamura_shigemi/

小学校の特別支援学級で行われた、音楽家の港大尋さんによるワークショップをご紹介します。昨年度も同じアーティストでワークショップを実施した学校で、今年は「港さんと、とにかく音楽と身体を自由に動かすことを楽しみたい。」という先生からのリクエスト。子どもたちの中に去年のことが何らかの形で残っているようなので、同じアーティストで継続して取り組む方が、安心してより面白い表現が引き出せるのでは、という先生の言葉もあり、同じアーティストにお願いする事になりました。アシスタントにはダンサーの渋谷陽菜さんをお迎えして、3日間のワークショップを実施しました。

ワークショップ初日、子どもたちとの久しぶりの再会。まずは、低学年グループでの実施です。去年と変わらない笑顔を見せてくれる子もいれば、1年生など初めましての子どもたちもいるので、まずはご挨拶。アーティストが「覚えてる?」と聞くと「覚えてな~い!」と返事をした子も、アーティストがジャンベ(アフリカの太鼓)を叩き出すと手拍子をしたり、自分たちも叩きたがったり、去年も聞いたリズムや音にすんなり反応していきました。
一人ずつ叩きながら、真ん中と端を叩く時の音の違いを使って簡単なリズムを叩いていると、ある男の子が、ジャンベを持ち上げた底は空洞になっていて、そこに風が発生することを発見。穴に顔を近づけて風を感じて確認し始める子も出てきました。
そうしてジャンベに慣れた後は、リズムに合わせて身体を動かしていきます。途中、ジャンベの音にあわせてダンサーが即興の踊りを見せました。教室を暗くして、まるでジャングルのような雰囲気の中で踊ります。何に見えたか聞いてみると「ライオン」「蛇」「オオカミ」「宇宙人」「アナコンダ」など、様々な生き物に見えた様子。じゃあ、みんなも一緒に踊ろうということで、ジャンベの音を聞きながら、時にダンサーの真似もしつつ、一人ひとりが即興でいろいろな動物になって踊りました。
一方高学年グループでは、ジャンベで一人一人にリズムを考えてもらうことにも挑戦。「トントントン」「タンタタタンタン」「カカカカカカカ」「タンタタタタタンタン」など、みんなで真似してジャンベを叩いたり言葉にもしたりしました。さらには、出てきたリズムにあわせて即興の動きをつけながらダンスをしました。昨年もジャンベを叩いたりダンスを踊ったりした仲間なので、アーティストがどういう事をするか、お互いの勝手がなんとなく分かっている事や、子どもたちの期待度の高さを感じた1日目でした。

2日目と3日目は、昨年度の経験があってこその子どもたちの反応の良さや、ワークショップへの期待も踏まえて、いくつかの歌や踊りに取り組み、最後には、低学年と高学年で一緒に発表する時間を設けるという計画で臨みました。高学年グループと一緒に取り組んだのは、アーティストの港さん自身による作詞作曲の『がやがやのうた』と、喜納昌吉氏の作詞・作曲の『花』。どちらの曲も歌いやすい歌詞やメロディーで、何回か歌っていると自然に子どもたちの声も大きくなっていきます。ピアノを弾くアーティストの側にくっついていたり、ジャンベを曲に合わせて叩く子もいたり、それぞれの参加の仕方を受け止めつつ、時には歌詞を読みながら言葉の意味も確認していきました。『花』の間奏部分で一人ひとりがソロで踊るシーンを入れたり、「川はどこに行くの?」と問いかけながらイメージを広げて子どもたちにアイデアを出してもらって振付を考えたりしました。

一方、低学年グループは『がやがやのうた』と早口言葉&ダンスに取り組みました。「はらっぱでラッパをふいた」「はらっぱで立派なラッパをふいた」「カッパがはらっぱで立派なラッパをふいた」と少しずつ単語を増やして文章を長くしていきながら、身体の動きもつけていきました。どんどんどんどん言葉が増えて文章が長くなりますが、「もうちょっと足していい?」と聞けば「いいよ!」と答える子どもたち。カッパの動きを考えていたら、動物博士と呼ばれる男の子がカッパの生態について教えてくれるなど、話も弾む中で踊りも組立ていきました。そして最終日には発表することを伝え、歌や早口言葉を少し練習してもらうようお願いして2日目のワークショップを終えました。

そして迎えた最終日。それぞれが発表する歌や早口言葉を何回か練習してからお互いに鑑賞です。直前には、アーティストと円陣を組んで先生にも秘密の作戦会議。ワークショップでやった事に更にひと工夫を加えて発表しました。高学年だけが取り組んだ『花』のサビ部分をみんなで一緒に歌ったり、低学年だけが取り組んだ早口言葉を高学年にも教えてあげたり、お互いが経験した時間を共有して、最後は『がやがやのうた』を全員で歌い踊りました。先生もギターで参加したり一緒に踊ったり、一人一人のバラバラが、音楽の中で心地よく混ざり合い、温かい時間となりました。


最後の振り返りでは、「踊りたい人?と聞いた時に何の表情も変えずにサッと手を挙げて踊ることができる。そういう反応が今の世の中に欠けているんじゃないか。音楽があって通じ合った瞬間だった。」とアーティスト。昨年の経験もあったからなのか、今回は去年以上に、アーティストの「歌ってみよう。」「踊ってみよう。」という投げかけに対する迷いのない反応の良さに驚かされましたが、音楽やダンスを通してのコミュニケーションが、子どもたちの持っている様々な表現を色とりどりに引き出していたのだと思います。
また、先生からは、アーティストの言葉かけが「座りなさい。」ではなく、「座っちゃおうか。」など肩の力の抜けた雰囲気でとても良く、指示がなくても子どもたちは「港さんと動いていると何となく楽しいことがある」というのを分かっている、という感想をいただきました。ピアノを弾けなくなるくらい日に日にアーティストに接近するなど、目に見える距離の近さもありましたが、そうした関係性の中でお互いに気持ちよく表現を分かち合うことができたような気がして、幸せな気持ちで学校を後にしました。
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港大尋/音楽家
https://www.children-art.net/minato_ohiro/