小学校の特別支援学級で行われた、美術家の中津川浩章さんによるワークショップをご紹介します。普段は個人製作が多いので共同制作に取り組んでみたい、活動の中で「これ僕の!」と自信を持って表現してほしい、という先生からのリクエスト。一つの教室を丸ごと制作スペースに変えて、20人の子どもたちと2日間のワークショップを実施しました。

部屋に入ると用意されていたのは3m×3mの大きな画用紙。まずは紙の周りにみんなで座って、中津川さんからの説明を聞きます。絵具を使っていろんな絵を描くことを説明した後は、早速絵具をみんなに配ります。用意したのは発色の良いポスターカラー。黒以外の色を薄めに溶いて、手ごろな大きさの入れ物にいれ、一人一色と、好きな大きさの筆を選びます。色を選ぶにも、同じ色だけを使う子やいろんな色を試してみる子など、一人一人の好みが現れます。
そして、いよいよ制作スタートです。最初は一人ずつ、画用紙の上に乗って「まっすぐな線」を描きました。短い線や、画用紙の端まで続く長い線、四角になる線など様々な色と味を持った線が描かれていきます。子どもたちの「描きたい!」という気持ちもどんどん高まり、二人ずつ、四人ずつ、と描く人数も増やしていきました。薄く溶いてあるので、お互いの線が重なったり交わったりした部分も、綺麗な色の重なりを見ることができます。

最終的には全員で画用紙の上に乗り、中津川さんから注文の出るいろいろな種類の線や点、円などを描いている内に、子どもたちの心も次第に開いていくのか、一人一人の自由な線が広がりを見せるようになります。

そして一通り画面が色で埋め尽くされた後は、一度スポンジで水分を拭き取り、その上から、濃く溶いたポスターカラーを使って描いていきました。動物に乗り物、一人一人の好きなものも見えてくる瞬間です。具体物だけでなく、しずくを飛ばしたり、いろんな色の塗り方も試みたりしているうちに、ポスターカラーもどんどんなくなり、あっと言う間に作品が完成しました。

完成した後は、2日目に向けてそのまま乾かします。今回は途中から紫が大人気になり、海や宇宙をイメージさせるような作品になったかと思いきや、乾いてみるとまた違った表情になり、筆の跡やドリッピングの跡が見えるようになり、たくさんの小さな世界がギュッと詰まった大きな作品になっていました。
そして、土日を挟んでの2日目のワークショップ。今日は何をやるのか待ちきれない様子の子どもたちに、何をするのか説明します。「みんなで動物ワールドを作ろう」というテーマのもと、まずはどんな動物を知っているかを聞いてみました。ライオン、ヘビ、ウシ、ペンギン、ゴリラ、コンドル、キツネ、ゾウなど次々に動物が出てきます。
しかし、「じゃあその動物たちを、1日目に描いた絵から切り出してみよう。」という説明には、「難しい!」という声も。アーティストは「正確じゃなくてもいいよ。こんな動物いたらいいな、という動物でもいいし、動物が生きていくのに必要な木や水も作っていいよ。」と話していきます。さらに、「鳥とか作るのに、羽と胴体バラバラに作っていい?」「間違えたら違うの作ってもいい?」「誰かと一緒に作ってもいい?」などどんどん質問が出てきて、それに答えるたび、子どもたちもどんな風に作るかイメージを持てた様子でした。そして、「失敗したら?」という質問には、「失敗はないです。失敗したら、またそれをどうしたら素敵になるか考えるのも楽しいと思わない?」というアーティストの答え。作品のうまい下手を気にしてしまう子どももいるらしいですが、「失敗していい」と言ってもらえた事で、楽しんで制作に取り組めたと先生から終わった後に教えてもらいました。
見本を見せずに言葉だけの説明ではちょっと難しいと思うことも、アーティストの声掛けや、一人一人の表現をそのまま受け止めるという雰囲気を作ることで、安心して制作に取り組める環境を整えることがとても大切だと思いました。

さてさて、質問が終わったら早速画面を切り取りに行きました。最初はグループの代表が大きめの画面を切ってみんなに配っていましたが、だんだん慣れてくると、みんなそれぞれに好きな分だけ好きな形で切り取っていきます。ペンギンにコンドル、ネズミにアザラシなど、思い思いに動物を切り貼りしていきます。大きなゾウを作った子は、「飼育員さんも!」とゾウの鼻に人を乗せていました。そのうち、アンコウや潮を吹いているクジラも登場、緑の部分を切り取っていたら「カエルになっちゃった!」と偶然できた形も楽しみつつ、真っ白だった画面が、様々な生き物の暮らす素敵な世界に生まれ変わりました。

1時間ほど制作に取り組んだ後は、一度みんなの作品を鑑賞して、自分の作品の事や、友どもたちの作品の良かったところなど、感想を聞かせてもらいました。
実施後の先生のアンケートでは、「ダイナミックに表現する楽しさ、描きながらいろんな色が混ざっていくおもしろさを味わうことができた。」「一人一枚の画用紙に向かうのではなく、大勢で大きな作品をつくる体験ができた。」などの感想をいただきました。

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中津川浩章/美術家
https://www.children-art.net/nakatsugawa_hiroaki/

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「ダイナミックな造形を子どもたちに体験させたい」という要望を幼稚園より受けて、美術家・山添joseph勇さんによる造形ワークショップが開催されました。全2日間行われたワークショップの2日目、5歳クラスの様子をレポートします。
朝9時半。園のホールに集まった子どもたちは14人。お休みの子がいたので、ちょっと少なめです。ホールには大きなケースにびっしりつまったたくさんのせんたくばさみ。そして大きなモニターには、色々な形をした、色とりどりのせんたくばさみが次々に映し出されていています。
「おはようございます」と話を切り出した山添さん。「今日は何も用意していないけど、せんたくばさみをたくさん持ってきました。何かを作らなくてもいいので(壁面状の空間に)くっつけたり、服や体につけたりして遊んでみてください」
それだけ子どもたちに伝えると、まず5分くらい、モニターに映し出したせんたくばさみを眺めていてもらいました。普段見慣れているせんたくばさみのはずなのに、形も色も、こんなに色々あることに子どもたちは早くも気づいた様子。「これはフランスのだよ」と山添さんが言うと「えーー?!」と驚きの声。今日は面白いことになりそうと、子どもたちも予感がしたようです。
「じゃあはじめよう」という一声で子どもたちは一斉にせんたくばさみの周りへ集まりました。赤、白、黄色、みどり、ピンク、青、半透明のものなどだいたいの色ごとにわかれていますがそれぞれの色のなかにも微妙な色違いがあるので、全部で200色くらいあるとのこと。奥の深い色彩と、多種多様な形の洪水には、圧倒されるインパクトがあります。子どもたちは、さっそく手にとってつなげてみたり、服や髪の毛につけてみたり、壁面のように無色透明のビニールを張った空間に挟んで遊んだり、大中小のサイズがそろったせんたくばさみを家族に見立てて、即興で物語を語ってみたり、自分一人の空間をとって、ひたすら何かをつくろうとしたり。本当に色々なことをして遊びはじめました。どうしたらいいかわからなくてぼーっとしちゃう子は一人もいなくて、みんなどんどん手を動かしてはせんたくばさみで何かしようとしているのが気持ちいいくらいでした。
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せんたくばさみという、つなげるのも切り離すのも、子どもが簡単に扱うことのできる非常にシンプルなツールゆえ、広がりは無限で、時間の経過とともに変わりゆく子どもたちのせんたくばさみとの関わり方は見ていてとても興味深いものがありました。個人の作業がグループ作業に変わったり、一度やりきったものを全部壊してまったく違う新しいものを創りだそうとしたり、個人の作業が終わったからと、友だちのためにせんたくばさみを集める作業をすることにしたり、どこまでもひたすらつなぎ続けていたり・・・。山添さんが「あと10分くらいで片付けの時間だよ」というまでは、この遊びはエンドレスに続くのではないかと思われるほど、子どもたちは夢中になってせんたくばさみと向き合っていました。
最後は、作ったものも、つなげたものも全部崩し、あちこちに散らばったせんたくばさみをかき集めて、色ごとに元のケースに納めておしまいとなりました。作っていく作業と片付ける作業は、目的も意味も異なるものですが、色の美しさのせいか、どちらもとても創造的な作業に感じたのは私だけでしょうか。
ワークショップに参加した先生たちも、せんたくばさみの奥深さを実感してくれて、これからは園の遊びに取り入れたいと前向きな感想をいただくことができました。
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山添 joseph 勇(美術家・深沢アート研究所代表)
https://www.children-art.net/yamazoe_joseph_isamu/
★せんたくばさみ会議 https://pegs.exblog.jp/

保育園の4歳児クラスで行われた、グラフィックデザイナーの種市一寛さん&宮添浩司さんによるユニット「バレ・バレ」のワークショップをご紹介します。アーティストの方が提案してくれることはいつも刺激になるので、こういった機会を楽しみにしているし、作ることが多少苦手な子も思いっきり楽しんで、今後の制作へつなげていけるような活動を、という先生からのリクエスト。会場は保育室で、いつもの部屋をまるごと海の中に作り変えてのワークショップとなりました。

まずは、ホールで子どもたちと出会います。挨拶の後は海の絵本を見せながらの導入。見た事のある魚の名前などを口々に話し出す子どもたちに、「これからみんなで海に探検に行きたい人?」と尋ねると、「行く!」と元気に答える子や、「ちょっと怖い」と答える子も。そこで、海に行くために「魔法のスーツ」を装着します。ポリ袋で出来たスーツですが、子どもたちのワクワク感が高まって、そのまま海の中(保育室)へと出発です!
最初の数秒はソーッと部屋に入る子どもたち。でも入ってしまえばもう気持ちを押さえずに、てんこ盛りになったすずらんテープの山に埋もれたり、壁に貼られた魚たちや天井のネットなどに触ったり「ワーワーキャーキャー」大興奮の子どもたちに、大人も笑いが止まりません。

そうして空間自体を満喫したところで、アーティストが一つだけ吊るされた魚に注目。「1匹だけだと淋しいよね。お友だち作ろうか?」と問いかけて、制作の時間に突入しました。まずは、丸や三角に切られた3色ほどの画用紙を使って魚の形を作ります。色の選び方や組み合わせ方で一人ひとり違った魚が登場します。

一通り形が出来た所で、「お魚さんにお洋服を着せてあげよう。」と、飾り付けに使う様々な素材(マスキングテープ、シール、毛糸など)を紹介します。材料が登場するとまた子どもたちの興味も深まり、材料の箱に群がりながら、それぞれ自分が使ってみたい素材を持っていきます。マスキングテープは、ハサミで切るのが難しい素材でもありますが、何回も繰り返すうちに、なんとかかんとか切れるようにもなり、この1日だけでもまた子どもたちの成長を感じました。

材料だけでなく、イカやタコなど、アーティストが作った別の見本なども時々見せながら、子どもたちのイメージを少しずつ刺激して制作は進みます。一つ完成するごとに天井から吊るして飾るのですが、大人を見つけては自分の作品がどこにあるか教えてくれる子もいて、誰かに自分の作品を見てもらうことの大切さも改めて感じました。

次々に作品を持ってくる子どもたちに、天井に吊るす作業が追い付かずスタッフもてんやわんやですが、予想以上に4個5個と作り続けても途切れない子どもたちの集中力には感心しきりです。
時間が経つと、材料が増える面白さと同時に、同じ素材でもいろいろな使い方が生まれてきます。形の紙を長~くつなげたり、リボンを長くつかって垂らすようにしてみたり、魚だけじゃなく、お魚さんの家なども加わりました。紙コップなどの立体的な素材も加わると、海はますます豊かになっていきます。


制作が終盤に差し掛かった頃には、「魔法のシール」を少しずつ子どもたちに渡しておきます。そうして60分程が経過したところで、保育室の電気を半分消灯。何事かと思っている子どもたちに、海が夜になるからと片付けの声かけをします。そして一度全員で座ったら、アーティストから魔法の呪文が。「海さん、おやすみなさい。」とみんなで一緒に唱えると、そこはもう夜の海!実は、魔法のシールや、最初からいた魚たちには畜光塗料が仕込んであり、夜の海で光るようになっているのです。子どもたちは「ウワーッ!!!」と大喜びで、暗いにもかかわらず海中を動き回って、全身で楽しさと喜びを表してくれました。

夜の海を堪能した後は、海が朝になり、みんなでホールに戻ってワークショップを終えました。終了後の振り返りでは、先生から、「制作が苦手な子もいたので、あんなに集中するとは思わなかった。」「今日は能力的な個人差があまり出ずに、一人ひとりが興味を持って取り組んでいた。」「いろんな素材を心豊かに使えた。」などの感想をいただきました。また、この日は作品を夕方まで飾っておき保護者の方に見てもらえるようにしたり、実施後も少し海を残しておいたり、その後も園で活用して下さるとのことでした。
アーティストは、楽しい環境を整えて、楽しい仕掛けを用意して、タイミングを見計らいながら子どもたちを刺激します。でもアーティストが一方的に投げかけるだけではワークショップは成り立ちません。子どもたちの時々の反応や制作の様子に応じて、より制作に集中していけるように、より子どもたちがイメージを広げていけるように刺激をしていく。そうして、出来あがった海の豊かさの中で、子どもたちの集中力と、空間や材料への反応の良さ、一人ひとりが持っている力や想像力の広さに本当に感動した一日でした。
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バレ・バレ/グラフィックデザイナー
https://www.children-art.net/bare_bare/

保育園の5歳児クラス15人を対象に行われた、入手杏奈さん(ダンサー・振付家)のワークショップをご紹介します。静かな動きや賑やかな動きなど、楽しくいろいろな身体の動きを経験させたい、そしていろんな事を楽しめる子どもたちなので、アーティストがやりたい事をめいっぱいやってほしい、という先生からのリクエスト。友だちと触れ合ったり、誰かの真似をしたりすることも含め、40分間、汗だくになるまでめいっぱい身体を動かしました。
ホールに入ってきた子どもたちは、まずアーティストとご挨拶。実は、先生が事前に「バレリーナの人が来るよ。」と伝えて下さったので、チュチュも着ていない入手さんに、少しがっかりしたらしい子どもたち。でも、入手さんが「ダンスをしています。」と自己紹介し、少し踊ってみせると、その面白さに「クスクス」と笑いがこらえきれません。スリッパを飛ばしたり、カーテンの裏から手だけ出して踊ったり、最後には一人ひとりの頭を「ポンポン」とタッチして、子どもたちの心をつかみます。

入手さんの挨拶が終わった後は、子どもたちも先生も、みんな一緒になって身体も使ってご挨拶。近くにいる人と「おはようございます。」と挨拶するところから初めて、指と指で挨拶したり、お尻とお尻で挨拶したり。最後には、子どもたちのアイデアで、頭でご挨拶。相手が痛くないように気をつけながら、そっと頭を「コツン」と挨拶します。
そうして身体がほぐれた後は、輪になってのワークです。隣の人にタッチして、そのまた隣の人にタッチして、相手から送られてくるものを、さらに別の人に渡していきます。隣同士だけではなく、ランダムに好きな人に渡す、というのもやってみました。続いては、一度みんな座ってみます。すると、入手さんから「目を閉じたまま真似をしよう。」との声かけが。子どもたちは意味が分からず「え~?」と言う子もいますが、とにかく目を閉じます。そしてどんな真似をするかと言うと、手で床を叩いたり、足をふみならしたり、音を鳴らす動きの真似でした。要領がわかった子どもたちは納得した様子でワークに取り掛かります。自分の聞いた音の鳴らし方が合っているか気になって目を空けてしまう子もいる中で、まじめにギュッと目を閉じて、正解じゃないけど自分が思った動きで応える子も数名。入手さんは、そういう子も「いいね。」と認めます。

後半は、いろんな動きを経験した身体をさらに開いていきます。面白い擬音語や会話等も用いながら、どんどん入手さんの動きを真似していきます。手拍子したり、寝転がったり、「リンリン」は電話の動作、「モジモジ」は身体をクネクネさせながら、「ムキムキ」は力持ちのポーズなど、ホール中を所せましと移動しながら様々な動きを取り入れます。電話をかける動作をしながら、「お父さん?」「お母さん?」「先生?」「象さん?」など、ユーモアのある台詞も加えて、入手さんの面白い動きや言葉に、子どもたちの笑いも止まりません。

さて、そして最後は、たくさん真似した動きを、「曲に合わせてやってみようか?」という入手さんからの問いかけ。ここでも子どもたちは少し「キョトン」とした様子。そうすると、電話の「リンリンリン」という音がどこからともなく聞こえてきます。そしてかかった曲は、『恋のダイヤル6700』byフィンガー5!実は、これまでの動きが歌詞にピッタリ合うように考えられていたのです。「リンリンリリリン」ではもちろん電話をかける動き、「男らしく」という歌詞のところでは、「ムキムキ」でやったポーズ等など。
最初は、テンポの良い曲のスピードや振りについていくのに必死な子もいますが、何回か繰り返していくと、踊ることがどんどん楽しくなっている様子が伝わってきます。ジャンプするところでは、1回目より2回目、2回目より3回目の方が思いっきり飛ぶようになり、最後に好きなポーズを決めるところも、段々格好良くなっていく子どもたち。曲にのって、身体をいろいろ動かす事そのものを楽しめるようにしていきます。

何回か繰り返し踊っているうちに40分はあっという間に過ぎて行き、一度終わりの挨拶もしたのですが、最後に「もう1回踊りたい!」という事で、最後の最後にもう1回踊って、この日のワークショップを終えました。保育室に戻る時も「リンリン」の動作をしながら名残惜しそうに入手さんに話しかける子が絶えません。今回のワークショップは2日間の実施で1週間後に2回目を迎えるのですが、既に次回を楽しみにしてくれている様子に、スタッフも嬉しくなりました。
実施後の振り返りでは、先生から「早速普段の保育でもやってみます。」との言葉をいただきました。梅雨に入って外で遊ぶ機会も減ってしまうかもしれませんが、身体を動かすのが大好きな子どもたちだったので、これからも身体のいろんな楽しさを発見していってほしいと思いました。
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入手杏奈(いりて あんな)/ダンサー・振付家
https://www.children-art.net/irite_anna/

保育園の5歳児クラスで行われた、カブさん(美術家・深沢アート研究所緑化研究室代表)のワークショップをご紹介します。会場になったのは、いつも子どもたちが生活している保育室。一人ひとりが作る過程もありながら、最終的にみんなで一つの作品になる経験をさせたい、との先生からのリクエスト。今回は、セロテープという素材にとことん向き合い、大きな透明の空間を作ろう、という内容でした。

実は、この日の1週間前に既に4歳児クラスでワークショップを実施していたので、隣で見ていた5歳児の子どもたちは期待が高まって、今日のワークショップをとても楽しみにしていたとのこと。部屋に入ってくると、「宇宙にするんだ!」など、既にイメージが広がっている様子でした。ワクワクする気持を押さえながら、まずはアーティストからのご挨拶。その後、今日みんなとやる事、道具の使い方などを説明していきました。
まずは、セロテープの使い方からです。セロテープ台を一人ずつ取り、両手を使ってセロテープをある程度の長さに切る。そしてクルクルっと丸めて滴のようにしていきます。何回か丸めてある程度大きくなったら、最後は顔を描いて自分だけの滴が完成です。小さいところに慎重に、真剣に好きな色を使って描いていきます。

練習が終わったら、今度はセロテープを教室中、好きな所に貼り巡らせます。脚立や机などをきっかけにして、あっちからこっち、こっちからそっちへ。長さが足りなかったり、上手く空中でセロテープを切れなかったり、セロテープ台の扱いも最初は難しい事もあります。でも、さすが5歳さん、大人が手伝おうとしても「いい!」と、自分たちで出来る方法を見つけていきます。経験を通して、子どもが成長していく瞬間でした。

また、貼り巡らせたセロテープには、滴(子どもによってオバケだったり、蛇だったり、好きなもの)などを張り付けて装飾します。ふと気付くと、制作のヒントになるよう流していたプロジェクタのイメージにもセロテープの影が映って面白い事に。自分の影で遊ぶ子もちらほら。

そして、ある程度時間が経つと、セロテープだけでなく、マジックで絵を描く事も始めます。いつもの紙と違って、立った画面に描くのは難しいかと思いきや、そんな事は気にせず友だちとおしゃべりもしながら描いていました。

時間が経つと、自分の空間をある程度決めて、そこを重点的に作り込む子も登場します。真剣にセロテープを見つめる姿は立派な職人さんのよう。そして、高い所にも低い所にもセロテープが貼ってあるので、屈んだり四つん這いになったり、子どもたちは身体を器用にいろんな風に使って部屋中を移動します。下手に大人が入ろうとすると、行く手を塞がれて進めなくなるゾーンもありました。

さらに時間が経過したところで、アーティストからセロテープ以外の素材も紹介されます。セロテープをとことん突き詰める事ももちろん、楽しんで制作できる事も大切、という事で、キラキラの折り紙、アルミホイル、カラーテープなど、子どもたちの想像力を刺激するような工夫です。嬉しそうにアルミホイルを見せてくれた男の子、何かと思えば、アルミホイルの上に、違う光り方をする銀の折り紙がいくつも貼られた素敵な作品になっていました。

始まってから約90分間、子どもたちの集中力は途切れる事がありません。友だちと一緒になって、のりまき&梅干しを隣同士に飾ったり、「大きくなったらオバケと友だちになりたいからオバケばっかり作るの。」と自分の作品を追及したり、それぞれの想像力を活かして、いろんな物語が生まれていました。最後には、みんなで集まって作った空間を眺めてみます。アーティストは、みんなが頑張った事を認めると同時に、「今日は特別ね。」と、いつも好きなだけ好きなようにセロテープを使える訳ではない事を、きちんと子どもたちに説明してワークショップを終えました。
先生からは、「最初は手探りだったけど、どんどん集中していく子どもの様子が分かった。」「アーティストやスタッフがサポートする姿を見て、子どもたち自身もお互いに助け合う事を学んでその場で実践していた。」などの感想をいただきました。また、この日はこの作品を残しておいて、空間を眺めながらお昼ご飯を食べたそうです。一見とてもシンプルな事のようですが、アーティストの導入や、素材を投入するタイミングなどにもいろいろな思いや考えがあってこそ成り立つワークショップ。そして道具の使い方ももちろん、自分の中で様々なイメージを広げて身体全部を使って次々に制作に取り組む子どもたちの姿に、本当に一瞬一瞬彼らが何かを吸収して成長している事をヒシヒシと感じた一日でした。
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カブ(かぶ)/美術家・深沢アート研究所緑化研究室代表
https://www.children-art.net/kabu/

突然ですが、当NPOの活動ではワークショップの現場で多くのボランティアスタッフの方々にご活躍いただいております。事務局スタッフが小人数な事もあり、皆さまのご協力なくしては、私たちの活動は成り立たないと日々感謝しております。
そこで、そのように大変お世話になっているボランティアの方々への感謝のしるしとして、そして同時に、新たにボランティア活動に興味を持って下さる皆様方に、当NPOについてよりよく知っていただくための機会として、交流会とささやかなパーティーを催しました。学生の方や、お仕事終わりに駆けつけて下さった方など、年齢も職業も様々な19人が参加して下さいました。

第一部では、当NPOの全体の事業概要や、ボランティアさんにお願いする仕事内容などを、映像やスライドを交えながら説明しました。実際のワークショップでどんな事が起きるのか、美術として一緒に舞台作品を作って下さったボランティアさんの話や、参加したことのある方々へのインタビューも交えて、なるべく現場の雰囲気が伝わるように努めました。場所が違えば子どもたちの様子も違い、ダンスや音楽、造形など内容も多岐にわたり、毎回毎回が驚きや発見に満ちているワークショップ。その時の事を振り返りつつ話すスタッフにも熱が入り、聞いてもらう時間が随分長くなってしまいした…

そしてお腹も空いたところで、第二部の立食パーティーへと移動しました。2年2組の教室(普段グリグリという畑活動に使っています。)にドリンクや軽食をご用意して、スタッフに聞きたい事など、リラックスしてお話ししていただけるようにしました。参加された方が勉強、研究されている事、ご興味のある事なども伺いながらお話させていただくと、こちらも話しているのがどんどん楽しくなり、予定していた時間はあっという間に過ぎました。当NPOの活動に興味を持って下さったり、応援して下さったりする方がいる事、様々な理由で当NPOに辿り着いて下さった巡り合わせとご縁に、改めて感謝する一日となりました。
また、、パーティーに参加された方で、早速6月から始まる保育園や幼稚園でのワークショップに申し込んで下さった方もたくさんいます。この日だけでは分からなかった事、伝わらなかった事など、また現場で皆様にお会いして交流を深めていけることを楽しみにしています!
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※この日も何回かご質問がありましたが、6~7月は幼稚園・保育園が主になり、8月(夏休み)は公共ホールでの舞台作品をつくる公募型ワークショップ、そして9月以降3月まで小学校・中学校(特別支援学級含む)でのワークショップが続く、というのが当NPOでの大まかな一年の流れとなっております。その都度メールマガジンでボランティア募集を行っておりますので、ご興味のある方は下記リンクより是非ご登録ください!
ボランティア募集→https://www.children-art.net/volunteer/

師走初日の寒い日に、勝部ち子さんによるからだあそびワークショップが開催されました。
勝部さん 「今日は雨で寒いですが、みんな元気ですか?雨とか、寒いとか、みんなには関係ないか?!」
子どもたち 「かんけいなーい!」
今日も元気な声がホールに響きました。勝部さんがこの園に来るのはちょうど1週間ぶりです。
前回と同様、アシスタントのしょうこさんと一緒に来園し、この日もまず最初はみんなの名前を呼び合うことから始めました。大きな輪になって座り、「○○ちゃーん(くん)」とみんなで一斉に一人ずつ名前を呼びます。名前を呼ばれた子はちょっぴりはにかんでみたり、ポーズを決めてみたり。先生の名前ももちろん呼びます。勝部さんとしょうこさんも「ちこちゃーん」「しょうちゃーん」と、子どもたちと同じように呼んでもらいます。ちょっとしたことだけど、こうして一人ひとりの名前を大きな声で呼び合うことで、前回はお休みだった子も、ここで顔と名前を覚えてもらえたり、その場にいるみんなの気持ちがほぐれ、これから一緒にからだあそびをしようね、という一体感がでてくるのです。
紹介の後、まずは少しウォーミングアップしました。
勝部さんが幼児を対象に行うワークの中に、「ネコ」という名前のものがあるのですが、それは四つん這いになり、二人同時にゴロンと一回りしてからジャンプするというものです。着地するときは足音がたたないようにするのが「ネコみたい」ということで「ネコ」と呼んでいます。日頃からよく身体を動かしていると思われるこの園の子どもたちは、あそびの飲み込みが早く、静かに着地するジャンプも、とてもうまく飛ぶことができました。
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このあそびを紹介するとき、勝部さんが子どもたちに、「この動きは何を表現していると思う?」と聞いたところ、子どもたちからは、「うさぎ」「カメ」など色々な答えが返ってきました。勝部さんとしょうこさんが 「そうだね。それもあるね。」とどれも受け入れるように返事をしていると、一人の女の子が 「ほんとはどれが正解なの?」 と聞いたそうです。しょうこさんが 「どれも正解だよ」 と言うと、その女の子は少しきょとんとした顔をしていたそうです。
勝部さんのワークショップは、いつも子どもたちの年齢に見合ったワークを用意して来てくれますが、現場で子どもたちから出てくるアイディアを時には受け入れ、柔軟にシフトしていくこともあります。「こうしなくちゃいけないというのはない」 そのコンセプトが「ネコ」の件に如実に表れていましたが、きっと子どもたちは、知らず知らずのうちに今日のワークショップそのものが 「こうしなくちゃいけないというのはない」 のだということに気づいて行ったのではないでしょうか。
さて、いろいろな面白いからだあそびを取り入れたウォーミングアップが終わると、前回のワークショップで約束した「海」に行くことになりました。この「海」は勝部さんのワークの中で大人気のものです。
勝部さん 「これから海に行きたいと思います。今日は沖縄に行きます!」
子ども 「なんきょくがいいー!」 
なぜか「なんきょく」の大合唱が子どもたちがわきあがりました。
・・・しばらくたって・・・
しょうこさん 「今日行く海が決まりました。なんきょくです!」
子どもたち 「わーーーーい!!」 
子どもたちはおおはしゃぎでした。南極ブームなのでしょうか?理由はわかりませんが、南極行きが決まりました。
飛行機に乗ったあそびを通して南極に着くと、4人1組で波乗りをしました。横一列に3人が寝転がり、その上に一人が横たわります。下の3人がごろごろと転がると、上に乗った子も一緒に転がって、まるで海で波乗りをしているみたいなのです。これは”みんなで息を合わせて″転がることが大事で、お互いが相手の動きを感じ取りながら動くこと、動きながら友だちの身体にケアすることが必要な、実はちょっと高度な動きです。前回2人1組でやったことが活きて、今日はみんなとてもうまく波乗りができていましたが、中にはちょっと勝部さんに指導してもらいながらできたというグループもありました。
最後のワークは、海でつかまえた魚が体に入ってしまった!というあそびです。身体の中に魚が入ったらどんなことになるでしょう?そんなことをイメージして動くと、なんだか踊っているみたいになりました。魚はしょうこさんから勝部さんへ、勝部さんから先生へ、先生から子どもへとだんだんと移っていきます。魚が入ってしまった人は、手足や腰をゆらゆらさせて動きます。その動きがおもしろいのか、魚がはいっちゃった!というイメージがもうできているのか、子どもたちは大興奮で 「いつ自分のところに魚がくるだろう!」 という期待をもちながら待っています。待ちきれない子は飛びはねたり、奇声をあげたりして待っていました!子どもたちに魚がやってくると、待ちきれない子たちがみんな踊りだして、すごいエネルギーがさく裂しました。
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自己表現をしたい子たちが多いんだなぁ、とスタッフは感心したのですが、あとで聞いたら「大人しくて自分を出すのが苦手な子が多いんです」とのこと。え?!スタッフも、勝部さんもしょうこさんも、唖然としてしまいましたが、今日の 「こうしなくちゃいけないというのはない」 という雰囲気を感じ取って、子どもたちが表現できたのではないかと先生たちは受け取られたようです。自然に引き出された子どもの感覚に出会えた時間だったのですね。あとからしみじみとワークショップの力を実感させられました。
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勝部 ちこ(かつべ ちこ)/ダンサー・インプロバイザー
https://www.children-art.net/katsube_chiko/

保育園の5歳児クラスで行われた、谷山恭子さん(美術家)のワークショップをご紹介します。会場になったのは、六角形の素敵なホールです。ダイナミックな造形活動で、一人一人の作品でもあり、みんなで一つの作品にもなるような内容を、との先生からのリクエスト。今回は、木を組んだ土台の上に段ボールなど様々な素材で装飾して、みんなで大きな木を作る、という内容でした。子どもたちの人数と、2日間実施ということで、大きな土台と、少し小さな土台と2つの木を作りました。

1日目、ホールに入ってくるなり、木組みを見て子どもたちは「ワーッ」と歓声を上げていました。はやる気持ちを抑えてまずはアーティストとご挨拶。その後はペンキの使い方や、何を作るか簡単に説明をして制作スタートです。
ペンキの説明を聞いたらまずは全員ペンキを塗ろうとしますが、大混雑のため、段ボールカッターで段ボール切りに挑戦する子もチラホラ。ペンキはいつも子どもたちの心を魅了してやまないのですが、今回も予想通り?の人気ぶり。1日目は色を混ぜずに一色ずつ塗っていきました。2日目は色を混ぜても良い事を伝えると、それはそれで大興奮。2日間で、ローラーだけでなく手形をする子や、葉っぱや空き箱、いろいろな物に色を塗っていく子など様々な展開が見られました。

一方では、工作的な作業に夢中になる子もいます。カラーガムテープや風船、アルミホイルを利用して、鳥に船、ロボット、リースなどそれぞれが丁寧に作品を作っていました。直接は木に関係ないように見える作品でも、木と木をつなぐ紐に吊るしたり、木に貼付けたりする事で、全体としては立派に一つの作品になっていきます。

木に飾り付けていく段階では、大きな布を作って秘密基地を形作って行く男の子たちも。布で覆われた狭い空間の中で何やら作戦会議でしょうか。使う素材は様々ですが、今回はアーティストが用意した物以外にも、保護者の方や先生にもご協力いただき、面白い実のなる木々や落ち葉など、自然の素材も活用しました。

梱包材のプチプチは入り口のカーテンに、松ぼっくりも飾りに、アルミホイルは自由自在に形を変えられるので、子どものイメージの中では宝物にもなります。プチプチにペンキを塗るというアイデアも広がりました。

木の回りに張った紐にも次々に作品がつり下げられてどんどん賑やかになっていきました。「楽しい!」「次は〇〇作る!」と先生やスタッフに説明しながら作ってくれる子、ほとんど話さず黙々と作業に没頭する子、とりあえず木の中に入ってキャンプごっこをして楽しんでいる子、一人ひとりが、それぞれの楽しみ方を見つけていました。それと同時に相談しながら一つのものを作ったり、アーティストに相談したり、様々なコミュニケーションも生まれます。

そして楽しい制作の時間はあっと言う間に過ぎていきました。まだまだ作りたい物がある様子の子もいましたが、簡単に自分が使った道具などを片付けて集まりました。そして、クリスマスも近いということで木に照明を仕込んでおいたので、点灯式を行いました!ライトが付くと、「中に入りた~い!」とさらに盛り上がる子どもたち。でもその前に、自分が作ったものを発表してもらいました。みんないくつも作品を作っていましたが、一番思い入れの強いものから紹介されていきます。アーティストも一言ずつ作品にコメントを添えました。

発表後は、少し時間が余ったので、お待ちかね、みんなで中に入って遊びました!「遊んでいいよ~!」のかけ声に「キャ~!」と駆け出す子どもたち。あまりの勢いに、「小さい方は3人までだよ~。」とアーティストが声をかけ、みんなにもルールを守ってもらいます。でも大きな方には全員が入れてしまい記念撮影。みんなの嬉しそうな笑顔がとても可愛らしかったです。
「大きな木」というざっくりとしたテーマに、素材をふんだんに用意して環境を整えることで、子どもたちの創造力はどんどん広がって深まっていく。決まっていることと自由さが絶妙なバランスである事が、子どもたちを輝かせたように思います。撤去日までの数日間は、木の中でおやつを食べたり、他のクラスの子も遊んだり、園でもいろいろ活用して下さるとのことでした。先生からは、子どもたちが達成感を持って「作るのが楽しい。」と思えていた、との感想をいただきました。作る事を嫌がることは一度もなく、アイデアが尽きない子どもたちと過ごす時間は、ワクワクと笑顔であふれていました。
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谷山 恭子(たにやま きょうこ)/美術家https://www.children-art.net/taniyama_kyouko/

今回ご紹介するのは、毎回素敵な空間の中で子どもたちの想像力を豊かに広げて下さる、水内貴英さん(美術家)のワークショップです。会場は小学校の一教室。2月の学習発表会まで作品を置いておけるということで、水内さんもいつにも増してダイナミックなアイデアを提案して下さいました。ワークショップのタイトルは、『COLOR』。部屋いっぱいの真っ白で巨大な森の立体塗り絵を子どもたちが彩ります。

ワークショップの導入は、アーティストのオリジナル紙芝居の読み聞かせです。ある学校の仲良し3人組が、ある日の放課後を図書室で過ごす事に。見つけたのは真っ白な本。塗り絵のようだけど特に面白くもなさそうなので本を閉じて帰ろうとすると、「ちょっと待って!」と本の中から声がします。声の主は黄色く塗られたタヌキ。ずっと前にタヌキだけが黄色く塗られたまま、完成されなかった塗り絵だそう。そしてタヌキは仲良し3人組を森の塗り絵に誘い出します…
と、紙芝居を読んだ後にアーティストが会場の部屋へ子どもたちを連れて行くと、そこには本物の大きな森の塗り絵が!という仕掛けでワークショップが始まるのです。
この小学校では、通級の特別支援学級に通う1~6年生が対象で、曜日ごとに参加する子どもたちが違います。そして学年も様々な子どもたちがどんな反応を見せ、どんな色の世界を広げてくれるか、少しの不安と、たくさんのワクワクを胸に制作がスタートしました。
月曜日~金曜日までの5日間、形を描くのが好きだったり、絵具で色を塗るのが好きだったり、昆虫を描いたり、イルカを描いたり、毎日子どもたちの個性も違っていて、少しずつ少しずつ森が豊かに色づいていく様は見ていてとても楽しいものでした。全部は書ききれませんが、とある1日目の様子を紹介したいと思います。
この日のメンバーは5人。「1・2・3!」のかけ声で塗り絵の教室に入ると「わあ~っ!すごい!」と歓声が。すぐにでも制作に取り掛かりたいところですが、まずはアーティストから道具の説明があります。線を描く用のポスカと、色を塗るようにはアーティストがあらかじめ中間色に混色した絵具が用意されています。また、描く時のルールとして、「前の日に描かれた絵や、他の子が描いたものを大事にして下さい。」と声かけをしました。

さてさて、そして子どもたちは思い思いに制作に取り掛かります。ポスカで草むらに蛇を描く子もいれば、大胆に木に絵具で色を塗っていく子も。「自由に」と言われると何から描いていいか戸惑う子もいましたが、アーティストがカブト虫を描いてみせると、そのそばの枝に、アーティストより先にカブトムシを完成させました。

時にはアーティスが見本を見せることもありますが、逆に子どもからアーティストを誘って、「サクラを描こう」と友だちと3人での共同制作を始める子もいました。「芸術の秋!」と言いながら嬉しそうな笑顔で何を描いているのか説明もしてくれます。

そしてふと気付くと、森の一番奥にはイルカのいる海が出現!青一色で素敵な波が表現されていました。また、黙々と画面の端から端まで丁寧に色を塗っていく子は、前日に描かれたふくろうを丁寧に残して作業をしています。上の方はアーティストに肩車をしてもらい、届く限りの高さまできれいにきれいに森を彩っていました。

一方、紫色が気に行った子はブルーベリーを描きたいと言い出しました。他の子が塗った木の上に描いてもいいかとアーティストに聞いて、「その子は他の子が描いても良いって言ってたよ。」と確認後、大きくて美味しそうなブルーベリーを次々に描いていました。

この日は、「エメラルドグリーン」が突然人気の出た瞬間があり、最初に蛇を描いていた子も、エメラルドグリーンを使って草むらにも色を塗って、最後には青色で絶妙な仕上げを施していました。

制作の時間はあっという間に過ぎ、いつの間にか裸足になったり、顔や手まで「芸術!」になっていたり、白い養生シートで覆った床もいい感じで森の地面のようになっていきました。最後には、その日子どもたちが一番頑張って描いたところを発表して終わります。嬉しそうに発表する子どもたちを見ていると、見ているスタッフも嬉しい気持ちでいっぱいです。照明を付けて見ると、また少し森の雰囲気が変わって面白いです。

この学級では、アーティストが帰った後も、毎回先生が子どもたちと振り返りを行って、「たぬきさん」への質問などを掲示物としてまとめてくれていました。アーティストも「たぬきさん」として毎回返事を残して帰ります。2月までの長い設置期間があるので、さらに手を加えたり、いろいろな機会に活用したりして下さるのではないかと思います。また、2月の学習発表会でもアーティストがワークショップの締めくくりとして、紙芝居の続きを披露する予定なので、それまでどんな風に森が変化していくか、また子どもたちがどんな気持ちであの森に関わっていってくれるのか、毎週でも通いたいと、後ろ髪を引かれる思いで学校を後にしました。こんな風に長い間作品を通して関われる機会はめったにない機会で、教室をまるで引っ越し後のように片付けて下さった上、毎回振り返りの打合せでも丁寧に子どもの様子についてお話して下さった先生方にも支えられて、毎日が楽しいワークショップとなりました。
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水内 貴英(みずうち たかひで)/美術家https://www.children-art.net/mizuuchi_takahide/

10日間ほどワークショップを行い、最終的に作品を発表する、という取り組みで、今年は学芸会の発表にいくつか関わりました。前回に引き続き今回ご紹介するのはその中の1つ、小学1・2年生19人と創り上げた作品です。お迎えしたアーティストは楠原竜也さん(振付家・ダンサー)。アシスタントとして村越麻理子さん、ドラムの演奏で有吉拓さんにもご協力いただきました。
この学校では、『まっしろだったカラス』という台本を、森に囲まれた学校の特色を生かして担任の先生が手を加えた、『カラスドロップ』という物語を上演しました。昔は真っ白で美しく、でも怠けものだったカラスたち。ズルをして「あくまになれ~る」という薬で羽を黒く、声を低く変え、森の動物たちが集めた木の実を奪い取ろうとします。しかし、ルールを守って薬を飲まなかったため、元の真っ白な姿には戻れず、動物たちにも正体がばれて森を追い出されてしまいます。そんな時、森が嵐によって火事になり、その様子を見ていたカラスたちが命をかけて火を消すのです。この行いによって動物たちとカラスは仲直りをする、という物語です。
子どもたちが演じるのは、カラス、うさぎ、りす、ねずみ、ふくろうと全て動物です。そこで、低学年らしい身体の動きを取り入れて動物に成りきって演じられるようワークショップを続けていきました。

ワークショップの最初には、アーティストの真似をしたり、身体の一部分をくっつけて様々な形を作ったり、身体の持つ可能性を探るようなワークを行いました。子どもたちと登場する動物がどんな声でどんな姿か、どんなふうに鳴いたり飛んだりするのか、様々な意見を出してもらい、実際身体を動かして表現する、ということにも取り組みました。みんなとてものびのびと表現する子どもたちで、アーティストも今までに見たことのない形が考えだされるなど、驚きの連続でした。
セリフの練習では、誰に向かって伝えようとしているのか、相手を意識して話すことを考えながら、声のキャッチボールや、体育館の一番後ろから声を届けるワークを行いました。大きな声を出してセリフを話すこと、しかも役に成りきって、というのはとても難しい事ですが、アーティストの丁寧な指導と繰り返しの言葉かけで、少しずつ子どもたちの身体の中に表現が染み込んでいくようでした。

セリフがない間も、他の子のセリフを聞いてうなずいたり、身体の向きを話している子の方へ向けたり、少しずつワークショップで行ったことが演技の中に活かされている、とはある日の振り返りでの先生の言葉です。
学校の先生にとって外部からアーティストが入り、ワークショップに取り組むことは、先がどうなるのか不安をともなうチャレンジかもしれません。しかし、アーティストが伝えようとしている事を感じて、子どもたちの変化を丁寧に見て取って下さる中で、先生との関係が良い方向に深まり、協力体制が整うことは、とても嬉しく大切な事だと思います。
さて、そうして演技の練習などもしながら、今度は衣装の制作です。具体物を用いることなく、抽象的な衣装で身体表現を活かすことができるよう、アーティストが下地を整えました。そして、図工の時間をお借りして子どもたちと一緒に制作です。フェルトに様々な種類の生地を、一人ひとりが自分の思うように並べてボンドで貼り付けていきました。カラス役とふくろう役の子は、何枚も必要な羽を、単純作業でも飽きずに一生懸命切っていきます。最後には、保護者の方々や先生方が協力して、放課後の家庭科室で作業して完成させてくれました。

同時に、今度はセリフではなく各動物の動きの完成度を上げていきます。白カラスの登場、各動物たちの登場シーンには、それぞれの特徴をよく表した動きをアーティストが振付していきました。カラスの変身や火を消すシーンでも、臨場感溢れる面白い動きが生み出されていきます。今回の音楽は全てドラムの生演奏で、音にのって子どもたちは動きのきっかけを覚え、のびのびと自由になっていきます。身体表現を支える音の存在は本当に大切なものです。
ワークショップ後半は、アーティストが行けない間は先生に練習をお任せし、ワークショップでは通し稽古や細かい動き、移動、立ち位置の修正などを繰り返し行います。アーティストは子どもたちの限界を決めつけることを絶対にしません。毎回毎回、「こうすればもっと良くなる。」「あの子たちはまだまだ伸びしろがある。」と、ただまっすぐに、子どもたちの表現を高めるために力を尽くしていきます。もう稽古の時間はなく、残すは本番のみ、子どもたちに何かを伝えられるのは本番前の10分間のみ、という状況になっても、子どもたちの表現がさらに良くなることを信じて疑わないのです。

そしていよいよ本番、アーティストが伝えてきた数えきれないほどの大切な事、ワークショップでも子どもたちは十分に応えてくれていましたが、最高の状態で発表できるよう、子どもたちを信じて、期待と緊張で胸が高鳴ります。しかし、始まってしまえば大人の心配などどこへやら、今までで一番の力が発揮できたように思います。のびのびと、大きく身体を動かし、舞台上を思いっきり動きまわり、息をひそめるシーンでは姿勢を低くして相手の様子を伺い、相手に向かって話す事、相手の話を聞く事、今まで一つ一つ積み重ねてきた事が、子どもたち一人ひとりの表現となって舞台の上で輝きました。
期間にすると2カ月、いつも元気いっぱいでワークショップに取り組んだ子どもたち。毎回放課後の打合せにもご協力いただいた先生方、そしてとてつもないエネルギーを注いでいつも子どもに向き合って下さったアーティストの方々、三者の力で、どこにもないたった一つの素敵な作品が完成しました。子どもたちや先生ともう一緒に過ごす事ができないのはとても淋しいですが、演じる事の楽しさや、表現する事の楽しさが、今後も何らかの形で子どもたちの中に残っていくだろうと信じています。
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楠原 竜也(くすはら たつや)/振付家・ダンサー・ APE 主宰https://www.children-art.net/kusuhara_tatsuya/