10日間ほどワークショップを行い、最終的に作品を発表する、という取り組みで、今年は学芸会の発表にいくつか関わりました。前回に引き続き今回ご紹介するのはその中の1つ、小学1・2年生19人と創り上げた作品です。お迎えしたアーティストは楠原竜也さん(振付家・ダンサー)。アシスタントとして村越麻理子さん、ドラムの演奏で有吉拓さんにもご協力いただきました。
この学校では、『まっしろだったカラス』という台本を、森に囲まれた学校の特色を生かして担任の先生が手を加えた、『カラスドロップ』という物語を上演しました。昔は真っ白で美しく、でも怠けものだったカラスたち。ズルをして「あくまになれ~る」という薬で羽を黒く、声を低く変え、森の動物たちが集めた木の実を奪い取ろうとします。しかし、ルールを守って薬を飲まなかったため、元の真っ白な姿には戻れず、動物たちにも正体がばれて森を追い出されてしまいます。そんな時、森が嵐によって火事になり、その様子を見ていたカラスたちが命をかけて火を消すのです。この行いによって動物たちとカラスは仲直りをする、という物語です。
子どもたちが演じるのは、カラス、うさぎ、りす、ねずみ、ふくろうと全て動物です。そこで、低学年らしい身体の動きを取り入れて動物に成りきって演じられるようワークショップを続けていきました。

ワークショップの最初には、アーティストの真似をしたり、身体の一部分をくっつけて様々な形を作ったり、身体の持つ可能性を探るようなワークを行いました。子どもたちと登場する動物がどんな声でどんな姿か、どんなふうに鳴いたり飛んだりするのか、様々な意見を出してもらい、実際身体を動かして表現する、ということにも取り組みました。みんなとてものびのびと表現する子どもたちで、アーティストも今までに見たことのない形が考えだされるなど、驚きの連続でした。
セリフの練習では、誰に向かって伝えようとしているのか、相手を意識して話すことを考えながら、声のキャッチボールや、体育館の一番後ろから声を届けるワークを行いました。大きな声を出してセリフを話すこと、しかも役に成りきって、というのはとても難しい事ですが、アーティストの丁寧な指導と繰り返しの言葉かけで、少しずつ子どもたちの身体の中に表現が染み込んでいくようでした。

セリフがない間も、他の子のセリフを聞いてうなずいたり、身体の向きを話している子の方へ向けたり、少しずつワークショップで行ったことが演技の中に活かされている、とはある日の振り返りでの先生の言葉です。
学校の先生にとって外部からアーティストが入り、ワークショップに取り組むことは、先がどうなるのか不安をともなうチャレンジかもしれません。しかし、アーティストが伝えようとしている事を感じて、子どもたちの変化を丁寧に見て取って下さる中で、先生との関係が良い方向に深まり、協力体制が整うことは、とても嬉しく大切な事だと思います。
さて、そうして演技の練習などもしながら、今度は衣装の制作です。具体物を用いることなく、抽象的な衣装で身体表現を活かすことができるよう、アーティストが下地を整えました。そして、図工の時間をお借りして子どもたちと一緒に制作です。フェルトに様々な種類の生地を、一人ひとりが自分の思うように並べてボンドで貼り付けていきました。カラス役とふくろう役の子は、何枚も必要な羽を、単純作業でも飽きずに一生懸命切っていきます。最後には、保護者の方々や先生方が協力して、放課後の家庭科室で作業して完成させてくれました。

同時に、今度はセリフではなく各動物の動きの完成度を上げていきます。白カラスの登場、各動物たちの登場シーンには、それぞれの特徴をよく表した動きをアーティストが振付していきました。カラスの変身や火を消すシーンでも、臨場感溢れる面白い動きが生み出されていきます。今回の音楽は全てドラムの生演奏で、音にのって子どもたちは動きのきっかけを覚え、のびのびと自由になっていきます。身体表現を支える音の存在は本当に大切なものです。
ワークショップ後半は、アーティストが行けない間は先生に練習をお任せし、ワークショップでは通し稽古や細かい動き、移動、立ち位置の修正などを繰り返し行います。アーティストは子どもたちの限界を決めつけることを絶対にしません。毎回毎回、「こうすればもっと良くなる。」「あの子たちはまだまだ伸びしろがある。」と、ただまっすぐに、子どもたちの表現を高めるために力を尽くしていきます。もう稽古の時間はなく、残すは本番のみ、子どもたちに何かを伝えられるのは本番前の10分間のみ、という状況になっても、子どもたちの表現がさらに良くなることを信じて疑わないのです。

そしていよいよ本番、アーティストが伝えてきた数えきれないほどの大切な事、ワークショップでも子どもたちは十分に応えてくれていましたが、最高の状態で発表できるよう、子どもたちを信じて、期待と緊張で胸が高鳴ります。しかし、始まってしまえば大人の心配などどこへやら、今までで一番の力が発揮できたように思います。のびのびと、大きく身体を動かし、舞台上を思いっきり動きまわり、息をひそめるシーンでは姿勢を低くして相手の様子を伺い、相手に向かって話す事、相手の話を聞く事、今まで一つ一つ積み重ねてきた事が、子どもたち一人ひとりの表現となって舞台の上で輝きました。
期間にすると2カ月、いつも元気いっぱいでワークショップに取り組んだ子どもたち。毎回放課後の打合せにもご協力いただいた先生方、そしてとてつもないエネルギーを注いでいつも子どもに向き合って下さったアーティストの方々、三者の力で、どこにもないたった一つの素敵な作品が完成しました。子どもたちや先生ともう一緒に過ごす事ができないのはとても淋しいですが、演じる事の楽しさや、表現する事の楽しさが、今後も何らかの形で子どもたちの中に残っていくだろうと信じています。
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楠原 竜也(くすはら たつや)/振付家・ダンサー・ APE 主宰https://www.children-art.net/kusuhara_tatsuya/

当NPOでは、10日間ほどワークショップを行い、最終的に作品を発表する、という取り組みも行っています。今回ご紹介するのは、小学2年生60人と創り上げた学芸会の作品です。お迎えしたアーティストはスズキ拓朗さん(振付家・ダンサー・演出家)と、アシスタントの樋口舞さん(ピアノ演奏)。

ワークショップの初回は9月のある一日。初めて出会う子どもたちに、名前と好きな食べ物などを教えてもらい自己紹介をしました。この日は、円になってボールをパスするゲームや、「ネコとネズミ」というゲームなどを行い、これから一緒に作品を作って行く上で、遊びを通して協力することの大切さを伝えました。
そして2回目以降は、本格的に作品作りに入っていきました。台本は『たねまきこびとをたすけだせ』という物語。人知れず種を撒いて四季を作っている「たねまきこびと」たちが、春を嫌う「冬の女王」にさらわれてしまうのですが、森の動物たちが力を合わせて小人たちを助け出し、最後には冬の女王とも仲直りをする、というお話です。
2年生ならではの、笑っちゃったり可愛らしかったりするような動きを取り入れたい、という先生のリクエストもあり、劇中に『線路は続くよどこまでも』を替え歌にした『たねまきこびとのうた』と、元々台本に含まれていた『かじる かじる!』という曲を使ってアーティストがダンスを振付しました。『たねまき~』は、小人たちが種をまいている様子を歌にし、劇の最初と、最後には全員で歌い踊ります。『かじる~』は、野ねずみたちが、力が弱いながらも小人たちを助け出すために、自分たちの最大の武器、歯で扉をかじって助け出す、というシーンで使われます。
ダンスの練習は、アーティストもびっくりするほど子どもたちの覚えが早く、1日で2曲の振りを伝えることができました。歌いながら踊るという2つの事を同時にするのは、低学年にはまだ難しいところもあるようでした。それでも、決めのポーズでは、「飛ばなくてもいいよ。」と言っても、自然に身体が動いてジャンプする子どもたち。繰り返し練習を重ねていくうちに、楽しそうに踊る子どもの姿に何度もエネルギーをもらいました。
そしてダンスの振り付けが終わった後は、台本に入っていき、セリフや立ち位置など、アーティストの演出を加えていきました。60人を同時進行はできないので、どうしても待ち時間が長くなる場面もあります。待ち切れずに動いたりしゃべったり、ザワザワする子どもたち。移動の場所やセリフがなかなか覚えられない子もいて、最初はこの先どうなるかと不安になる場面もありました。しかし、先生方のご指導の成果もあり、子どもたちは回を重ねるごと、セリフもポンポンと言えるようになり、ふと気づけば静かに話を聞くことができるようにもなっていました。

実際に舞台の上で練習してみると、大道具や小道具、ひな段の設置の具合によって随時変更が生じることもあります。また、発表時間には限りがあるので、時間内に収めるための演出の変更もありますが、その場その場のアーティストの言葉を聞き、たとえ時間がかかっても、子どもたちは楽しそうに応えてくれました。ワークショップの記録を読み返すと、アーティストが、細部までより作品を良くするためにどれほどたくさんの演出を加えたかに驚きます。そしてそれほどの演出でも、子どもたちはいつも元気いっぱい、一度も嫌がることなく毎回毎回楽しく練習に参加していたことも驚きでした。
セリフをただ話すだけでなく、くま、さる、野ねずみ、うさぎ、りす、きつつき、きつね、たぬき、ふくろう、冬の女王、北風のせい、雪ひめ、さばくの王子、とうい一つ一つの役にあった身振り手振りと衣装も工夫しました。どんな状況でのセリフなのか、どんな性格の役なのかをよく表した、とても面白い工夫が子どもたちからもたくさん出てきました。そうして、どんな役になった子も、一人ひとりがキラキラとした存在感を放つようになったのです。

アーティストは毎日学校には通えないし、限られた日数の中でしか練習に加わることができないので、アーティスト不在の日も先生と子どもたちに頑張ってもらうしかありません。きっと学芸会の練習の時数も限られている中ですが、大道具や小道具も先生と子どもたちの作品です。野ネズミがかじったことが分かるように穴のあく扉や、草と雪なども舞台を盛り上げる大切な作品。初めて使用する時に、「作ったよ~!!」と、嬉しそうに自慢げに見せに来た子どもたちにまた顔がほころびました。
そうして日々はあっという間に過ぎ、いよいよ本番です。まだまだ練習が足りてないところがあるかもしれない、もっともっと加えたい演出がある、アーティストも様々な思いを抱えての本番だったと思います。見守るスタッフもドキドキとワクワクで胸がいっぱい。これまでの過程を知っているだけに、発表だけを一つの作品としてみるのは至極困難で、一瞬一瞬、「初日は○○だった子が、あんなに!」などという思いがこみ上げてきます。セリフの間が空いても子どもたち同士で声かけをしたり、「フォーメーションフォーメーション!」囁きながら立ち位置に走って移動したり、一生懸命な子どもたち。観客もいつの間にか引き込まれて楽しそうに見てくれていました。
「種とは育つものであり、育てるもの。子どもたちはその両方をこのかわいい台本から自由に読み取り、奇想天外な方向へと撒き散らしてくれます。まっすぐ伸びる芽…クネクネ育つ芽…寄り道する芽…正解のない育ち方。子どもたちがどんな花を咲かせるのか楽しみです。」というのは当日パンフレットに寄せたアーティストの言葉です。

本当に60人一人ひとりが個性豊かで、毎回会うたびに、飽きずに何度もアーティストの名前を連呼したり走り寄ったり、熱烈な歓迎をしてくれる楽しく面白い子どもたちでした。この出会いを通じて、アーティストと子どもたち、先生が協力して一つの作品を創り上げていったことが、一人ひとりの心の中に、これからもずっと何らかの形で残っていってくれたら、そしてみんながこれからも素敵な花を咲かせてくれたら、と願っています。
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スズキ 拓朗(すずき たくろう)/振付家・ダンサー・演出家
https://www.children-art.net/suzuki_takuro/

110921 056aa.jpg 10月13日に、都内のとある幼稚園において石坂亥士さん(神楽太鼓演奏家・踊るパーカッショニスト)のワークショップが開催されました。ここの幼稚園の特色は外国人の子どもたちが多いことと、日本人の子どもたちも海外に暮らした経験のある子が多いということで、それだけに日頃から一人ひとりの個性を重んじるように心がけているという、公立幼稚園ではちょっとめずらしいケースの園でした。
亥士さんのタイコワークショップは9月に引き続き2回目となるこの日、子どもたちは亥士さんを見つけると友だちを見つけたかのようにフレンドリーに話しかけたり、答園してすぐにタイコをたたきにやってくる子もいたりして、とてもなごんな雰囲気ができていました。「ここの子どもたちと亥士さんとの相性がとてもいい」と言う副園長先生の言葉通り、子どもたちと亥士さんのフィーリングがぴったりくる様子がいち早く感じ取れました。
亥士さんが持ってきてくれたのは7つのタイコ(西アフリカを中心として普及している民族打楽器のジャンベ)と、ネパールのドラゴンボール(龍の絵が描かれた金のボール。宗教的な儀式に使われるようなもの)。ジャンベにはすでに慣れている様子の子どもたちは、亥士さんがジャンベを叩きはじめるとすぐさま足を動かします。彼らのコミュニケーションはとてもすばらしく、ただバタバタ足踏みしているだけではなく、亥士さんが叩くジャンベの音をよく聴きわけて、音に合わせて動いているのです。ウォーミングアップをして身体があたたまったら、ドラゴンボールというめずらしい楽器を子どもたちに紹介しました。ネパールの楽器ですが、お寺の読経の際にみかけるものに少し似ています。ボール状になっている金の淵を棒で叩き、グルグルなぞるように淵をこすると音が膨張し、ボワボワ~~ンという、聞きなれない不思議な音が出るものでした。子どもたちはその音色に大変な興味をもってなんでそんな音がするのかじっと見つめていました。
通常、園児にとって1時間はけっこう長いもので、場合によっては集中力がもたない場合もあるのですが、ここの子どもたちはほとんどずっとタイコにあわせて身体を動かしぱなしで、途中集中力が切れることもなく、本当に心から子どもたちみんながタイコを楽しんでいるようでした。とくにはまった男児の一人は、途中から亥士さんのタイコを借りて、セッションを始めるほど。その叩き方は驚いたことにちゃんと亥士さんの叩く音とマッチしていて、将来ミュージシャンになるのでは思われるほどでした。
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石坂亥士(神楽太鼓演奏家・踊るパーカッショニスト) https://www.children-art.net/ishizaka_gaishi/

IMG_5427aa.JPG 9月頭、まだ夏休みが明けたばかりの幼稚園で新井英夫(体奏家・ダンスアーティスト)さんによるワークショップが行われました。クラスが4歳児と5歳児に分かれているので、それぞれ1回1時間程度。新井さんの狙いは、ダンスをするというよりも、いつも当たり前のように動かしている身体を、今日はちょっと意識をしながら動かしてみようともの。タイコを鳴らして挨拶をしたり(子どもたちはタイコの音に何かしら反応して”答えようと”するもの)、金のボールをコン!と叩いてその音にあわせて全身の力を抜いて倒れてみたり、目をつぶってタイコの音に耳を澄ませどこから聞こえてくるか当ててみたり、音をたてずに新聞紙を持ったまま動いてみるなど、色々な小道具を使って感覚を刺激する試みを色々とやってみました。
幼稚園の先生の話では、はじめて会う人やはじめてやることに拒否感を覚えてしまう子が数名いるということだったのですが、先生たちも子どもたちの中に入り、子どもたちと一緒に楽しんでいたことも奏功して、誰ひとり脱落する子や拒否反応をしめす子はいなくて、始終子どもたちの集中がとぎれることなく、身体を動かすことを楽しんでいました。
終了後先生にお話を聞いたところ、普段先生にピッタリくっついて来る子はいないのに、ワークショップで身体と身体をくっつけることが多かったせいか、教室に戻ったあと子どもたちがワーッと先生の身体にしがみついてきたそう。スキンシップは信頼関係への第一歩。より一層先生とのつながりが深まったことと期待しています。
この日は第1回目。11月には2回目が開催される予定です。
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新井英夫(体奏家・ダンスアーティスト) https://www.children-art.net/arai_hideo/

いつのまにやらもう春ですが、年初めのASIASは、
巣鴨小学校の5年生29人(女子20人と男子9人)と写真家の梅佳代さんの授業でした。
以前から個人的に好きな作家さんで、当日を子どもたち同様に楽しみにしていました。
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当日の打合せでは少々緊張気味だった梅さんも、教壇に上がるとそれまでの迷いなどは一切感じられないほどの余裕で自己紹介。有名人との仕事の話になると子どもたちからも喚声があがり、それを楽しむかのように、「すごいやろ!」「すごーい」。「今の『~やろ』ってことで、出身地はどこでしょう?」「大阪!」「ブー!」色々な県名が出たがなかなか当てられない。そこで、手で県の形を作って見せると、即「石川県!」ご名答。このやりとりが子どもたちとの距離を一気に縮めたようだった。
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授業は、おおまかに言うと、一人1台ずつレンズ付きフィルム(使い捨てカメラ)を渡し、 クラスメイトの写真を1枚ずつ撮っていく、といういたってシンプルな内容。
梅さんからのリクエストは「カメラ目線で」 「1枚につき一人ずつとる」というもので、これまたシンプル。時間にも余裕があるし、あっさり撮り終えるのでは、という心配も正直なところあった。
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最初はサクサクと友達(同性)同士で写しあい、なにやら和気あいあいの様子。女子は背景にまで凝りはじめ、男子はおふざけ全開の者もいて大興奮状態に。図工専科の庖丁先生も梅さんも、彼らに混じってシャッターを切る。
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しばらくすると、教室内の空気がさっきと違ってきた。見れば、教室のまんなかを境に、男女別になっている。このクラスは男子が少ないので、同性同士の撮影会は男子の方が早く終わってしまう。まず男子側から女子に「撮影許可」を得ないといけない、というわけだ。「おい、おまえ先行けよ」「何だよ!?根性ナシがっ」 という男子のヒソヒソ声が隅のほうから聞こえてきた。振り向けば教室の隅に男子全員が貼りついている。写真を撮るという行為によって、普段よりも被写体を意識することになる。彼らにとってはこの授業は「照れ」の増幅装置となったわけだ。見ているこっちまで恥ずかしくなるような、そんな甘酸っぱい空気を含んで、少しずつ混ざり始めたが、それでも、なんとなくぎこちない。もしかしたら、当の子どもたちよりも、見ている大人たちのほうが楽しんでいたのかもしれない。
 ~ 次の週、現像上がり。
彼らにとって、カメラといえば「デジカメ」である。通常自分の撮った写真を見るのに時間を要することはないだろう。出来ばえはどんなだろうか、どんな顔で写っているのか、この“わくわく感”はフィルムカメラでないと得られない。
さて、図工室にやってきた彼らからは、先週の甘酸っぱい雰囲気はみじんも感じられなかった。ものの見事に、である。ふつうのお転婆でお笑い大好きな小学5年生だ。
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今日の流れは 撮影した写真の中から、自分のお気に入りの1枚を選び発表し、ファイルに収めるという内容だ。丁寧に選び出された1枚を大型モニタに映し、梅さんが一人ずつ講評していく。講評というより、一緒に楽しんでいる風だ。選んだ理由がそれぞれ思いもよらないヘンテコな理由である。うしろに写っている人や物までも、選ぶ理由になってしまうのだ。それらをひとつひとつを受け止めるように進行してゆくのだが、飽きることはない。たっぷり1時間も他人の作品を見る、ということは5年生とはいえ容易ではないはずなのだが、和やかな空気は崩れることなく最後の一人までみることができた。そのせいもあり、後のファイリングの時間が少し短くなってしまった。
そろそろチャイムが鳴る頃だというのに作業中の子が大半だ。一応の区切りとして梅さんの終わりの挨拶「写真を撮るとき、1対1になるやろ、そこで愛がうまれるんやよ、(ぼそっと)まあ子どものうちはわからんやろけどね。」・・・一同きょとん。いつかわかるときが来るかもしれないが、その頃に何人が今日のことを覚えているのだろう。記念として、ファイル1つ1つに梅さんがイラスト入りのサインをサービス。そのファイルを見たら、「愛」の話のこと、思い出してくれるだろうか。
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ワークショップ後の梅さんの話が印象的だったので追記すると、(時間が足りなかったが)この授業で一番重要な部分は、「1枚1枚写真をみながらファイルに収めるところ」であり、「写真の中の友達と目が合った時にさらに“愛”が深まる」とのこと。梅さんがデジカメでなくフィルムにこだわるのはまさにその部分で、加えて、デジカメでは削除されてしまうような「失敗作」の中に大事なものが納まっていることがあるそうだ。
偶然にも私は2度も写真のワークショップに立ち会っている。写真はその人(撮影者)をストレートにあらわすものであり、写真によって、アーティストの個性が子どもたちにそのまま伝わり、子どもたちも自分をストレートに表現でき、自然と仲間に興味を持つことができる。作品鑑賞に1時間もの集中力を維持することができるのは、他者への興味に他ならない。ASIASではあまり行われないジャンルのワークショップではあるが、これからもさらに多くの写真家と子どもたちとの出会いに期待したい。(事務局・田村)

今日は千代田区にある保育園の園庭での造形ワークショップ。
園からのリクエストは、子どもたちに、絵の具を使って、大胆に絵を描かせたい、というもの。
担当するアーティストは、深沢アート研究所のカブさん。いつも、遊び心のある仕掛けで、子どもたちをワクワクさせてくれます。
これまでも、3歳児、5歳児を対象に、年齢に合わせた様々な仕掛けで、ワークショップを実施してきましたが、今日は4歳児。お天気も良かったので、計画通り園庭のジャングルジムを紙で包み、そこに絵の具で絵を描くことに。
はじめは、園庭が見える室内で。
最初は、カブさんがひと型に切っておいた画用紙にクレヨンで絵を描きます。
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グリグリとひたすら塗りつぶす子もいれば、おじさん(?)を描いたりする子も。
みんな、カブさんに見て欲しくて、カブさんの周りに集まります。
「じゃあ、今度は外のジャングルジムに、みんなが描いた『ヒト』がいるお家とかを描いてみよう!」
カブさんの声で、みんなで外に飛び出します。
4歳児は、まだ絵の具にそれほど慣れているわけではありませんが、今日は外で、しかも、筆だけではなく、ローラーやハケまで使って描くのです。子どもたちは大興奮。届かないところは、低い足台の上に乗って描いていきます。
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とにかく、絵の具を塗ることを楽しむ子もいれば、家のかたちを描く子、「これはドアで・・・」と、ジャングルジム全体を一つの家に見立てて描いている子もいます。そして、自分のつくった紙人形を、自分の好きな場所に貼っていきます。
絵の具が混ざってしまうと、色の鮮やかさが失われていくので、今日は絵の具を混ぜずに描くことに。
保育園の先生たちとボランティア・スタッフは、絵の具コーナーで大奮闘!
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途中、カブさんが木型に切った画用紙を「好きなところに貼っていいよ」というと、「これは、あの木(園庭の柵の外にある木)が写っているところ!」と、ガラス窓をイメージして貼っている子もいました。
終わりに近づいた頃には、脚立を使って、ジャングルジムの一番高いところにも、絵を描くことに。
外で絵を描くのもはじめてなら、脚立にのって絵を描くのもはじめてです。
高いところに、最初はちょっとドキドキしても、すぐに慣れて、まだ白い場所にところに、気持ちよさそうに塗っています。
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見慣れたジャングルジムが、カラフルなオブジェに変身しました!
「子どもたちは、きっと今日のことを、お家でもお話することでしょう」と園長先生もおっしゃっていました。

朝日新聞の日曜教育面のコラム「あめはれくもり」にて、芸術家の子どもたちの活動の中で出会った子どもたちの姿を、9月23日より4回シリーズで連載しています。
このブログ内ではあまりお伝えできていなかったエイジアス(学校にアーティストが出かけ、先生と協力しながらワークショップ型授業を行う)の風景をご紹介できれば、と思います。
以下、掲載コラムの転載です。
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朝日新聞 2007年9月23日朝刊 25面 「あめはれくもり」
「子ども+芸術家=?」 堤康彦
「とんぼざくら」
このまちのおすすめスポットを尋ねた観光客役のスタッフに、小学6年生の男の子が答えた。「えっ、なにそれ?」。話を聞くと、団地の公園に夕方とんぼがたくさん集まり、夕日にあたって金色の桜のように見える。その風景を彼が名づけたのだという。
昨年11月、東京都練馬区内の小学校で行った、美術家・岩井成昭さんのワークショップでの一場面だ。テーマは「ツーリストインフォメーションセンターをつくる」。小学校は大規模団地にあり観光地ではないが、もし旅行者がきたら、自分のまちの魅力をどのように伝え表現するか。子どもたちは、自分なりの視点でまちを見直し、物語にしたり、造形作品にしたり、粘土を使ったクレイアニメにしたりした。
ワークショップ型の授業を提供する活動「エイジアス」を私が始めたのは7年前だ。音楽、ダンス、美術、演劇など様々な分野の現代芸術家を小学校に派遣し、先生と協力して授業をつくる。いまの社会を強く意識しながら、新しい価値や表現を生み出す創造のプロフェッショナルである芸術家。彼らが子どもたちに出会うとき、毎回様々な化学反応が起き、子どもたちは得がたい何かを学ぶ。
少子化や情報化などで大きく変化する現代社会で、子どもにとって切実に必要な学びは何なのか。私はそれは、アートによる学びであり、創造的な教育であると確信している

◇つつみ・やすひこ 10年間のサラリーマン生活を経て、01年にNPO法人「芸術家と子どもたち」を設立。42歳。

先月から事務局に仲間入りしたスタッフ・田村裕子より、
初めてASIASの記録を担当した2日間(10/19・27)のレポートをお送りします。
―1日目。
私にとっても記念すべきASIAS授業参加初めての日。天気は快晴で絶好の写真日和となりました。
天気にも負けないぐらいのパワフルさで児童たちが登場、こっちもかなり気合いが入ります。
尾仲さんも同様に思われたことでしょう。
まずは尾仲さん自己紹介。「僕のことは”先生”じゃなくて、”さん”でもなんでも好きな風に呼んでください!」
初対面の大人に多少緊張気味だった子どもたちに少しずつ和やかな雰囲気が漂ってきました。
そして一人1台ずつ手渡された使い捨てカメラに興味津々。
テーマは『6年生の記憶を残す』。
「今君たちが見ているあたりまえの風景はそのうち忘れてしまう。 でも、写真を残すと簡単に思い出すことができるんだ。
大人になってから、撮ったときには気付かなかった何かが見えてくるんだよ。」
まずは隣同士撮りあいっこ。そして校内の「思い入れのある場所」へ。皆考え悩むことなくそれぞれの場所へ急ぎます。
こっちも大忙しで彼らの後を追う・・・すっかり楽しんでいる私でしたが仕事もしなければ。
学校中走り回る子どもたち、記録者(私)も走る走る!(翌日・翌々日と私のカラダに影響が出たのは言うまでもなく・・)。
どうやら私も走っている間はすっかり子ども化してたようです。
タイトなスケジュールの中、小走りで近所の商店街(うってつけの撮影スポット『地蔵通り商店街』) へ移動。
まるでドラマのロケかなんかみたいに、 カメラ小僧たちは商店街を走り回ります 。
周りの時間はゆったり流れているのに、そのコントラストも芸術的、というと言いすぎでしょうか。
あっという間の撮影タイムを終え、学校へ戻る道すがら生徒たちとの興奮さめやらぬ会話
「あそこのね、80円のたいやきはこの辺では一番なんだよねー」
「なんか懐かしかったー」
・・・ってキミたち歳はいくつなの?(笑)
週末の宿題として 「残りは自分の家で。きたない勉強机(の上)は片付けないでね!」とのこと。
次週アタマに現像、次の授業にはそれぞれのプリントがあがってきます。
―2日目(1週間後)
尾仲さんから生徒たちに配られた、小さなスケッチブック。
今日はこれに現像ほやほやの写真を貼り付けて、自分だけのアルバムを完成させます。
そのなかから各自お気に入りの1枚を選び、全員分を投影機で発表しようというのが目標です。
自分で撮ったものへの解説を口々にはじめる生徒たち。図工室は大盛り上がりの大騒ぎ。なかなか作業は進みません。
それでものりで両手をべたべたにしながら楽しそうにしゃべっています。
で、肝心の写真の出来はどうなんでしょう?
見れば、想像以上の写真(というより作品!)。大人の私たちを絶句させるようなものすごい才能にじかに触れた感覚です。
当初、図工専科の北角先生が懸念されていた
“いつもつるんでいる仲良し女子3人組”―同じ場所で同じものを撮ってしまうのでは―についても、全く問題なかったようでした。
一人一人違った、すばらしい6年生の記憶。
そして最後に先生から気づいた点など挙げていただきました。
「思いのほか、児童たちには迷いがありませんでした。同じ場所に立っても、視線は別のものを追っている。
おそらく、尾仲さんの投げかけが通じたんじゃないでしょうか。」
ちょうど私が彼らと同じ年の頃、写真というのが照れくさくて、わざと避けたりすることがありました。
その頃に尾仲さんのようなおとなに今回のように直球で言葉を投げかけてもらえていたら、何か少し違っていたのかもしれません。