小学校の特別支援学級で行われた、美術家の中津川浩章さんによるワークショップをご紹介します。普段は個人製作が多いので共同制作に取り組んでみたい、活動の中で「これ僕の!」と自信を持って表現してほしい、という先生からのリクエスト。一つの教室を丸ごと制作スペースに変えて、20人の子どもたちと2日間のワークショップを実施しました。

部屋に入ると用意されていたのは3m×3mの大きな画用紙。まずは紙の周りにみんなで座って、中津川さんからの説明を聞きます。絵具を使っていろんな絵を描くことを説明した後は、早速絵具をみんなに配ります。用意したのは発色の良いポスターカラー。黒以外の色を薄めに溶いて、手ごろな大きさの入れ物にいれ、一人一色と、好きな大きさの筆を選びます。色を選ぶにも、同じ色だけを使う子やいろんな色を試してみる子など、一人一人の好みが現れます。
そして、いよいよ制作スタートです。最初は一人ずつ、画用紙の上に乗って「まっすぐな線」を描きました。短い線や、画用紙の端まで続く長い線、四角になる線など様々な色と味を持った線が描かれていきます。子どもたちの「描きたい!」という気持ちもどんどん高まり、二人ずつ、四人ずつ、と描く人数も増やしていきました。薄く溶いてあるので、お互いの線が重なったり交わったりした部分も、綺麗な色の重なりを見ることができます。

最終的には全員で画用紙の上に乗り、中津川さんから注文の出るいろいろな種類の線や点、円などを描いている内に、子どもたちの心も次第に開いていくのか、一人一人の自由な線が広がりを見せるようになります。

そして一通り画面が色で埋め尽くされた後は、一度スポンジで水分を拭き取り、その上から、濃く溶いたポスターカラーを使って描いていきました。動物に乗り物、一人一人の好きなものも見えてくる瞬間です。具体物だけでなく、しずくを飛ばしたり、いろんな色の塗り方も試みたりしているうちに、ポスターカラーもどんどんなくなり、あっと言う間に作品が完成しました。

完成した後は、2日目に向けてそのまま乾かします。今回は途中から紫が大人気になり、海や宇宙をイメージさせるような作品になったかと思いきや、乾いてみるとまた違った表情になり、筆の跡やドリッピングの跡が見えるようになり、たくさんの小さな世界がギュッと詰まった大きな作品になっていました。
そして、土日を挟んでの2日目のワークショップ。今日は何をやるのか待ちきれない様子の子どもたちに、何をするのか説明します。「みんなで動物ワールドを作ろう」というテーマのもと、まずはどんな動物を知っているかを聞いてみました。ライオン、ヘビ、ウシ、ペンギン、ゴリラ、コンドル、キツネ、ゾウなど次々に動物が出てきます。
しかし、「じゃあその動物たちを、1日目に描いた絵から切り出してみよう。」という説明には、「難しい!」という声も。アーティストは「正確じゃなくてもいいよ。こんな動物いたらいいな、という動物でもいいし、動物が生きていくのに必要な木や水も作っていいよ。」と話していきます。さらに、「鳥とか作るのに、羽と胴体バラバラに作っていい?」「間違えたら違うの作ってもいい?」「誰かと一緒に作ってもいい?」などどんどん質問が出てきて、それに答えるたび、子どもたちもどんな風に作るかイメージを持てた様子でした。そして、「失敗したら?」という質問には、「失敗はないです。失敗したら、またそれをどうしたら素敵になるか考えるのも楽しいと思わない?」というアーティストの答え。作品のうまい下手を気にしてしまう子どももいるらしいですが、「失敗していい」と言ってもらえた事で、楽しんで制作に取り組めたと先生から終わった後に教えてもらいました。
見本を見せずに言葉だけの説明ではちょっと難しいと思うことも、アーティストの声掛けや、一人一人の表現をそのまま受け止めるという雰囲気を作ることで、安心して制作に取り組める環境を整えることがとても大切だと思いました。

さてさて、質問が終わったら早速画面を切り取りに行きました。最初はグループの代表が大きめの画面を切ってみんなに配っていましたが、だんだん慣れてくると、みんなそれぞれに好きな分だけ好きな形で切り取っていきます。ペンギンにコンドル、ネズミにアザラシなど、思い思いに動物を切り貼りしていきます。大きなゾウを作った子は、「飼育員さんも!」とゾウの鼻に人を乗せていました。そのうち、アンコウや潮を吹いているクジラも登場、緑の部分を切り取っていたら「カエルになっちゃった!」と偶然できた形も楽しみつつ、真っ白だった画面が、様々な生き物の暮らす素敵な世界に生まれ変わりました。

1時間ほど制作に取り組んだ後は、一度みんなの作品を鑑賞して、自分の作品の事や、友どもたちの作品の良かったところなど、感想を聞かせてもらいました。
実施後の先生のアンケートでは、「ダイナミックに表現する楽しさ、描きながらいろんな色が混ざっていくおもしろさを味わうことができた。」「一人一枚の画用紙に向かうのではなく、大勢で大きな作品をつくる体験ができた。」などの感想をいただきました。

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中津川浩章/美術家
https://www.children-art.net/nakatsugawa_hiroaki/

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