MENU
前のページへ戻る

ASIAS実施事例Example of Execution

ASIAS公立小中学校 事例紹介

ASIASストーリー①
周囲の目が気になるAさんが、表現する楽しさに出会えた日

ある日、体育館に集合すると、派手な音楽とともにアーティスト2人が踊りながら入ってきた。手の届く距離で見るプロのダンサーの迫力に、びっくりして見ているAさん。

その間にも、次のワークが展開。アーティストがパーセンテージを示し、子どもたちが自分で考えて100%伸びたり、58%のポーズをとったりしながら様々な表現を楽しむ。「そのポーズおもしろい!」「人とちがっているポーズがいいよ!」アーティストの声かけに、みんなが色々なポーズを考えて、体育館が楽しい雰囲気に満ちてくる。

ワークショップが始まって20分。
「何しているか当てて」というアーティストの問いかけに他の子たちが答える。「糸であやつってる」「磁石で動かしてるみたい」。これは2人1組で、1人が相手に手をかざして、もう1人はその動きについていくワーク。ルールは2つ「手にさわってはいけない」「しゃべってはいけない」。

「近くの子とペアになって~」とアーティストが呼びかけた。すると、ついにAさんが友だちとペアになって動きだした。少し手を動かして、相手をあやつってみるような仕草。友だちが応えて動くのを見て、Aさんの動きも徐々に大きくなっていく。表情が生き生きしてきて、楽しそうに色々な動きを試してみる。

しばらくすると「ペアを変えてもう一回。」の声。気が付くと、Aさんは、普段はあまりしゃべったことのない子とペアになって踊っていた。

「身体を動かしながら表現するっていう楽しさを初めて知った!表現するためには、恥ずかしがらずに動くこと!」今まで感じたことのない感覚に出会ったAさんの顔が輝いていた。

ASIAS児童養護施設 事例紹介

ASIASストーリー②
B君が夢中で太鼓をたたいて、自分の居場所を見つけた時

小学3年生のB君は、1か月前に家庭の事情で児童養護施設にやってきた。同じ寮には同い年の男の子もいるが、もともと気持ちを上手く言葉にできないB君は、すでにできあがっている人間関係に、どうやって入っていけばよいのかわからず、寮にいる時も一人で過ごすことが多かった。何をするにも“俺なんて…”と、積極的に取り組もうとしないB君に、担当職員のCさんは、“今度、いっしょに体を使ってあそんでくれるオモシロイヒトがくるんだけど、ちょっと顔出してみない?”と、アーティストワークショップに誘った。B君は、“まあ、いいよ。”と生返事をした。

ワークショップ当日、小さい子から中学生まで、それぞれの寮から集まった子どもたちのところに、不思議な楽器をたくさん携えた、風変わりなおじさんがやってきた。そのおじさんは自己紹介もせず、陽気に笛を奏でながら、楽しそうに身体を動かしている。思わず一緒に踊る子、少し怖がっている子、子どもたちのいろいろな反応がある中、おじさんは、笛を吹きながら、子どもたち一人ひとりと握手をし始めた。いつも元気なD君は、握手をした手をひかれると、スッと立ち上がり、おじさんと一緒に踊っていた。楽しそうだな…と思いながら、自分の番が来るのが少し怖くて、身体がギュッと固まるのがわかった。

おじさんはD君とのダンスを終え、B君の前に来た。差し出された手を掴む勇気が持てずにいると、おじさんはたくさんある楽器の中から、小さな太鼓を持って来て、優しい目でこれを叩いてご覧と、合図した。“ぴっ” “……ぽん” “ぴっぴっ” …ぽん、ぽん“ ”ぴぴぴ!“ ”ぽんぽんぽん!“最初はおそるおそる叩いていたB君も、おじさんの笛に応えるように、徐々に音が弾んでくる。二人の楽しそうな音の会話に、他の子どもたちも聞き入っていた。

夢中になって太鼓をたたいていたB君が、ふと周りを見渡した時、他の子どもたちは、B君の太鼓の音に合わせて踊っていた。おじさんは笛から大きな太鼓に持ち替えて、B君の太鼓を盛り上げるようにドーン!ドーン!と大きな音を鳴らしていた。

おじさんが“ドドンッ!”と合図を出すと、それまで大騒ぎだった空間の音と動きがピタッと止まった。ワーッと拍手喝采する職員さんたち。それにつられて、子どもたちもみんな拍手した。少し興奮気味のB君も、フッと身体から力が抜けて周りを見渡すと、同じ寮のE君と目が合った。E君はニコッと笑って、拍手している。B君も、嬉しくなって思わず手を叩いた。

ASIAS障害のある子どもたちとの活動 事例紹介

ASIASストーリー③
人とふれあうって、こんなに気持ちがいいんだ!

特別支援学級に通うC君は、自閉傾向の小学6年生の男の子。とても優しくて愛想もよいのだが、自分の思っている方向に向かえないとパニックになり、友だちを傷つけてしまうこともあった。最近は、大好きな友だちが他の子とあそんでいるのを見て、自分も仲間に入れてほしいことを上手く伝えられず、友だちを突き飛ばしてしまうという事件が起きている。担任の先生は、“普段とは違う雰囲気の中で、友だちと気持ちを合わせて動くという経験をさせてあげたい”という思いのもと、アーティストワークショップに申込をした。

学校に訪れたのは、奇妙な衣装を纏った男女2人組のダンサー。体育館に低音のビートが響く音楽が流れ始めると、魚のような雲のような滑らかな動きで踊り始めた。いつもの体育館が、いつのまにか大きな海に包まれたような不思議な空間へと変わっていく。はじめは見慣れないダンサーの存在に、戸惑いの表情を見せていたC君も、音とダンスに身体が揺れ始め、徐々にこわばった身体の力が抜けていく。その姿を見逃さなかったダンサーの一人が、スッとC君に手を差し伸べ、一緒に踊らないかと言葉なしに動きだけで誘う。優しい目に吸い寄せられるように、思わず手を重ねたC君を、絶妙な力加減で引き寄せるダンサー。“C君って、こんな優しい動きもできるんだ!” 子どもたちは、2人の即興ダンスにしばらく見とれていた。

みんなで身体ほぐしをした後、子どもたちは2人組になり、手のひらや頭など、お互いの身体の一部をくっつけながら自由に動きまわるワークを行った。C君の相手は、こないだ突き飛ばしてしまった友だちだった。しっかり手と手を合わせた状態から始めたのに、自分の好きなように動くと簡単に手が離れてしまう。どうしたら手を合わせたまま動けるんだろう?C君は自分の手のひらの感覚に集中した。すると友だちが、ググっと自分の方に手を動かしているのを感じた。手のひらの感覚に従うように、スッとあとずさりするC君。2人はその後も、押したり引いたり、くるりと回ってみたり、手のひらから伝わる感覚だけを頼りに動き続けた。2人のダンスは、言葉を交わさなくとも、しっかりと気持ちが合わさった、優しいダンスだった。