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コラムColumn

カラダとココロがおどるとき~少年院での実践(法務教官のこえ)~

少年院「東日本少年矯正医療・教育センター」でのワークショップ様子をアーティストや法務教官の先生方へのインタビューを中心にお届けしているコラムの後編。アーティストのこえに続いて、今回はワークショップに立ち合ってくださった法務教官の先生方のインタビューの様子をお届けします。

>>アーティスト・セレノグラフィカ(ダンスカンパニー)のお二人へのインタビューの様子はこちらから

【助成】公益財団法人ベネッセこども基金

東日本少年矯正医療・教育センターは、関東医療少年院と神奈川医療少年院を移転・統合して、平成31年4月1日に設立された少年院です。少年院は、家庭裁判所から保護処分として送致された少年に対し、犯罪的傾向を矯正し、健全な育成を図ることを目的として矯正教育を実施するとともに、16歳に満たない少年受刑者についても、16歳までの間、矯正教育を行うことができる施設です。[東日本少年矯正医療・教育センター 『施設のしおり』より]

※「少年院にいる子どもたちの現状」についてコラムはこちらから


【ワークショップ実施概要】

実施施設 東日本少年矯正医療・教育センター(東京都昭島市)
アーティスト セレノグラフィカ(ダンスカンパニー)
実施期間 2022年12月に2回、2023年2月に2回 全4回各60分実施
参加者 医療措置課程に在院する14歳~20歳くらいの女子 15人(各回10名程度ずつ参加)

■最終回のワークショップの様子 
※新型コロナウィルス感染拡大防止のため、実際のワークショップ中は、アーティストも子どもたちもマスク着用で実施しました。

12月に2回、2月に2回の計4回実施。各回60分ずつの実施で、すべての回に参加した子もいれば、2回のみの参加の子もいました。子どもたち一人ひとりには、自分で考えた「ダンサーネーム」をつけてもらい、アーティストはそのダンサーネームで一人ひとりに声をかけながら、ワークショップを進めていきました。毎回、「ダンスの手洗いうがい」と題した準備運動からスタート。自分の身体をさすったり、仰向けになったり、ゆったりとした曲の中で身体のこわばりを取っていきました。アーティストの動きを真似しながらリズムに乗って動くことや、「片手をあげたポーズ」など、簡単なルールの中で自分のオリジナルの動きやポーズをつくるなど、表現の引き出しを増やしていった子どもたち。ペアワークをしている時は、お互いに目を合わせ、息を合わせながら、楽しそうに身体を動かしてくれました。これまで実施したワークを繋げると、いつのまにか1曲のダンス作品が完成!最後まで踊りきり、並んでお辞儀をした時の晴れやかな表情がとても印象的でした。はじめは緊張している様子も見られましたが、「まほさん」「あびちゃん」のあたたかいお人柄と、素敵な音楽に包まれながら、身体も心もほぐれ、少しずつそれぞれの「ダンス」を見せてくれました。


インタビューの様子

全4回のワークショップが終了してから1週間後、今回のワークショップについて、受け入れてくださった時の思いや実際にワークショップに立ち合っての感想など、法務教官の先生方にインタビューをさせていただきました。

 

■「少年院」にアーティストを迎えること

久保田/芸術家と子どもたち:当団体では、2021年度から「ベネッセこども基金」の助成をいただきながら、少年院でのワークショップ実施を考えて活動してきました。その中で「少年院での実施は難しいのではないか」という声も多くいただいてきたのですが、今回、なぜ受け入れてくださったのか、受け入れるにあたって心配だったことなどありましたら教えていただけますか。

向井先生

向井先生(以下、向井):最初お話をいただいた時は、正直何をするのか?というのがよくわからなくて(笑)。面白そうだけど、何をするのか上手く説明できないことを少年院の中でやるのは難しいなとは思いました。また、「少年院」は様々な制約がある場所なので、「自由」というイメージがある芸術の良さを、本当にこの場所で活かせるのか?という心配はありました。まず、その辺のもやもやを解消するために、最初に私が児童養護施設でのワークショップを見学させていただきました。その後も、色々とこちらの要望も丁寧に聞いていただく中で、こういう形だったらできるかもというイメージが持てたので、教育活動の企画を担当している北村先生、原田先生にも相談して、見学にも行ってもらって、じゃあやってみようかと。

原田先生(以下、原田):児童養護施設のワークショップを見学させていただいた時、子どもたちとアーティストの関係が近いことが素敵だなと思う反面、これをそのまま少年院でやるのは距離感的に難しいかもと思いました。ただ、今まで芸術との触れ合いがなかった子たちが、色んな世界に出会うことはいいことですし、職員が上手く橋渡ししながら、実施できたらいいなと思いました。女子の体育指導の内容をどうしようかと考えていた時でもあったので、色々検討して、今回は体育指導の一環として受け入れさせていただきました。

向井:いずれ社会に出ていくということもあって、少年院にいる間から、子どもたちが外部の方と接する機会をつくることは大事だなと思っています。コロナのこともあったので、検討に慎重を要したところもありますが、職員と接しているだけだとやはり社会が狭いといいますか。少年院はここを一つの社会として色々なことを勉強しているようなところでもあるので、外部の方にも入っていただきながら、色んな人が応援してくれているんだなとか、色んな仕事をしている人たちがいるんだな…みたいなところを感じてもらえる機会にできたらと考えていました。

 

■ワークショップに参加した先生方の思い

久保田:今回、先生方が子どもたちと一緒に全力でワークに参加してくださったことも、場づくりとして、とてもありがたいなと感じていました。その辺り、先生方はどのようなスタンスで参加してくださっていたのでしょうか。

向井:職員が率先して手本を見せるという意味でも、何人かの職員には楽しんで思いっきり参加してもらいました。職員が参加することで、子どもたちものってくれた部分はあるのかなと思います。一方で、安全のために、活動からは一歩離れてきちんと全体を見守る職員もいました。

原田先生

原田:普段やらないようなワークもあったので少し戸惑いましたが、職員の人間らしさみたいなところも出せたのは良かったかなと思います

高塚先生(以下、高塚):特に、自由に歩いて、すれ違う時にハイタッチのような動作をするワークとかは、子どもたちがみんなすごく笑顔で、楽しそうにやっていたのが印象的でした。普段子どもたち同士で近い距離で関わる機会がほとんどないので、子どもたち自身、色々と感じることも大きかったのかなと思っています

北村先生(以下、北村):その姿を職員も観察できたっていうはとても良かったように思います。

向井:外部の方が来てくれて、今日は特別な日なんだよというところで、こういう活動ができたのは良かったですよね。

原田:ここにいる子どもたちは、恐らく私たちが思うよりもずっとずっと混沌とした社会の中で、色んなことがあってここに来ているのではないかと。一旦ここでリセットをして、ソフトランディングしていくんです。なので、今回のように「息を合わせて動いていたら、いつの間にかとても美しいダンスが出来上がっている」みたいな体験は、彼女たちのソフトランディングとして、とてもいいなと思いました。職員の方でも取り入れられそうなウォーミングアップもありましたし、そういう意味では、とても勉強になりました。

自由に歩き回りながら、すれ違った人と息を合わせてジャンプをしたり、手で挨拶を交わしたりするワーク

子どもたち一人ひとりと目を合わせ、声をかけながら、ゆっくりと関係を築いていきました。

「お二人のダンスがとても素敵だった。こんな動きができるのかと感動した」という子どもたちからの感想も。

 

 

■アーティストと子どもたちの関係性

北村先生

久保田:セレノグラフィカのお二人にもお話を伺ったのですが、今回、「“愛おしいと思える自分“と、もう一回出会い直してもらえるような機会になったらいいな」と思いながらワークショッププランを考えてくださったとのこと。「彼女たちが社会の中でしてしまったことは、ある文脈の中では許されないことだと思うけれども、自分の魂の部分まで否定しないでほしい」と仰っていました。お二人が考えてくださっていたその辺りの方向性というのは、どのように感じられますか。

北村:自分をなでたり、マッサージしたりする時間がありましたよね。あれはすごくいいなって思いました。普段の少年院のカリキュラムの中にはないですし、子どもたちも「これ気持ちいいな」って思ったら、個室で自分でもできる。「運動しましょう」ではなく、「楽しく身体を動かしながら、自分をいたわる」という感じは子どもたちにとっても良かったのかなと思います。

向井:お二人がそういうふうに考えてきてくださっていることを、子どもたちが一番汲み取っていたのではと思います。特に、彼女たちが書いた感想文を見ると、本当に一つ一つのことについて、一生懸命受け取りながらやっていたんだなというのが伝わってきて。我々職員なんかよりもずっと、まほさん、あびちゃんの思いをしっかり受け止めて参加してくれていた子が多いのではないかと思います。人の心の動きに敏感な子も多いので、お二人のそういった気持ちが子どもたちに伝わったからこそ、上手くいった、楽しくやれたのではと思います

「ポーズするのが恥ずかしかったけど、みんなが楽しそうにやっていたので、楽しんでいいんだと思えた」と感想に書いてくれた子もいました。

原田:お二人のダンスを見せていただくと、ご本人たちが自分の身体をいたわっているのが伝わるし、そういう姿を子どもたちに見せてくれたのがまずありがたいなと思いました。ウォーミングアップから何からすべてのワークが、「自分の身体の感覚に気づく」ということを大事にされていたのがとても良かったなと。自分の身体と向き合うという意味では、マインドフルネスを実施している少年院はありますが、今回はさらに「人と呼吸を合わせる」とか、「人の手をちょっと許す、受け入れる」というのも入ってきていたのが印象的でした

 

■少年院にいる子どもたちの「ダンス」

久保田:全体を通して、印象的だったワークや子どもたちの姿など、心に残っている場面がありましたら教えてください。

高塚先生

高塚:子ども同士が向き合って手を合わせてジャンプしたりするワークは印象的でした。誰かと楽しい時間を共有することはすごく大事なことだなと思っていて。特に、これから社会に出ていく上で、今回のように、言葉がなくとも相手と通じ合う経験ができたというのは大きかったのではないかなと思います。もちろん人間なので嫌いな子がいたり、嫌いな先生がいたりもあると思うんですけど、普段とは違うやりとりの中で、「あ、別にこの人、全然平気じゃん」みたいに思えることもあったのかなと。

原田:向かい合ったときに照れたように笑う姿とかは印象的ですよね。うふふっていう。普段の生活の中でも、そういう場面がない訳でもないんですが、単純にかわいらしいですよね。ワークショップ中は表情があまり出ていなかった子も、感想文は心豊かに書いていて、そうした彼女たちの色々な姿が見られて面白かったです。

北村:やはり子どもと正面で手を合わすくらいの至近距離で接することがあまりないので、子どもも最初戸惑うかなと思ったんですけど、意外と楽しそうにやってましたよね。人によって手の距離は違いましたが。この子はやっぱりちょっと遠いな~って子もいれば、手が触れるぐらいの距離でやっている子もいて。人の背中についていくワークも面白かったです。みんなすごく積極的にワーッて楽しそうに素早く動いているのが印象的でした。

久保田:わちゃわちゃしてましたよね。

向井・原田:ここぞとばかりにね(笑)。

円になり、ウェーブのように一人ずつポーズをとっていくワーク。「自分がダンサーになったみたいだった」という感想も。

向井:私は、輪になって順番に高いポーズとか低いポーズとかをするワークが印象的でした。「これは何をやらされているんだろう?」って、初めは戸惑っている感じの子も結構いて(笑)。でも回数を重ねるうちに、今までずっと同じだったポーズを少し変えてきたりとか、工夫している姿も見えて。次はどうやろうかなって考えながら、すごくドキドキしながら、自分の番が来たら思い切ってやっている感じがいいなと思いました。

原田:そこに音楽がつくと、また一気に雰囲気が変わって良かったですよね。

向井:音楽もバラエティーに富んでいて、「プロが本気で選んでます」って感じがとても印象的でした。我々が片手間に選ぶのとはやはり違いますよね。子どもたちの何気ない動きの中で、素敵な音楽が流れる…もうそれだけで「ダンス」だなって思いました


向井先生、原田先生、北村先生、高塚先生、貴重なお話をありがとうございました。

当団体としても初めて足を踏み入れた「少年院」。これまで漠然と抱いていた「厳格」なイメージや「怖い」という印象も、実際に教官の先生方と話し、そして子どもたちと触れ合う中で、学校や児童福祉施設と同じく、色んな背景を持った子どもたちが集まる、1つの「居場所」のような存在なのではないかという思いに変わりました。様々な制約や規則があることによって守られるものはもちろんありますが、そこに人がいる限り、制約や規則では縛れない、「人」と「人」との交流によって守られるものもあるのではないかと思います。「アーティスト」という、子どもたちの表現を引き出し、応答し、そうした「人」と「人」とのふれあいの場をつくるプロの方々と共に、私たちはこれからも「少年院」に通い続けたいなと思っています。

写真・編集:NPO法人芸術家と子どもたち
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