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コラムColumn

アートがつなぐ育ちの場 ~児童養護施設、こども食堂、ファミリーホームの交流ワークショップ~ vol.2

前回のコラムでは、このプロジェクトに参加してみた感想や子どもたちの様子などをお伺いしました。後半では、地域との関わりや今後の課題についてお話ししていただきました。

(助成:(公財)東京都福祉保健財団「子供が輝く東京・応援事業」)

>>プロジェクトの概要を含む、vol.1の記事はこちらから


◆地域との関わりについて

ー子どもたちが誰でも遊びに行ける開かれた場所で、施設の子も地域の子も一緒に遊ぶこと

芸術家と子どもたち 中西(以下、中西):(座談会前半で話題になりましたが)児童養護施設の子が子ども食堂のような地域の場所に出ていくことにハードルがあるということは、そもそも、そういった施設と地域の行き来は、子どもたちの特性やニーズが違っていて必要無いことなのかもしれません。でもそこを一緒にすることで何か突破口みたいなのがあったらと思うのです。

新しい場所や外に行くことに抵抗があるということが、児童養護施設や要支援家庭だった子が、高校卒業や施設退所後、自立した時に社会から孤立しがちな原因にもなると思うと、音楽、ダンス、演劇などの活動が彼らとのちょっとした接点になっていたらいいなと思います。みなさんの立場から、どのように地域と関わっていきたいとか、地域にこういう場所があればいいなとか、そのためにはこういうことをしたらいいんじゃないか、など伺いたいと思います。

シルバー人材センターでのワークショップ(2019年度)

おひさまネットワーク 福本麻紀さん(以下、福本)シルバー人材センターのような、地域の子たちが誰でも遊びに行ける開かれた場所に、定期的に新井さんたちに来ていただいて、児童養護施設のお子さんたちも、新井さんと音楽遊びをしたいから来て、そしてみんなで一緒に遊ぶっていうのが、一番自然な形なんじゃないかなと思います。子どもにとって負担がなく、しかも子ども自身が場所を選び、子どもが本当にやりたいと思って参加できる形態が一番望ましいと思います。

でも、今回のプロジェクトでは、交流する場所が特定されていたり、ファミリーホームさんが子どもたちを送迎して連れてきたりっていう、大人の支援や関わりがあって初めて成り立つ場だったので、それだと子どもは、「行かなくちゃいけないのかな」「連れて行ってもらって悪いな」「知らない子たちと何で一緒にやらなきゃいけないのかな」とか、いろんな不自然さが残るので、自由に参加できる開かれた場所で、施設の子も地域の子も一緒に同じことに取り組んで楽しい体験をする。なおかつ、芸術的な体験が子どもの発達を促進させて、良いところを引き出してもらって自信につながれば一番効果があるんじゃないかなって思います。

中西:初めての場所だと、やりたい気持ちがあっても一歩踏み出して参加することが難しい子もいるでしょう。皆さんのような大人のサポートがあって、まずは一つの場所につき一年ぐらい継続することで何とか慣れて、やっと自然にその場にいられるようになるのかなと思いますし、「自然に多様な子どもたちが一緒にいる」ということのハードルの高さを改めて感じます。

 

ーお互いの背景や、子どもたちの気持ちに配慮しながら自然な形をつくる難しさ

子供の家 長友麻里さん(以下、長友):福本さんが運営されている木曜日の活動に「子供の家(児童養護施設)」の子が何人か行ったことがあるんですけど、それが継続的になったかというと、そうはなりませんでした。

なぜかというと、施設で暮らしていることをオープンにしたくない子たちもいて、施設が生活の場所であり、お家であって、ここの中なら大丈夫って安心している子もいる中で、どう地域とうまくやっていくかって、すごいナイーブな問題だなぁと思います。

今回のプロジェクトでおひさまネットワークの子たちが子供の家に来る時、お互いの場所がどういうところかちゃんと分かっているのだろうか、そこに同級生の子がいたらどう思うだろうと、子どもたちの気持ちに配慮しながらも、それでも同じ清瀬市に暮らしていて、同じ学校に通っている、というせめぎ合いはどうしたらいいんだろうって思います。里親支援や地域の人たちの集まりに参加して、清瀬市のことを多少は知っているんですけれども、それでも、いつまでも正解が見つからないというか、これじゃベストじゃないけれども、ベターなのは何だろうと、いつも悩みながらやっています。

子供の家でみんなで光のダンス (2020年度 撮影:伊藤華織)

子供の家 角能秀美さん(以下、角能):子どもたち同士の自然な形の交流ってなんだろうなぁって思うんですけど、まずは、施設の子たちがもうちょっと施設の外に遊びに出て行きやすいようにしなきゃいけないなって思います。うちの施設は、園庭があって、同じ年代の子どもが集まっているので、遊びも生活も全部施設の中で成り立っちゃうところがあるし。職員も心配で、例えば自転車での外出は近くの公園までっていうのを小学校高学年までやってるので。もっと自然に友だちの家に遊びに行く経験を積み重ねていけば、いろんなハードルが低くなって、学校生活にも慣れて、友だちができて、地域の活動に友だちと誘い合って行けるようになる、みたいな流れができると、それこそ自然な形の交流なのかなぁって思います。

子供の家のいいところは、友だちも遊びに来るんですよね。清瀬の特性なのかもしれないけど、わりと要支援の家庭が多いっていうこともあって、波長が合うのか、子どもたちもつながるっていうのは良さでもある気がしています。

長友:今回のプロジェクトで来てくれたおひさまの子たちの中に、「あ、見たことある子だな」っていう子がいました。小学校時代に子供の家の子と友だちで、よく遊びに来ていたのを覚えていて。その子も「自分は子供の家に100回は来たことあるんだ!」みたいなことを言っていて。普段から、子供の家の子の友だちに「遊びに来ていいよ」って言っていることが、こうやって何年後かに「あ、小学校の時に遊びに来たところだ」って思ってくれる子がいるなら、今すぐワークショップでつながらなくても、友だちが遊びに来てくれた時に私たち職員がウェルカムな雰囲気を出すことはとても意味があるなって思いました。

 

ー施設や子ども食堂のことを正しく理解してもらうためには、不自然な形だとしても意図した働きかけも必要

福本:子供の家の子たちが地域に出ると、子どもの気持ちとかいろんなせめぎ合いがあるっていうお話がありましたが、子ども食堂でも、地域との差異をどう埋めたらいいかっていう同じような問題を抱えているんですね。

清瀬市内の中学生が「子ども食堂について知りたい」という意見を学校に出して、今度その説明に私が伺うことになったんです。中学生たちは子ども食堂に対して「食が不十分な子どもたち」「貧困」というイメージを持っていて、そのために自分たちに何かできることがあるんじゃないかっていう気持ちで発案しているんですね。でも、その子たちと同じ中学校の同級生もそこに食べに来ているっていうことも、当然、伝えなくちゃいけないことだと思うんです。子ども食堂に来てる子は食が不十分なんだっていう先入観を植えつけるのではなく、「子どもの孤食」ということが問題の本質なんだと理解してもらうことを積み重ねていかなくちゃいけないと思っています。

児童養護施設の子はそこで暮らしてる、それを無かったことにはもちろんできなくて、そのことを地域や子どもが正しく理解していくための取り組みをしなくちゃいけない。そのためには交流しかないと思うんですよね。実際に交流する場面がないと、ずっと分からないままになっちゃうので。不自然だけれども交流っていう場は必要だし、それが、自然にできればベストですけれども、自然に任せてもそういう場っていうのはできていかないので、ある程度意図した働きかけをしながら、且つ、子どもに負担がかからないように、交流していくべきだなぁと、今お話を伺って思いました。

中西:児童養護施設の子、子ども食堂の子、と明らかにしなくてもつながれるけど、お互いを正しく理解することも大切ですね。児童養護施設も「可哀想な子がいるところ」って思われがちで、我々も入っていくまで全然分からなかったことがたくさんありました。

 

ー知らない人や知らない場所だと参加できないけれど、知ってる人か知ってる場所かどちらかがあれば、参加できる

子どもたちの話に耳を傾ける「棚ちゃん」 (2019年度 撮影:伊藤華織)

ベトレヘム学園 金子祐子さん(以下、金子)地域に出るっていう感覚が、職員の方にもあんまりなくて。施設の中での生活をつくりあげることでいっぱいなので。でも、今、当直の仕事で来てくださってる方がNPOのお仕事もされていて、地域でこういうのやってるんだよって紹介してくださると、子どももその人がやってるところだからって、結構すっと出かけて行くんです。外部の方がうちの職員になって誘ってくれたら、すぐにトントンっていう運びがあったので、やっぱり知り合うっていうところがないと、なかなかスタートしないんだなぁって思って。

さっきお話が出てた、シルバー人材センターのような開かれた場所で何かできるようになったら、うちのある女の子が、本当に棚ちゃん(棚川さん)ワークショップが大好きで、「毎週あればいいのに」って生きがいみたいになってて。彼女は来年中学生なので、「シルバー人材センターに新井さんが来ているよ」「棚ちゃんワークショップがあるんだよ」って言ったら、多分自分で自転車に乗って駆けつけていくんじゃないかな。その時は、ベトレから来ましたじゃなくて、一般の地域の中学生ですって違和感なく参加できるのかなって思いました。

知らない人や知らない場所だと、やりたいって言っていても何か取っ掛かりがないと参加できないと思うんですけど、知ってる人か知ってる場所かどちらかがあれば、参加できるんじゃないかなって思います。

中西:そうですね。いろんな点と点がだんだん線になって、網の目状のネットワークができたらいいなぁと思います。

 

ー退園して「今日食べるものない」という時に、「子ども食堂って雰囲気良かったなぁ」って思い出せる機会になれば

ファミリーホームしろやま 鈴木ひとみさん(以下、鈴木):ファミリーホームは施設より枠付けに柔軟性があるっていうことで言うと、お泊り会をしたいっていう子がいて、一人だけお友だちがホームに泊まりに来たことがありました。それは彼女にとっては大きな交流だったと思います。施設だと書類のやり取りなどいろいろあって、なかなかできないことなので。

ファミリーホームが建っている地域が、児童養護施設の子たちを受け入れたことがない学区なので、どのように浸透させて行くかということが課題だったんですけれども、先生たちとの協力もあって、今はそんなに不自然さはないですね。ただ、中学生の子で、ファミリーホームにいることを知られたくなくて、うまくごまかしてる子もいますし、一方で同じ学校だけどオープンにしてる子もいて、そこら辺の微妙なせめぎ合いはありますね。

小平市にもいくつか子ども食堂があって、うちの子たちを連れて行ったことがあるんです。心のどこかでは、ファミリーホームって食べられない環境ではないのに連れてっちゃっていいのかなぁって思ったんですけど、福本さんや中西さんのお話を聞いて、この子たちが退園して自分の地域に帰って「あ、ヤバイ、今日食べるものない」という時に、「子ども食堂って結構雰囲気良かったなぁ」って思い出せる機会になるのかもしれないと腑に落ちたので、そういう意味では何回か連れていって良かったと思います。

 

ーワークショップの中でも、自分の居場所を探しに行って、自分で見つけて子どもたちなりに遊びながら学んでいる

中西:児童養護施設の、生活の経験がいろいろ違うんだなぁというのが、今になってもハッと気づくことがまだまだ多いです。アーティストのお二人は、「ここは児童養護施設だから」「ここは子ども食堂だから」とことさら意識されているようには見えませんが、音楽やダンスを通してそうした場に入っていくことについて、何か感じていることなどありますか。

アーティスト 棚川寛子さん(以下、棚川):初めて児童養護施設にワークショップに行くことになった時は、いろいろ深いものを抱えている子どもたちなのかなぁと思ったりしたんですけど、今は、全然、小学校のワークショップとなんら感覚も変わらず、子どもたちともやれています。

互いのワークショップに参加してアーティスト同士も交流 (2020年度 撮影:伊藤華織)

ワークショップをやっていて思うのは、例えば、新井さんって、すごい面白いじゃないですか。私、初めて新井さんに会った時、すごい衝撃だったんですよ。そういう、自分の周りにいそうじゃない大人に会えたり、ましてや私も、舞台の音楽をつくっている、ちょっと世間的には横道それちゃったけど、それでも何とか好きなことで生きていけてますみたいな大人と会っておしゃべりすることで、「こんな変な人になっても生きていけるんだ」みたいなことを感じてくれているかなって思います。新井さんのワークショップを受けた時、超~楽しかったんですよ。そういうことは、あとから、じんわりじんわり醸造されるっていうか。その時は口にできないんですけど、受けた体験とか衝撃は、あとから貯金になってくので。

子どもたちは、自分の居場所をワークショップの中にも求めていて。照明係、小さい子の髪の毛を結う係、楽譜持ってるだけの係、工作はするけど出るのは嫌とか、音楽だけならやりますとか。こんな小さなワークショップの作品の中でも子どもたちはちゃんと自分の居場所を探しに行って、自分で見つけています。これは、社会に出る前の予行練習じゃないですけど、作品づくりの中に、自分の居場所を探す見つける、どこならやれる、何だったらできるかを子どもたちなりに遊びながら学んでいるんだなって思います。

だから、今回すぐってわけじゃないんですけど、このワークショップでの出会いが、お互いの地域に出たり、地域の子が児童養護施設に来たりっていう行き来できる関係性になっていけるといいなぁって思います。

 

ー児童養護施設の子、子ども食堂の子っていう属性じゃなくて、その子の魅力でお互いが惹かれ合って出会ってから、あとでそれを知るのが一番理想的

頭に板を乗せて落とさないようする新井さんと子ども(2019年度)

アーティスト 新井英夫さん(以下、新井):交流したから絶対に友だちにならなきゃいけないっていうのはすごいプレッシャーだから、友だちになれる子もいれば友だちになれない子もいたなぁぐらいでもいいと思うんです。こういうタイプは苦手だなって学んだり、逆にこういう面白いやつが世の中にいたんだって発見したりっていう、人と出会う機会が増えることがすごくいいことなんじゃないかなと思うんです。

できれば、児童養護施設の子、子ども食堂の子っていう属性じゃなくて、「この子と演劇を一緒につくったら面白かった」「音楽やったら面白かった」って、その子の魅力でお互いがまず惹かれ合って出会ってから、「あぁ、その子、そこから来てるのね」「たまたま属性がそうだったのね」「同じ時代の同じ町にそういう場所があってそこに居るんだね」って、あとでそれを知るのが一番理想的だなって思います。

僕自身がそうだったんですけど、友だちとか気の合う奴に出会える確率って本当に少なくて。でも、演劇とか音楽とかダンスっていう場所でそういう友だちと知り合うことができたので、「居場所がないなぁ」って思っている子たちの選択肢の一つになったらいいなって思います。やっぱり演劇や音楽、ダンスみたいに、一人じゃできないことって面白いんですよね。面倒くさいんだけど、みんなでよってたかってやったからこそできた~っていう、自分と他人のチカラが化学反応を起こす体験って。

中西:そうですよね、音楽つくったり身体を動かしたりっていうのは一人ではできないこともあると思います。でもお二人とも、無理やり子どもたちを交流させようとしてるわけじゃなくて、ほどよく子どもに委ねている部分もあるような気がするんですけど、何か心掛けていることやワークショップの秘訣はありますか。

ボールなど楽器じゃない物からも音楽が生まれる(2019年度)

新井:子どもたちの好きなことや得意なことを活かしてあげたいんだけど、子どもたちが好きなことって何?っていうと、結局、今一番情報として入ってくる音楽とかアニメのことになるんですよね。スタートラインはそこに寄り添うんだけど、子どもたちに煙たがられてもいいので、昭和の音楽でこういうのがあったんだよとか、知らなかったり体験していないことを積極的に紹介していきたいなって思ってます。例えば、ダンスでも、ヒップホップ的なストリートダンスだけじゃなくて、もうちょっと色んなやり方があるよとか、音楽も決まった楽譜だけじゃなくて、即興でその場で思いついたことをこうやって面白くできるよって伝えることを心掛けています。

子どもたちからリクエストが多いハンカチ落とし (2019年度 撮影:伊藤華織)

棚川:私も、新井さんがおっしゃったことに同感です。こういうことやってもらいたいなっていう時に、一度子どもたちのやりたい事に付き合ってから、そのあと常に聞くようになりました。これがいいか、あれがいいか、どうしたいかとか、提案はするけど決定は子どもたちにしてもらいたいなって思うようになって。あと子どもたちはテレビとかインターネットの情報しかないから、もうちょっとこういう手法もあるよとか、こういうのも使えるよって教えてあげれば、それを工夫する能力はいっぱい持ってるので、ただ知らないだけなんだなって。お話つくる時にも、見たことのあるアニメの話から取ってきちゃうんですけれど、こういう風にもつくれるよっていう例を出すなど、一緒に考えながらやっていきたいなって思っています。

 

◆今後の課題や要望

ーまずは、職員が地域に目を向けて、子どもがどうやったら肩書を外して出ていけるかを話し合う機会が持てたら

中西:このプロジェクトをやってきて、良かったことや問題点などを踏まえて、今後の課題や要望などを教えてください。

ワークショップに参加する金子さん (2020年度 撮影:伊藤華織)

金子:地域との交流っていうのは、ずっとテーマではあって。子ども以外のところでも、例えばグループホームを建てようとすると地域から反対を受けるとか。

うちも旧園舎の時は園庭があって、遊具があったので、子どもたちの友だちが遊びに来たり、地域の子がキャッチボールしてたりっていう感じだったんですけど、引っ越してきて新しい園舎になってからは遊びスペースがないので、友だちが遊びに来ることはなくなりました。遊びに来ても居場所がないんですよね。

今日のお話ですごく思ったんですけど、やっぱりまず職員が地域に目を向けて、子どもがどうやったら肩書を外して出ていけるか、過ごすことができるかっていうところを話し合う機会が持てたらいいなって思いました。

今回参加させてもらって、ある女の子が、最初は「金子さんのそばでやる」っていう感じだったのが、途中からは「今日1回もあの子、私のところに来てないなぁ」っていう日が多くなって。彼女にとってこのワークショップがいつの間にか安心して過ごせる場所になっていて。自分が住んでいるお部屋を離れて、担当職員からも離れて、他の施設や施設外の大人と過ごせるようになって。すごく大きな経験ができたなって思ってます。ありがとうございました。

 

ー個人型ファミリーホームでも、一緒に活動したら楽しいんじゃないかなっていう家庭もあるので、今後もそんな機会をつくってもらえたら

一緒に身体を動かす鈴木さん(2020年度)

鈴木:ファミリーホームには2種類あって、うちがやっている法人型ファミリーホームと、里親さんをやってた方が、人数を増やしてできた個人型ファミリーホームがあります。法人型は施設からの派生っていうパターンが多いので、ちょっと施設っぽいんですが、個人型は本当に里親なんです。里親さん同士、よそはよそ、うちはうちみたいな感覚が、施設よりもすごく強くて。そこが取っつきにくいお家もあったりするので、里親の世界ってすごく奥深くて、なかなか交流が難しいというのは本当に現状あると思います。それでも、個人型ファミリーホームでも、すごく柔軟性があって外に開いていたり、もともと施設職員だった人が個人でやってますっていう方も結構いて、「芸術家と子どもたち」と一緒に活動したらきっと楽しいんじゃないかなっていう家庭も何家庭かあるので、今後も諦めずにそんな機会をつくってもらえたらいいなと思います。

中西:はい。ぜひ、つながりを広げていきたいと思います。

 

ー子供の家の地域センター(仮称)で継続的に活動すると、場所も固定されるし対象の子どもは変わらないので、やりやすくなる

福本さんと新井さんたちの打合せ (2020年度 撮影:伊藤華織)

福本:音楽も表現もとっても好きなので、子どもたちがそういう体験をして、普段見せない様子や豊かな発想力を垣間見て、あぁいいなぁって思ってます。

じゃあ具体的に実際、地域でどういうふうにするのかっていうところなんですけども、施設の子と地域の子の交流の場をつくるには、地域の子どもたちが参加したくなる動機やルートをつくるのが非常に難しいんですね。それで、来年度は子供の家さんが、地域センタ―(仮称)を建てられるので、そこは、施設と地域を二分するのではなくて、施設と在宅の間、在宅の子どもたちのケアをする居場所にしたいというような計画なんですね。多分、私たちの子ども食堂に来てる子どもたちはそこの対象になり得るので、夕方、そのまま引き続き、子供の家の新しい地域センター(仮称)で過ごしてもらおうかなって思っているんです。その地域センター(仮称)を会場に継続的に活動すると、場所も固定されるし対象の子どもは変わらないので、やりやすくなると思います。

中西:ありがとうございます。子供の家がそうなっていくんですね。是非何か連携できたら嬉しいです。

 

ー子どもたちの生活も守ってあげなきゃいけないし、でも地域に開かれた場所であった方が良い。新しい地域センター(仮称)が、その中間の位置になる

子ども食堂やファミリーホームとの交流を見守る角能さん (2020年度 撮影:伊藤華織)

角能:入所している子どもたちの生活も守ってあげなきゃいけない部分もあるし、でも地域に開かれた場所であったほうが良い、というところで、新しい地域センター(仮称)が、その中間みたいな位置になるので、すごく良いのかなと改めて思いました。

子どもの遊びという面では、今は、どうしてもスマホがあると、遊びとか交流、オンラインとかSNSの交流も含めて、全てスマホでできてしまうので、確かに既存の決まったものに偏りがちなんですけど、面白い大人たちと交流できるワークショップや、こういうのもあるのかっていう自由な遊びに出会える場なので、本当にすごくいいなぁと思っています。そういう資源とつながってるのが、施設の強みでもあると思うので、これからも続けていけたらいいなと思いました。

 

ー立場を忘れて、大人も子どもも思わず夢中になっちゃったみたいなことをこれからもやれるといいな

中西:新井さんと棚川さんからも、アーティスト側から、こういう場所にしていきたいとか、施設や私たちに対しての要望などありましたらお伺いしたいと思います。

新井:すごく率直に言うと、こういう機会でもないと、僕自身が同じ時代にファミリーホームで暮らしてる子どもたち、子ども食堂に通ってる子どもたち、児童養護施設で暮らしてる子どもたちと出会えなかったと思うんですね。僕自身が本当に豊かな体験をさせてもらってる、貴重な体験をさせてもらってるなと思います。

懐中電灯と写真の原理を使った光のダンス(2020年度 撮影:新井英夫)

最近こういうところに通っていて思うのが、例えば劇場でチケット売ってやっているような演劇やダンスや音楽・コンサートと、このアーティストがいろんな場所に行って子どもたちとやってる創作活動というのは、どっちが上とかどっちが下だっていうことでもなくて。心にあるモヤモヤとか将来への希望や不安とか、そういう気持ちを表現することで癒したり元気になったりするっていう事に芸術の根源があって、僕らがやってることって実はそれにすごく近いのかもしれないなと思ってるんです。劇場やテレビやネットから流れてくるピカピカのアートみたいなものもあるけれども、子どもたちがワークショップの中で楽器ひとつ持って工夫して音を鳴らすとか、ちょっとした動きの中で見せる自由な振る舞いっていうのが、芸術の根源みたいなところとすごくつながってるんだなと思って。

実をいうと、生きづらさを抱える子どもたちに、何かいいものを届けようみたいな気持ちはあんまりなくて、行くたびに僕は楽しませてもらってますっていうのが正直なところです。世の中に必要だからやってるんだけど、そういうことを一瞬忘れて、立場も忘れて、大人も子どもも思わず夢中になっちゃったみたいなことを、これからもやれるといいなって思ってます。

 

ーいろんな子が来て一緒に遊んだりできる、逃げ場所。自分の家でもない所に、もう一つの居心地のいい場所があるのが、とってもいい

2019年度の発表会(撮影:伊藤華織)

棚川:うちの近所に、個人でつくった市民センターがあって。本業はギターリストなんですけど、元幼稚舎だった建物の一室を借りてH市民センターというのをやってるんです。そこは居心地がいいのでたまに顔を出してたら、いろんな子どもたちが来てて、そこで仲良くなった子どもがいて、その子が自分で企画してる「遊びの広場」っていうのを開催しているんですが、こういうのいいなぁって思ったんです。不登校ぎみの子や近所の子、いろんな子が普通にその場所に来て一緒に遊んだりできる、新たな居場所、逃げ場所というか。自分の家でもない、自分の安全地帯からちょっと離れた所に、もう一つの居心地のいい場所があるのが、とってもいいなぁと思っていて。

子供の家で地域センター(仮称)をつくるのですか?すごくいいと思います!そこが居場所になって、何か全然違うことやアイデアが生まれて、色んな交流が生まれて、いろんな事業が始まったりすると思うので、すごくいいと思います!

芸術家と子どもたち 堤:本当にありがとうございました。とっても刺激的な話をたくさん聞けました。

今日は子どもの居場所っていうのが一つテーマであったと思うんですけれども、この団体を始めた時、最初は小学校の授業の中でのワークショップをしていたんです。でも、子どもの居る場所って小学校だけじゃないし、また、居場所をつくっていくっていうことも大事なことで。みなさんの話に出てた、子どもが馴染んできた場所や人、そこまで持っていくのがまず難しいわけです。それと、子どもが自発的に参加したいって言って参加してくれる子はいいんですが、そうじゃない子たちとどうやってこういう体験を積み重ねていけるかなぁと、すごい考えていて。やっぱりそれにはいろいろ時間をかけなきゃいけないところもあると思うんです。子どもが本当に自発的に自然に集まるのを待っていても、経験の少ない子どもが新しいことに一歩踏み出すのってやっぱり難しいところがあって。そこを周りの大人たちが、どういう環境が良いかとか、こんな面白いことあるよって、どう子どもに話をしていくのがいいのか、参加しやすい時間や場所とか、試行錯誤してじっくり慎重に考えていかなきゃいけないなぁと思います。

児童養護施設と地域の子どもたちの接点っていろんな場があっていいですし、一つの小さな場所を少しずつ育てていくっていうことも大事なのかなと考えながら、今後につなげていけたらなぁと思っています。このプロジェクトでみなさんに出会えたことはすごい財産なので、これからもお付き合いいただけたらと思います。


今回、様々な立場の方々のお話をきいて、子どもも大人も関係なく、いろんな人たちにとってどんな場が必要とされているのかを考える貴重な機会となりました。多様な人が集い、ゆるゆるとダンスや音楽をしながら居られる場所をこれからもつくり続けていきたいと思います。本来ならば、開かれた場で発表会を行い、実施に直接会って座談会ができれば大人同士もまた違った交流が生まれていくんだろうなと思うと、本当にコロナがもどかしい一年でした。しかし、今回生まれた人と人のつながりを大切にして、今後も事業を継続していきたいと思います。座談会に登壇していただいた皆様の他にも、今回のプロジェクトは、アシスタントアーティストや、各施設の職員の方々、子どもの食堂の運営に携わる方々、そしてワークショップに参加してくれた子どもたちとの出会いと支えがあったから続けることができました。この場をお借りして、皆様に、改めて心よりお礼を申し上げます。

記録・編集:広沢純子
写真:芸術家と子どもたち(クレジットの無い物)
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