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コラムColumn

にじいろのなかまたち 2019-2020 ~児童養護施設の交流ワークショップ~ vol.1 子どもたちのこえ

にじいろのなかまたち 2019-2020

~児童養護施設の交流ワークショップ~

vol.1 子どもたちのこえ

「芸術家と子どもたち」では、2010年度から児童養護施設の子どもたちとのワークショップを続けています。
そして昨年度(2019年度)から、文化庁「障害者による文化芸術活動推進事業」の採択を受けて、児童養護施設カルテット(さいたま市)と二葉むさしが丘学園(小平市)の2つの施設の子どもたちが、ダンスや音楽を通じて交流する企画を、5年間を想定して始めました。昨年度は、双方の施設を行き来したり中間地点にある公民館なども活用したりして、全9回のワークショップを様々な場所で行い、最終的には施設職員の方などに向けた発表会を行いました。また、子どもたちが考えた発表会のタイトルから引用して『にじいろのなかまたち~ふたつの児童養護施設の交流ワークショップの記録~』と題したドキュメント・ブックを発行し、アーティストによるコラムなども掲載しました。
2年目となる今年度は、交流する場や人を広げていきたいと考えていましたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、施設外に出かけることや、他施設との交流に制限があり、オンラインでのワークショップを試行錯誤しながら進めています。
今回のコラムでは、昨年度からの事業を振り返りながら、ワークショップに参加している子どもたちや、職員の方へ行ったインタビューを2回にわたってご紹介します。
なお、児童養護施設カルテットとはオンライン(zoom)で、二葉むさしが丘学園では対面でお話を伺いました。


2020年度ワークショップ概要

●実施施設:児童養護施設カルテット(さいたま市)年長~19歳 7人
二葉むさしが丘学園(小平市)小学3~高校3年生 5人
●アーティスト:セレノグラフィカ(隅地茉歩・阿比留修一/ダンスカンパニー)、港大尋(音楽家)、伊藤寛武(音楽家)
●実施期間:2020年10月~2021年2月 計7回実施(オンライン実施を含む)

文化庁委託事業「令和2年度障害者による文化芸術活動推進事業(文化芸術による共生社会の推進を含む)」
主催:文化庁、特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち

※2019年度の実施概要についてはこちら(『にじいろのなかまたち』PDF版)


【児童養護施設カルテット】

―この交流ワークショップに参加しようと思ったきっかけを教えてください。

Nさんはフルート、Sさんはピアノも演奏した発表会(2019年度)

Sさん(高2): 私は学校でも音楽部に入っていて、楽器を演奏するのが好きなので、吉田さん(カルテット職員)からこういうのがあるよって教えてもらって参加しました。

中西(芸術家と子どもたち):このワークショップ以外でも音楽をやっているんだね。
Nさん(高2):私は、中1の時にフルートをやっていたので、フルートやれるんだったらやりたいなって吉田さんに言ったら、もしかしたらできるかもしれないって話をもらったので、参加しました。
中西:去年の発表の時もフルート吹いてくれたよね。やりたい楽器があったからなんだね。

 

―交流ワークショップで思い出に残っていることはありますか?

相手の動きを鏡のように真似して動く(2019年度)

Nさん:まほさんたち(セレノグラフィカ)のワークショップで、ジャンケンして相手の動きを鏡みたいに真似して動いて離れてっていうのや、身体にふれて動いていくダンスみたいなのがすごく楽しかったです。
中西:最初フルートやりたいって思って参加したけど、ダンスも楽しかった?
Nさん:うん、楽しかったです。
Sさん: 私は、みんなで発表会をしたことがすごく楽しかったです。
中西:発表会があるって聞いた時、どう思った?
Sさん:うまくできるかなぁって、ちょっと心配でした。
Nさん:私は、発表会自体は学校で何回もやっていたから慣れていたけど、ここ(カルテット)に来て、発表する回数が全然なくなっちゃって。こういうところで発表をしたのが久々だったので、すごく緊張したけど、思い切り楽しくできました。

―カルテットの子だけではなく、むさしが丘学園の子どもたちとも一緒に、ダンスや音楽に取り組んだ経験はどうでしたか?

Nさん:他の施設の子たちと一緒にやること自体がすごい新鮮だったし、仲良くなれた子もいたから、すごく楽しかった。
Sさん: 知ってる人だけじゃなくて知らない人もいて、どう話したらいいんだろうって思ったんですけど、ダンスしたり楽器演奏したりして、だんだん慣れていって楽しかったです。

休憩中のおしゃべりや落書きから話が弾む(2019年度)

中西:知らない人と一緒に何かをするのって、大変ではなかった?

Sさん:慣れるまでは大変でした。
Nさん:私も、どう接していいのか分からなかったから慣れるまで時間がかかりました。
中西:慣れたのはどうしてかな?
Nさん:休憩中に「疲れたね~」とか言いながら楽しく話ができたからかな。
中西:そうだね、休憩中はみんな好きに過ごせたから、あぁいう時間も大切だね。

―今年は、新型コロナウイルス感染防止のため、オンラインで実施していますが、どのように感じていますか?

オンラインを活用したワークショップ(2020年度)

Nさん:時々、画面が固まったりして、向こうの動きが全然分からなくなると困ったりするけど、その点以外では、別に大丈夫かな。
Sさん:私もそんな感じです。
中西:なかなか会えないけどね、こうやってみんなとつながれる方法があって、私たちも嬉しいです。

 

―今後も、ダンスや音楽などみんなと一緒にやっていきたいなと思っていますが、「こんなことやってみたいな」とか、「こうしてほしいな」とか、リクエストはありますか?

Nさん:去年むさしが丘学園で参加した餅つき大会で、お互いに結構仲良くなれたから、むさしが丘の体育館かどこかで、また一緒に遊べたらなぁ。
中西:そうだね、会って一緒に何かしたいね。
Sさん:私はできたら、みんなと一緒に1曲つくってみたいと思います。
中西:Sさんは音楽が好きだもんね。分かりました。これからもみんなで試しながらやっていきたいと思います。
Nさん&Sさん:はい!
中西:ありがとうございました。二人と話ができて楽しかったです。


【二葉むさしが丘学園】

―この交流ワークショップに参加しようと思ったきっかけを教えてください。

インタビューに答えるAさんとSさん(2020年度)

Aさん(高3):職員さんから誘われて、僕も参加したいなって思って。今までやってきたので(※)、これからもやりたいなぁって思ったからです。
Sさん(高3):私は、最初友だちに誘われて、その後「楽しいから来てみない?」って言われて。来たら楽しかったし、だんだん慣れたから続けられた。
中西:最初にワークショップ(※)に参加してくれたのって、Aさんは小学3年生の時だったね。あれから10年ぐらい経つね。
Sさん:私は中2からだから、5年ぐらいかな。
中西:二人とも、ワークショップの大先輩だね。二人の成長がとっても嬉しいです。

※二葉むさしが丘学園では、2010年度から「芸術家と子どもたち」のワークショップを断続的に実施。

―交流ワークショップで思い出に残っていることはありますか?

初めてカルテットを訪れた時(2019年度)

Aさん:カルテットに行って、カルテットの人たちと交流したこと。
Sさん:私も、カルテットに行った時にみんなと話ができたのが印象的だったのと、発表会が楽しかったなぁ。

中西:カルテットに行ったのって、最初と最後ぐらいで、途中いろんなところに行ったけど、あの場所に行ったことを結構覚えているんだね。カルテットに行ってすぐにみんなと仲良くなれた?
Sさん:うん。
中西:ほんと?緊張したり、嫌だったりしなかった?
Aさん&Sさん:特になかった。
中西:すごいね、みんな。(笑)

―むさしが丘学園の子だけじゃなく、カルテットの子とも一緒に、ダンスや音楽に取り組んだ経験はどうでしたか?

カルテットの子にギターを教わるAさん
(2019年度:撮影 芸術家と子どもたち)

Aさん:初対面だったけど、カルテットの人たちが明るかったし、積極的に声をかけてくれたから、僕も、緊張がほぐれたっていうか。結構フレンドリーなので、スムーズに馴染めたと思います。
Sさん:うん、私もAさんと同じかな。
中西:それは良かった。みんなと仲良くなったのはどうでした?
Sさん:楽しかった。
Aさん:楽しかったし、こういう機会はあんまりないと思うので、とても貴重な良い経験になったと思いました。
中西:そうだね。別の施設に行くことってそんなにしょっちゅうあるわけじゃないもんね。

―今年は、新型コロナウイルス感染防止のため、オンラインで実施していますが、どのように感じていますか?

Aさん:コロナが広まってから、学校とかいろんな所でオンラインを使っていて、慣れてきたんですけど、やっぱり対面でないとできないこともあって。例えば、他の施設の人たちと直接会って交流するとか。オンラインだと、画面にその人たちが表示されても、機械なのでズレちゃうこともあるので、ちょっと大変だなぁと思いました。
Sさん:長時間、オンラインだからちょっと疲れちゃうところがあって。ずっと画面を見てるし、首も疲れるし。
中西:そうだよね。でもそれは技術面で少し何とかできる気がする。時々、画面を離れて休憩もしたほうがいいかもね。オンラインだけどカルテットの子たちと会っている感じする?
Aさん:画質の問題もあるけど、色味が暗いから表情が暗く見えちゃったりもするし。まあ、でもこれは、機械の問題だし。
中西:そこは、がんばります!

―今後も、ダンスや音楽などみんなと一緒にやっていきたいなと思っていますが、「こんなことやってみたいな」とか、「こうしてほしいな」とか、リクエストはありますか?

ダンスと音楽を織り交ぜた発表会(2019年度)

Aさん:前回みたいに、道具(楽器)を使って広い所で、音楽とかをできればいいなって思います。
中西:広いところでね、タイコとかね。Sさんは、何かある?特になくてもいいんだよ。
Sさん:ない。
中西:ないけど、ワークショップには来る?
Sさん:来る!
中西:ありがとうございます。でも、二人とも高校3年生だよね。高校卒業して、仕事とかで生活が変わると大変かもしれないけど、タイミングが合ったらワークショップの先輩として遊びに来てくれたらすごく嬉しいな。どうかしら?
Sさん:連絡してもらえれば、日にち合わせてできると思う。
Aさん:遊びに行きます。
中西:遊びに来てくれる?嬉しい。これからも、こういう場所が続けられたらいいな。今日はありがとうございました。


子どもたちに改まってインタビューをする機会は滅多にありませんが、直接人に会うことが難しくなった今、ワークショップを通して彼らが何を感じていたのか聞けたことは、スタッフとしても貴重な機会となりました。音楽やダンスを糸口に児童養護施設に出かけていくことで、休憩時間やお餅つきなど、余白の時間にも何かが起きていること。オンラインで、大人が技術的なことに苦戦している一方で、思いのほか寛容にその状況を受け止めている子どもたち。私たちがつくりたい場や時間は、いつも子どもたちの中に在るたくましさや、やさしさに支えられているように思います。今回インタビューに答えてくれた4人、そしてワークショップに参加しているすべての子どもたちにも感謝の想いが尽きません。
Vol.2では、同じくこの場を一緒につくって支えてくださっている、職員の方々にお話を伺います。

写真:保手濱歌織(2019年度)、伊藤華織(2020年度)
編集:広沢純子
インタビュー日:2020年12月13日
インタビュアー:中西麻友(芸術家と子どもたち 事務局長)
※無断転載・複製を禁ず。