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コラムColumn

通常級・特別支援学級 交流ワークショップの実践 vol.2 ~アーティストの視点から~

前回のコラムでは、通常級と特別支援学級の交流ワークショップの実施概要と、実際にワークショップを体験した子どもたちと先生の感想をご紹介しました。今回は、交流ワークショップを実施した3名のアーティストの皆さまより、実施後の感想を交えたコメントをいただきましたので、ご紹介いたします。

[1] 都内 A 小学校:田畑真希(振付家・ダンサー)
[2] 都内 B 小学校:青木尚哉(振付家・ダンサー)
[3] 都内 C 中学校:鈴木ユキオ(振付家・ダンサー)


>>前回のコラム 「通常級・特別支援学級 交流ワークショップの実践 vol.1」はこちら
交流ワークショップの概要を体験した子どもたちと先生の感想を交えて紹介しています。



[1] 田畑真希(振付家・ダンサー)
ダンスカンパニータバマ企画主宰。3歳からクラシックバレエを始める。更なる表現を追及するため桐朋学園短期大学演劇科に入学。様々なジャンルの身体表現を学ぶ。滑稽なまでにガムシャラに、ユーモアを散りばめながら丁寧に時間を紡ぐ作風には定評があり、国内外で活動。7カ国18都市にて作品を上演し好評を得る。北海道から沖縄まで日本各地の小学校や大学などの教育機関や、劇場、福祉施設などでのダンスワークショップ、作品創作も展開中。性別、年齢、国籍、障がいの有無などの差異を超えて、誰もが楽しみながら出来る身体表現の促進を目指す。(写真=松本和幸)

WS初日、特別支援学級「5組」の子どもたちと身体中を弾ませながら楽しい時間を過ごしました。
1年生から6年生の16名の子どもたちは、一人一人まっすぐ、生き生きとしたとても素敵な子どもたちです。
まずは「5組」の子どもたちにダンスWSを好きになってもらい、私たちアーティストの味方になってもらおうと考えていました。
WS後半で、「今度、2年生とダンスWSをするんだけど、手伝ってもらえませんか?」と子どもたちにお願いをすると、快く「いいよー!」と乗り気になってくれました。その勢いのまま、「5組」さんたちの素敵な存在を知ってもらう為、自己紹介がてら踊る小さなダンスを子どもたちと一緒に創り、練習しました。賑やかにアイデアを出しながら練習する子どもたちの姿はとても頼もしく、交流WSの日が楽しみになりました。

交流WSは、2年生が131名いるので、半分ずつの約65名と、二日間に分けて1回ずつ開催されました。
1回目は2年生の前で少し緊張している様子の「5組」さんたちでしたが、2回目は、緊張もなくなり、自信を持ってとても楽しそうに2年生と踊る姿が見れました。

お互いに支えあってオリジナルのポーズ

「交流しましょう!」と言われると、大人でも畏まってしまいます。
なるべく自然な形で、気づいたらお互いを認め合っているのがベストだと思い、あえて「5組」さんたちには私のお手伝いとして、2年生に身体ゲームのルール説明のお手本になってもらったり、2年生と一緒に楽しく踊ってもらうという役割を担ってもらいました。
一方、2年生はみんなとても元気でパワフルでした。二人組になって踊るものは、なるべく色々な人とペアになれるよう何度も交代しましたが、違うクラスの子どもたちとも分け隔てなくどんなペアでも自然と楽しく踊ってくれていたように思います。交流WSの始まりの学年として2~3年生はとても良いのではないかと感じました。
…ただ、如何せん今回は人数が多い上、1コマ(45分間)という短い時間だったため、あっという間に慌ただしく終わってしまった様に思います。欲を言えば、もう少し人数を絞り、30名程度の2年生と「5組」の交流の時間を取れたらもう少し丁寧にお互いを知ることができたのではと思います。

アシスタントダンサーの澁谷智志さん・中村理さんと

交流WSといっても、本来の交流は一度きりで終わるものではなく、普段の生活の中、持続してお互いの多様性を知り、認め合うことだと思います。今回のWSはそこへ向かうための第一歩でした。その第一歩が、押し付けにならず楽しく充実した時間を共に過ごすことが出来たら、ここから先の子どもたちの繋がりも実り多いものになるのではないかと考えます。

子どもたちにとって私たちアーティストとの新鮮な出会いが、より大きな一歩を踏み出す為のエネルギーとなるよう願っています。


 

[2] 青木尚哉(振付家・ダンサー)
1973年、東京都あきる野市生まれ。自然豊かな秋川渓谷を駆け抜けて育つ。少年野球と地元の祭囃子保存会子供連(神田流)を嗜んだ後、16才でダンスを始める。ジャズダンス、クラッシックバレエ、モダンダンスの基礎を学ぶ。加えてボディーワークを学び、身体の構造に対する知を深め、自身のメソッド「コンタクト×バランス」「ポイントワーク」を開発。必然と偶然の狭間にある因果関係に注目し、「ダンスが人間に与えてくれるもの」を探し求め広範囲に活動中。2004年、新潟市レジデンシャルダンスカンパニー「Noism」発足に参加。立ち上げや海外ツアーなど深く貢献をした。2013年、仲間とJAPON dance projectを発足、2014年に新国立劇場にて「CLOUD/CROWD」(新国立劇場主催公演)を発表。2015年、日本バレエ協会に招聘。「互イニ素」を発表。平成28年度公共ホール現代ダンス活性化事業に選出。仙台公演にて「マッピング」を発表。伝統を重んじる舞の「絶」、現代を切り取るコンテンポラリー作品の「妙」との間の浮遊人として、調査を進めている。(写真=木原丹)

こんにちは。振付家、演出家、たまにダンサーの青木尚哉です。芸術家と子どもたちさんを通じて学校へ行き、たくさんの子どもたちと会えるのを毎回緊張しつつ楽しみにしています。

僕のワークショップでは、いつもと違う時間、いつもと違う空間、いつもと違う関係づくりができるように心がけています。

いつもってなんだろう? 
実際には、みんなのいつもは知らないわけで、いつもって言葉自体もなんだろうと思います。僕の子ども時代の学校って、先生がいて、生徒がいて、仲良しグループがあって、目立つ子がいて、目立たない子がいて、時間割があって、色々あるけど基本的に毎日同じで、みたいな感じです。そんな中、アーティストが来るっていう時点で、子どもたちにとっては、すでにいつもとちょっと違い、ワクワクしてくれている。それに輪をかけてさらに大きくワクワクドキドキさせたいと思っています。

今回のような交流ワークショップは、数年前に一度経験があり、その時に初めてインクルーシブという言葉を知りました。最近ものすごいスピードで増えるこの英語だかカタカナだかわからない言葉たち。わかった気になると痛い目に遭うので僕自身は使うのを避けています、笑。ただその時わかったのが、子どもってその時代の大人の考えが大きく反映するということです。僕の子ども時代の大人たちはお金のことばっかり考えていたのかもしれません。高度成長で脇目も振らずに進んでいた時代です。ある意味では余裕がなかった?良し悪しも損得も全てわかりやすいほうに流れ、みんな一緒にゴールを目指せー!みたいな。今、交流ワークショプを大人の事情から考えると本当に難しいです。なので、僕としては、いつもと同じワークショップで、いつも通りにいつもと違う関係づくりを目指しました、笑。

骨の模型をつかって身体の仕組みを考える

初日は特別支援学級1〜6年生までの複合ワークショップ(計38名)でした。いつもがどうか、支援がどうかの前に、1年生と6年生では人間として全然違います。優劣ではなくて、興味や好奇心、知ってる言葉、理解の仕方、集中の仕方などが学年によってもまったく違います。進行のコツは、子どもたちからの動き出し、話し出しをどう拾えるかにあると思っています。なるべく広範囲に話しかけ、伝えたいことは一つでも、いくつもの話し方や動き方で試していきます。どんな子も一旦ハマり出したら、もう面白くなって積極的にやりはじめるので、ここが真剣勝負。なんだか釣りみたいです、笑。

 

 

先生も一緒に身体を動かす!

空間づくりのテクニックとして、よく使うのが、先生いじりです。先生を積極的にデモンストレーターとして起用します。いつもの先生がいつもと違うと子どもたちの世界は一気に揺らぎます。無意識に身体に纏っている「先生でいなければならない」というバリアがワークショップの中で少しづつはがされていく。すると空間が変わり始めます。単純に盛り上がる。みんなが同じ立場になることで、瞬間的に外からの評価という呪縛から解き放たれるのではないか?と僕は予想します。なるべく打ち合わせなしで抜き打ちで突発的にいじるのがより効果的です、笑。

2週間挟んでの2日目は、特別支援学級と通常級4年生1クラス34名との複合ワークショップ(計72名)でした。「やったことがある」という体験の学びは子どもも大人も関係なく大きいですね。支援級の「やったことがある」というアドバンテージを生かし、最初のツカミを初回の4年生に合わせた言葉とスピードでして、さらに少し突っ込んだ内容にも触れていくこともできました。とはいえ、4年生全員が同じように受け取るわけでもなくて、やっぱり人はそれぞれです。いろいろな子がいて、いろいろなタイミングがあり、同じ人間なんていないんですよね。結局。

ワークショップの進行は、最初はクラスごとでスタートし、徐々にクラスや人が混ざっていくような組み合わせや班割で発展するようにしました。いきなり全部ではなくて「いつもと違う」の量をその場の雰囲気で調整し、少しづつ進めます。この日もやはり先生を積極的に加えました。外から管理する先生ももちろん必要ですが、なるべく最小限、または入れ替わりで参加してもらう方が良いです。

大人ってどこかいつも通りにしたいところがあるのではないでしょうか。
それが崩れた時、子どもにとっては面白いのではないでしょうか。

終了後、もっとできたかも!?という悔しさや、時間の足りなさは毎回感じます。しかし、振り返りで担当の先生がおっしゃっていたように、今回だけでで交流ができたとか、理解しあえた、ということではなくて、学校内で今回のようなお互いを知り合う機会を持ち続けていくことが大切なのだと思います。ただ、学校現場、先生方は業務が多く、すでに頑張りすぎるくらい頑張っているように見えます(←今回の学校に限らず)。職場としてももう少し余裕や余白が必要ではないでしょうか。それが、子どもたちへも伝わり、時代の変化に応じた豊かな教育、発達、生活空間となることを願います。簡単にはいえませんが個人的な感想です。

同じ立場に立ってみること、すべての人が違う人間だということ、良し悪しはそんなにすぐには判断できないこと、などが心に残っています。いつもがあるからいつもと違うもあります。常に新鮮な関係づくり、それが自分の求めることで、好きなことで、芸術なのだと子どもたちとの交流であらためて感じました。この機会に感謝しています。子どもたちをはじめ、先生方、関係者の皆さま、ほんとうにありがとう。


 

[3] 鈴木ユキオ(振付家・ダンサー)
「YUKIO SUZUKI projects」代表/振付家・ダンサー。世界50都市を超える地域で活動を展開し、しなやかで繊細に、且つ空間からはみだすような強靭な身体・ダンスは、多くの観客を魅了している。‘08年に「トヨタコレオグラフィーアワード」にて「次代を担う振付家賞(グランプリ)」を受賞。’12年フランス・パリ市立劇場「Danse Elargie」では10組のファイナリストに選ばれた。また、国内外の学校や養護施設でのワークショップや、障害のある人も含めたダンスカンパニーでの創作活動なども行い、丁寧に身体を意識し、自分のダンスを楽しむきっかけを提案している。(写真=Sakie Miura)

支援学級のクラスが1クラスと通常級のクラスが3クラスの約100人での交流を行うということで、人数が多いこと、人数のバランスが違うのでどのように進めるのがよいのだろうか、と当初は不安もありました。
しかし、いざ始めてみると、支援学級の子供達が最初から恥ずかしがらずにみんなの前でしっかり見本を見せてくれ、それに触発されるように通常級の子達も楽しみながら身体を目一杯動かしてくれました。

呼吸をあわせて動いてみる

通常級との交流の前に3コマ、彼らとワークを重ねたことが良かったなと感じています。
そこでお互いを少しずつ知ることができ、仲良くなれ、信頼関係を持つことができたことで、周りの目が気にならない状態、私とアシスタントと生徒一人一人との時間が生まれていたと思います。周りでそっとサポートしてくれる先生方も大きな力でした。

通常級など他のクラスのみんなの前で発表するのは少しハードルが高いかもしれないと聞いていましたが、最後はみんなに見本を見せてもらうからね、と伝えてもみんな頷いてくれ、本番も特に緊張などせずによい雰囲気のままスタートできました。

 

 

次々ペアを変えて混ざりあう

ペアワークをするときに、先生のアイデアで、短い時間で一人ずつ横にずれていき、どんどんペアの相手が変わっていくようにしました。そうすることで、自然に支援学級の子と通常級の子がペアになるように進めて行けたのも良かったように思います。気づいたらみんな紛れており、どこにいるのか分からなくなるくらい溶け込んでいました。そして少し意思疎通が難しい場合でも、通常級の子達が上手く合わせてくれたりと、とてもよい時間が生まれていたように思います。

普段でも給食を一緒に食べたりと交流はしているようですが、身体を通して一緒に何かができる場が少しでも増えると、自然に触れ合い、助け合いも生まれたりとコミュニケーションの機会になり、お互いのことを自然に知ることができるよい機会になると感じました。

支援学級へのワークだけでなく、それを、通常級をはじめ、外の世界との交流に繋げるというこのような試みが増えていくとよいなと実感した機会になりました。


ワークショップではさまざまなことが巻き起こりますが、どのアーティストも、その時々の子どもたちの反応をしっかり感じ取りながらワークをすすめていきます。そのなかで、いつもの枠組みや、「この子はいつもこうだから」という視点ではない、アーティストならではの関わり方をすることで、子どもの反応や、場の空気が変わっていくことがあります。そこでうまれる、子どもたち一人ひとりの表現を大切にしていくことで、子どもたちが安心してチャレンジしたり、他者と関わって交流することができるようになるのかもしれません。
交流ワークショップを実施していただいたアーティストの皆さまのお話からは、今回の交流ワークショップを実施したから終わりなのではなく、このあとの交流に続いていってほしい、という思いが伝わってきました。今回の交流ワークショップは、あくまできっかけとしてであり、その後につながる機会になっていたら嬉しく思います。


※vol.3では、交流ワークショップを視察した、外部アドバイザーの海老沢穣さんによるコラムをお届けしています。是非ご覧ください。
>>「通常級・特別支援学級 交流ワークショップの実践 vol.3 ~外部アドバイザーの視点から~」はこちら

[助成] 公益財団法人パブリックリソース財団(Y’sファンド D&I基金)

写真・編集:NPO法人芸術家と子どもたち
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