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コラムColumn

「分断」から「共生」へと導く社会づくり  ~アーティストによる子どもワークショップを通じて~ vol.3

「分断」から「共生」へと導く社会づくり 
~アーティストによる子どもワークショップを通じて~ vol.3

「分断」から「共生」へと導く社会づくりをテーマにお送りしている4回シリーズのコラム。Vol.3~4は少年院等の矯正教育の場にいる子どもたちをテーマにお送りします。
“芸術家と子どもたち”の活動は、21年前に小学校の授業の中でアーティストとワークショップをするという活動から始まりました。その後、活動の場所は広がり、中学校や保育園、幼稚園、児童養護施設にもアーティストを派遣するようになりました。私たちは、これからも、子どもたちのいるさまざまな場所へアーティストとの出会いを届けたいと思っています。そして、これからアーティストとの出会いを届けたい場所の一つが、少年院等の矯正教育の場です。
まだ団体として活動には至っていませんが、このたび、すでに矯正教育の場で活動されている塚越明夫さん(篤志面接委員・保護司)、山本ゆかりさん[リトミック講師・篤志面接委員]、山本一乃 さん[篤志面接委員]にお話を伺うことができました。また、お話を伺うにあたっては、長年、当団体の活動に参加していただいているアーティストの新井英夫さん[体奏家・ダンスアーティスト]にも加わっていただき、矯正教育の場でアーティストによるワークショップがどのような効果を発揮する可能性があるのか、一緒に考えて頂きました。
この会は、当初、2020年5月24日(日)にあうるすぽっと(豊島区)にてセミナーとして開催予定でしたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、セミナーが中止となったため、塚越明夫さんにはご寄稿をいただき、山本ゆかりさん・山本一乃さんと新井英夫さん[体奏家・ダンスアーティスト]には非公開でオンライン座談会をしていただく形で、それぞれお話を伺いました。

【助成】公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
【共催】公益財団法人としま未来文化財団(あうるすぽっと)


Vol.3 「矯正教育におけるアーティスト・ワークショップの可能性」(前編)

このコラムでは、少年院で、篤志面接委員・保護司として活動されている塚越明夫さんからのご寄稿をご紹介します。

■プロフィール
塚越明夫/篤志面接委員・保護司
私立・中高一貫校にて43年間教鞭を執る。60歳から夏休みの期間少年院にて高等学校卒業程度認定試験受験希望者の指導にあたる。65歳に退職し、その後少年院の篤志面接委員となり、在院者の進路・進学指導等に取り組んで現在に至る。面接を通して子どもに寄り添い共に学び合おうと、“共学・共育・共生”をモットーに現在に至っている。69歳より保護司となり、更生保護の任をもって再発防止等にも務めている。信条は「苦楽一笑」。

※篤志面接委員:
全国の矯正施設(刑務所,少年院,婦人補導院等)にて、受刑者や少年院在院者等の改善更生と社会復帰を図るために、各種の処遇・教育が行われています。これらの人々の抱える問題は、現代社会の状況を反映して複雑で多様であるため、公務員である矯正職員の力だけでは十分対応できない場合には、専門的知識や豊富な経験を持つ民間の篤志家の協力を得る必要があります。そこで、篤志面接委員制度が設けられ、法務省から委嘱を受けた多くの篤志面接委員が受刑者や少年院在院者等の改善更生のために、下記のような様々な奉仕活動を続け、安全で明るい社会の実現に大きな役割を果たしています。
種々の悩みごとに関する相談・助言・・・家庭問題,職業相談,法律相談など
教養や趣味に関する指導・・・俳句・短歌,音楽,書道,珠算など
その他の指導・・・薬物依存離脱指導,交通安全指導,酒害教育など
※法務省HP「矯正を支えるボランティア」http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse09.html

※保護司:
保護司は、犯罪や非行をした人の立ち直りを地域で支える民間のボランティアです。保護司法に基づき、法務大臣から委嘱された非常勤の国家公務員とされていますが、給与は支給されません。保護司は、民間人としての柔軟性と地域の実情に通じているという特性をいかし、保護観察官と協働して保護観察に当たるほか、犯罪や非行をした人が刑事施設や少年院から社会復帰を果たしたとき、スムーズに社会生活を営めるよう、釈放後の住居や就業先などの帰住環境の調整や相談を行っています。このような保護司は,全国に約4万8,000人います。
※法務省HP「更生保護を支える人々」http://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo_hogo04.html#02


『少年院での活動~「共学」から「共生へ」~』“子どもたちに寄り添って”

篤志面接委員・保護司  塚越明夫

はじめまして、塚越明夫です。
本来ならば5月24日に《セミナー:「分断」から「共生」へ導く社会づくり~アーティストによる子どもワークショップの実践を通じて~》に於いて皆様方とお会いし『少年院での活動~「共学」から「共生」へ~』のお話をさせていただく予定でした。ところが4月に入り新型コロナウィルス感染拡大による緊急事態宣言が発出。企画の開催には至らずじまいとなった次第です。
爾後、担当者の方と話し合い私は紙面にてメッセージを発信するということで参加させていただくことと相成りました。就いては、拙い文章表現で皆様方に果たしてどれだけ私の思いが伝わるかどうか分かりませんが、少年院(中等)での取り組み、“子どもたちとの歩み”について私自身感じた儘、思った儘を有り体に綴らせていただきます。
その前に、院での先生方の熱心で温もりのあるご指導があってこそ、私共篤志面接委員の活動が充実して取り組んでいけることを、先に申し述べさせていただきます。

第一談 ―― 高等学校卒業程度認定試験に寄り添って ――

 教育現場にあって私も60歳を迎えました。退職を5年後に控え、「こののち子どもたちとの関わりをどう繋いでいけるか、何か子どもたちに寄り添えることはないかなー」と、色々思いを巡らせていました。そんな折、某法務教官と出会いました。まさに、某先生との出会いが私の退職後の歩みを決定づけてくれたといって過言ではありません。先生のお話で、「近年中等少年院では高認試験の受験指導の取り組みが少しずつ進み、子どもたちへの教育プログラムの再構築が検討されている」と、窺い知ることができました。
「私にも協力できることがありますか」と、お尋ねしたところ、先生から「夏休み中、受験指導に取り組まれてみては」と。早速、院長先生にその旨のお話を通してくださり快諾を取り付けていただきました。

7月下旬から8月中旬、院でのスケジュールの合間、希望者を募っていただき期間内の5日間、1講座約120分。私は日本史専門でありましたので約20名程の子どもたちを対象にスタートしました。日本史といってもA.Bいずれかの選択故、両方の指導を同時進行することは内容的に無理であり、受験者の多いBの受験指導対応での了解を取り付け、共に頑張ってもらうこととしました。高認試験はマークシート方式。よって消去法をマスターしてもらう。目標値は50点平均をクリアーすることを伝えました。
此方で準備するものとして、教科書、用語集(辞書)、史料集(古文書)、資料集(地図・年表・写真等)を受験生分用意しました。勿論、数年分の過去問をもセットプリントにして子どもたちに配布しました。いざ開始。すると子どもたちの中から「初めて目にしたー。こんなもの見たことがないー」といった声が漏れ聞こえてきました。受講している子らはどちらかというと学習への取り組みにも距離を置き、登校そのものを拒絶していたと??。隠すことなく正直なためらいの無いストレートの声でした(皆で一笑)。「あー、準備してきて良かった」。私の目にはむしろ取り揃えた学習参考書、プリント物などに目を通し感動している子どもたちの姿が新鮮に映りました。「教科書が一番安い参考書、これ程安い参考書はないよー。教科書は人生を切り拓く最良のツールだよー」。
代表の子どもの号令、「起立―、礼」から始まり、終わりは「起立―、礼 ありがとうございましたー」と、皆が声をそろえて感謝の言葉を大唱和。私は感激のあまり込み上げてくる熱いものを覚えました。
高認試験に取り組んだ夏季の5年間各5日間での子どもとの出会いでしたが彼らの眼差しとその姿勢からは“本当に学びたい、合格するぞー”という決意が伝わってくる、真摯な態度であったことをお伝えします。私は考えます。院の先生方の日々熱い指導の賜と。なお、高認試験受験者並びに合格者は年々増加傾向であること、添えさせていただきます。

第二談 ―― 篤志面接委員として寄り添う ――

 退職を迎え、私は少年院の篤志面接委員として主に子どもたちの進学・進路相談にのる任にあたることとなりました。勿論、院の先生方のお手伝いをさせていただくということです。
私も教育現場で43年間数多くの子どもたちと接してきました。記憶を辿れば、何事も大成できたオールマイティーの子はほんの一握り。多くの子は悩みを抱え、挫折を繰り返しながらなんとか頑張り抜いた子たちであったこと、思い出されます。学業、部活に行き詰まりを感じ悩み苦しんでいる多くの子と接してきました。事件を起こし処分を言い渡された子、親子関係がぎくしゃくし家を飛び出し身を危険に晒し警察にご厄介になった子もいました。やり場の無い憤りを友人に、親や教師に向け暴走してしまった子。
それでも風の便りに、「元気で頑張っているー」、「結婚して子どもが生まれましたー」、「社会人として大成しているよー」等々。最近では、“マスク”を送ってくれました。子ども同士の情報がこちらにも伝わり、今となっては嬉しいことばかりです。
私達にとって辛い便りも届きますが……。
現場で多くを学んだ経験を退職後なんとか活かして子どもたちに寄り添いたいと思う気持ちを解してその機会をつくってくださったのが、先の法務教官の先生でありました。
私は私なりのスタイルで院内の子らに寄り添い“共に学び合い、共に育ち、共に生きていく”ことをモットーに努めていこうと、現在に至っています。
それでは私と子どもの二者面談がどんなに和やいだ雰囲気で話し合われているのか綴らせていただきます。
先ず、私が担当する子が決められます。その子の仮退院までの期間内、月1回の面談。時間は概ね120分近く語り合っています。話は尽きません。子どもの在院期間内、8回前後の面談が持てます。
―― 初めての面談 ――
互いの自己紹介からはじまります。私は43年間教員をしていたことを伝えます。君たちは「なんだ先公かーと思うでしょう!」。すると子どもらはニコニコして「そんなことないですー」と。次に、その子の生年月日を確認します。「誕生日はいつなのー」、「あー、そろそろだねー」、「そう、もう過ぎたんだねー」。面談の回を重ねていく中でもし誕生日を迎えていたら「某月某日は誕生日だったね、おめでとう。もう〇〇歳だー。〇〇歳になって、これからの抱負を語ってください」。すると暫し考えて自分の言葉で語ってくれます。
そして私は「いい名前だねー、どんな意味があるのかなー。名付けてくれたのは誰ですかー」と、必ずや問いかけます。この問いかけに、待ってましたとばかりの笑顔で答える子もいれば、「うーん、誰かなー???よくわからないですー」と、自信なさそうに答える子もいます。その時私は「次回までの宿題にしていいかなー、お父さん、お母さんが面談に来たら聞いてくださいね。もし、来られなかったら手紙のやりとりで聞いてみてください」と。すると必ずや次の面談で答えてくれます。中には「おじいさんが付けてくれたそうです。意味は……だそうです」。ボールが返ってきて、そこから話がさらに弾んでいきます。「そういう意味があったんだねー。名前に負けないよう大きな人間になるんだよー」。「今度、お父さん、お母さんが面会に来たら、“僕がお父さん、お母さんを選んでこの世に生まれてきたんだよー”と伝えてあげてね―」(鮫島浩二氏の著書より)私はそう言葉を添えることにしています。
このようにスタートした面談で私が心掛けていることは、常に子どもたちに寄り添う気持ちを忘れず話を聞いてあげ、自分を大切にすることに気づいてもらい、他者への思い遣りを持てる人間に成長してもらうこと。此の事を基本に置いて語り合っています。
院内で子どもたちは自己と向き合い過去の事犯を内省し、ノートに真情を吐露し、先生方からの温もりのある助言をいただき見守られ、真の自分を取り戻すため日々勤勉な生活を送っているのです。彼らの一人ひとりのセルフノートには自分と向き合っている反省心の深さが読み取れます。

私にできることは何か。それは子どもたちとの信頼関係を築き“大人は信頼できる”、“俺の話を聞いてくれる人がいる”、“こんな自分を認めてくれる人もいる”。“背中を押してエールを送ってくれる人もいるんだ”と気付いてもらえればいい。ただそれだけの気持ちで子どもらと向き合っているのです。
 子どもたちは何も隠し立てするものはありません。心(こころ)真(ま)っ新(さら)で院に送られてきます。
生まれ変わる気持ちで、自分を取り戻すため、院の先生方と向き合っていると私は思うのです。だからこそ私も寄り添う思いで取り組んでいるのです。
 子どもらの目は輝いています。中学卒業だけの子もいれば、高校を中退、また通信制途中の子もいます。専門学校へ通いライセンスを取得し職へつなぎたい、高認試験にチャレンジし大学受験をしたいと。院での選抜試験に合格して大学受験をと。現在の少年院では子どもたちの進路に向け様々な試みがなされ教育の機会均等、門戸が開放されています。先生方の導きで、夢を語り希望を持って院内での学習に励んでいる子が多く見られます。私は子どもたちに発信します。「夢は見るものではなく、実現するもの」と。
 「大学へ行きたいがお金が無いー」と、悲観的な発信をする子へは「大学には奨学金制度があり、特待生になれば授業料は免除。お小遣い(書籍代)も支給されるケースもあるよー」、「新聞奨学制度というのもあって、これを活用して頑張っている子も多くいるんだよー」、「勿論、給付型、貸付型パターンの国の奨学金制度も利用できるし」。これらの話を紹介します。「もし必要であれば資料を次回に持ってきてあげるよ」と、約束を交わします。
次回までにパンフレット等を用意し面談日に持参します。「先生、持ってきてくれたんだー」と、パンフに目を通しながら喜ぶ子どもらの笑顔を目の当たりにし、「あー、信頼関係が築けたー」と、安堵しています。こういった資料集めが私の宿題となるのです。勿論、私の方から子どもらへ宿題を課す時もあります。「次回までに何々について考えておいてー」と。子どもたちはこの宿題にもきちんと応えてくれます。
 孤立、孤独感を抱え社会への適応がままならず躓き罪を犯して少年院へ。子どもらは加害者であっても可塑性のある一人の人間として院の先生方と触れ合う中、人への感謝の思い、人を思い遣る心が育成され謝罪の言葉をセルフノートへ認(したた)めているのです。面談の回を重ねる毎、子どもらはより多くのことを語ってくれます。家庭内のトラブルの解決策、家族への新たな思い、これからの交友との真の関わり方等々も含めて。先生方の導きが子どもらの心の成長の糧となっていることを感知しています。
――本との出会い――
「先生―、僕にとって本といえばマンガ本でしたー」。
「ここに来て本を読む機会を得ました」。こう語る子どもたち。
 院内生活において、先生方の導きは勿論の事、多少なりとも自分の時間が持て本棚より
手にした一冊の本がきっかけとなって子どもたちを読書に向かわせたことは事実でしょう。
 面談中に「先生―、今、〇〇○の本を読んでいます」と、途中経過報告をしてくれる子。
さらには、読破した本のあらましをご披露してくれる子もいます。照れながらも楽しそうに語ってくれる姿に私もその世界に引き込まれ多くを学ばせてもらっています。
「先生―、親に本の差し入れを頼みましたー」。「良かったねー。届くのが待ち遠しいねー」といった会話も時にあります。
 本田宗一郎氏、ゴルゴ松本氏(私事、「えー、どんな人なのー!!」)、成功哲学で知られるナポレオン・ヒル氏、スティーブ・ジョブズ氏らの作品等々、子どもらの読書傾向は趣味の世界から入り、自分らしい生き方を探し求めるための自己啓発本、偉人伝記本といった幅広の分野に見てとることができます。中には、「先生に薦められた『夜と霧』(ヴィクトール・フランクル著)を読んでいるところです」と。正直、かなり難しい本にも挑んでいるなーと。
子どもらも“自分探しの、心の旅”を歩んでいる証と言えるでしょう。子どもたちが読書を通じて思考の楽しさを知り、読書の受け取りは自由だと気づき、心の成長を育んでいることを感じ取りました。
 私は子どもらに一言添えます。「行間を読むように」と。
「読書しないと何か損をしたように思えるようになりました」。「院にもっとたくさんの本があると良いのになー」と。印象に残る子どもらの発信をここに綴らせてもらいました。

第三談 ―― 『運動会』そして『成人式』 ――

 院での『運動会』に個人種目はございません。各学寮(1~5学寮)単位で競う集団競技です。子どもたちが一丸となって競い合い、エネルギッシュで躍動感溢れるパワーに大きな声援や拍手が観客席よりグランドいっぱいに響き渡る少年院ならではの光景に大感動させられます。

 そして、『成人式』です。毎年TVニュースで見る都道府県市町村の『成人式』に比べ、記憶に新しい令和2年1月10日挙行の少年院での式典は、それはりっぱな素晴らしい、まさに“成人した”子どもらの姿であり、若人の主張でした。毎年式典に参列させていただき子どもたちから学ばせてもらっています。“元気”・“和気”・“活気”の三気をいただいております。
 20歳となる院生33名が一人ひとり登壇し、短い時間ですが各自思い思いの“成人の誓い”をスピーチします。「……僕はこんなところで成人式を迎えるとは思っていませんでした。……でも、ここで成人式を迎えることができてよかったです」と。そして多くの子がスピーチの終わりに「お母さん、こんな僕を見守ってくれてありがとう」と、感謝の言葉を述べていました。式の終わりに、子どもたち、家族の方々、先生方、そして出席されている方々と皆で『アンマー』(詩・かりゆし58)の歌を体育館に大きく響き渡る程の大合唱で今年は閉幕しました。
 このような素晴らしい数々の行事が挙行されていることを皆さんはご存知ないでしょう。勿論、陽の当たる一面だけではなく先生方と子どもらとの間に何らかの軋轢を生じている陰の部分もあることでしょう。ですが当少年院にあっては先生方と子どもたちの信頼関係が築かれ教育効果がはかられていると私は認知しています。
 私は面談する子どもたちに「ここは素晴らしい学校だねー。先生方も熱心で子どもに寄り添い、大切に育て上げてくれて、君たちはここで学べてよかったねー」と、語りかけているのです。私のモットー、人生「苦楽一笑」も、添えて。

第四談 ―― 山本一乃先生の『朗読』と山本ゆかり先生の『リトミック指導』 ――

 山本一乃先生の創作絵本の朗読は非常に大きなテーマが内在していると思えてなりません。人間・自然界を超え生あるものの命の尊さ、大切さを説いていると解します。
そして、一人ひとりの小さな幸せが寄り合って大きな人類愛が育まれるとも語っていると私は考えます。多くの人々との心の交流の中に互いの心を理解し合える何かが芽生えると。そのために人は感謝し合い励まし合っていきましょうと。
先生の作品は、“心の幅を広げられる、気付きの絵本”と、私は評させていただきます。
先生が朗読する語りのイントネーションは、聴く側の子どもたちの心に安らぎのひと時をもたらしてくれていると、私も密かに得心しています。
続いて、山本ゆかり先生の『リトミック』指導法ですが、私は初めて体験学習させていただきました。
 心の病を抱えた子どもたちと共に楽器等の教材を活用し音楽に合わせ心身を全開させ、
頭脳に肢体も躍動感溢れるまま忘我の境地へ誘う(いざな)、まさに緊張感からいつしか解放され“無”そのものの境地に達した邪気の無い子どもたちの姿に感心させられ、パワーゲーム(自説)の素晴らしさを学習させていただきました。

 時間内、子どもたちの満面の笑み、若さゆえの機敏な動作を目の当たりにし、老いを忘れて“青春とは心の若さ”(サムエル・ウルマンの言葉)を何故か思い出した自分がそこにいました。
お二人の先生の愛情溢れるご指導を学ばせていただき心から感謝申し上げます。

 子どもたちは、隠れた才能を多く有していると思います。その芽を咲かせるには先ず親、そして周りの大人の寄り添いがあってこそ花開くと私は考えます。
少年院の子どもたちと出会い、彼らの、想像力、創作力、運動能力の高さを実感させられました。文芸部門でいうならば、書道に詩、短歌、俳句、文章表現力を。美術部門では、絵画に彫刻、工作と。音楽部門では、作詞、作曲、歌唱力。演劇に舞踊といった総合芸術の世界においても然り。また運動部門でいうならば、陸上、サッカー等々のあらゆるスポーツ種目における身体能力の高さを。
院内での子どもたちの活動報告に触れて、一人ひとりの子どもたちに埋もれた才が内在していること大いに認識させられました。
まさに、『知・徳‣体』を備えた子どもたちには、是非、“自分探しの旅”に出発してもらい、そのナビゲーターとして『芸術家と子どもたち』の皆様が斯様な子どもたちへ多くのチャンスを提供され、大きな成長を促していただくことをお願い申し上げて、ペンを置かせていただきます。


少年院にいる子どもたちへ、深い愛情をもって寄り添ってこられた塚越さんのご尽力に敬服いたしますとともに、貴重なお話をお聞かせいただき心よりお礼申し上げます。さて、次回のコラムvol.4では、第四談でご紹介されていた、山本ゆかりさん、山本一乃さんのお二人にご登場いただき、少年鑑別所での活動について、詳しく教えて頂きます。

編集:NPO法人芸術家と子どもたち
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