つながる時間、ひろがる世界 ~障害児入所施設での交流ワークショップの実践~
2025年度に文化庁「障害者等による文化芸術活動推進事業」の採択を受けて取り組んできた本企画では、児童相談所や子どもの居場所、障害児入所施設、放課後等デイサービスにおいてワークショップを行いました。さまざまな場所で生きづらさを抱え、支援を必要としている子どもたちが、障害の有無にかかわらず文化芸術に触れ、心を動かされる体験を通して、自分や他者の表現を大切に思える気持ちを育んでいく。そんな人と人とのつながりが生まれる場を目指してきました。また、2つの障害児入所施設による成果交流発表会は、普段はそれぞれの施設内で行っているワークショップを、施設を越えた「出会いの場」として展開した初の試みでした。本コラムでは、成果交流発表会当日の様子に加え、事前の打合せや準備の過程、そして振り返りの場で聞かれたアーティストや職員の方々の声も紹介していきます。これらの取り組みが、子どもたちの育ちを支える地域における、より包摂的な社会環境づくりの一助となることを願っています。
【2025年度ワークショップ実施概要】


文化庁委託事業「令和7年度障害者等による文化芸術活動推進事業」
主催:文化庁、特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち

【事業実施プロセス】
●障害児入所施設:宮代学園、友愛学園児童部の場合

【2つの障害児入所施設でのワークショップ】
宮代学園(東京都渋谷区)
●アーティスト:城俊彦(ダンサー)
●アシスタント:杉本音々(ダンサー)
●実施日程:8/8、11/24、12/11、1/12
●参加者:小学3年生~高校2年生の8名
●ワークショップの内容
城俊彦さんのダンスワークショップは、8月からスタートして計5回(交流を含む)、最終日には施設の職員さんや入所児童、保護者を招いて成果発表会を行いました。毎回、子どもたちに馴染みのある音楽を使って、見よう見まねで踊ったり、友だちや職員さんと手を合わせて一緒に踊るなど、お互いのコミュニケーションを楽しんだり、不織布を使って動いたり、自由な感覚で身体を動かす時間を楽しみました。最初は引っ込み思案だった子が、最終日の発表の際には「一緒に踊ろう!」と職員さんを誘ってくれるようになったそうです。また、成果発表会で着る衣裳用のTシャツも、自分たちで絵を描いて製作しました。それ以来、絵を描くことにはまってしまった子もいるようで、担当の職員さんが「Rさんの趣味が一つ見つかった!」と喜んでいらっしゃいました。

身体でトンネルづくり

不織布の質感を味わいながら動きを探る

一人ひとり手作りの衣装で発表
友愛学園児童部(東京都青梅市)
●アーティスト:松岡大(舞踏家)
●アシスタント:越後静月(俳優)、加藤理愛(ダンサー)、高嶋柚衣(ダンサー)、ワガン・ンジャエ・ローズ(パーカッショニスト)
●実施日程:8/15、12/26、1/12、1/31、2/11
●参加者:小学3年生~高校3年生の11名
●ワークショップの内容
松岡大さんとのダンスワークショップは、障害の程度や特徴等に応じて2つのグループに分けて実施しました。毎回ウォーミングアップでは、意識しながら身体の部位を一つひとつ動かし、アーティストやアシスタントとペアになって身体をほぐしていきました。その後は、子どもたちが好きな曲を取り入れ、シフォン素材の布を使いながら、アーティストの動きをまねして踊ったり、振付のあるダンスに挑戦したりするほか、ペアワークや全体で一緒に踊る楽しさを味わいました。ワークショップの後半回からは、セネガル人の音楽家 ワガンさんも参加し、生演奏に合わせて身体を動かしたり、太鼓の演奏を体験したりするなど、音楽を身近に感じる時間もありました。最終日には、施設内の他の子どもたちや職員の方々を招いて成果発表会を行い、アンコールではお客さんも交えて、会場全体で一緒に踊るひとときを楽しみました。

ペアで呼吸を合わせながら踊る

シフォンによってダイナミックな表現が生まれる

セネガルの伝統楽器に合わせて身体を動かす
特徴を生かした取り組み
本プログラムでは、より表現活動に向いていると期待を持って選ばれた子どもたちを固定メンバーとして、継続的に実施しました。回数を重ねることで、子どもたちとアーティストとの関係性が構築され、普段の学校生活ではなかなか表に出ることのない、子どもたちの潜在能力や独自のものの捉え方等の新たな一面を引き出すことができ、プログラムの深まりにつながったと感じます。
【成果交流発表会の様子】
●参加人数:子ども15名(友愛7名 / 宮代8名)
●当日スケジュール
9:30 宮代学園集合
9:30~10:00の間にバス出発
12:00頃 友愛学園児童部入り、控室で昼食
13:00~14:00 成果交流発表会
14:00~14:30 乾杯、感想タイム
14:30~ 宮代バス出発
17:00頃 宮代学園に到着。現地解散
●バスでの移動~昼食
成果交流発表会の当日、宮代学園の子どもたちと施設の職員さん、アーティストの城さん、杉本さん、事務局スタッフがバスに乗車。9:45ごろに渋谷区の学園を出発して青梅の友愛学園児童部を目指しました。師走の12/28というのに、陽光降り注ぐ晴天のお出かけ日和。バスの中では、みんなでおしゃべりをしたり、途中でおやつを食べたり、車窓から見える富士山に盛り上がったりと、わいわいと楽しく過ごしました。途中のパーキングエリアでトイレ休憩をして、さらに1時間ほどで現地に到着。年末の交通渋滞が懸念されていましたが、当初の予定通り2時間程度で到着しました。お昼ご飯まで少し時間があったので、宮代学園の一行は、友愛学園児童部の広い芝生のお庭で寝転んだり、ボールや遊具で遊んだり、思い思いに自然豊かな場所での自由時間を満喫しました。
友愛学園児童部さんに提供していただいた昼食のメニューは
・むぎごはん
・フライとコロッケ
・とりもつ煮
・キャベツ
・フルーツ(オレンジ)
・とんじる
「あまり子どもらしいメニューじゃなくてすみません・・・」という、友愛学園児童部の職員さんの心配の声もありましたが、当の子どもたちは美味しそうにぱくぱく食べていました。初めて食べる食材や味に興味を持ってくれたようで、おかわりする様子も見られました。職員さんの心配をよそに、意外にも「とりもつ煮」が好評だったようです。
●成果交流発表会
まず最初に、松岡さん、城さんをはじめアーティストの皆さん5人によるダンスを鑑賞するところからスタート。見ているうちに、身体を動かしたくなった子どもたちが自然と参加していきます。その後、松岡さんのリードで、動きをまねしながら歩いたり、友愛学園児童部の子どもたちが普段のワークショップで踊っているお気に入りの曲でみんなで踊ったりしました。宮代学園の子どもたちも、見よう見まねで身体を動かしたり、音楽に合わせて自由に表現したりと、思い思いの楽しみ方で参加しました。途中で電車のようにみんなでつながって進んだり、ふわふわと軽いシフォンの布を持って動いたりと、身体以外のものの動きにも影響を受けながら、自由で楽しい時間が広がりました。
後半は城さんと宮代学園の子どもたちが中心となり、音楽にのって踊りました。最後は白い不織布がふわりふわりと動く中で、思うままに身体を動かしました。視線を交わしたり、ハイタッチをしたり、手をつないだり・・・。事前の打合せでは職員さんたちから「初めての場所でうちの子たちは気後れしないだろうか」「初めて会う人たちと一緒に活動できるのだろうか」と、心配する声も多く聞かれたのですが、ふたをあけてみれば、あっという間に両施設の子どもたちが入り混じり、お互いの存在をやんわりと感じながら楽しむ姿が見られました。むしろ普段よりも積極的に、いつもは見せない動きを見せてくれる子もいて、新しい顔ぶれや活動内容が良い刺激になったのかな、と担当の職員さんが嬉しそうに話してくださいました。

アーティストたちの自己紹介ダンス

友愛学園児童部の子どもたちと宮代学園のアーティストとの交流

宮代学園のワークをみんなで体験
●おやつの時間
ワークショップの後はおやつの時間。大人も子どももみんなでジュースやお茶を飲みながら、おやつを食べる時間をゆったりと楽しみました。おやつを食べ終えた後、宮代学園の子どもたちはバスに乗り込み、学園への帰途につきました。帰りのバスの中でも、賑やかにおしゃべりをしながら楽しく過ごしました。長い一日となりましたが、子どもたちはその後体調を崩すこともなく、「また行きたい」という声も聞かれたそうです。

施設を越えて一緒に手をつないで踊る

おやつを囲んでアーティストらと歓談

たくさんのおやつに子どもたちも大喜び
【成果交流発表会を終えて】
成果交流発表会後、数日経ってからアーティストや施設の職員さん、事務局スタッフと振り返りを実施し、課題や成果についてお話しした一部を抜粋してご紹介いたします。
―成果交流発表会での気づきや感想を教えてください。
椎名美穂/宮代学園児童発達支援管理責任者(以下、椎名):途中で端っこに行ってしまう子もいましたが、普段のワークショップと同じように楽しんでいて、環境にもすごく馴染んでいる印象を受けました。少人数で、大人の付き添いが多い外出は特別感があり、翌日になって、私たちの顔を見ると「次いつ行くの?」ときいてくる子もいました。行く前はどきどきしていましたが、交流することができて本当に良かったと感じています。
荒川和美/宮代学園ソーシャルワーカー(以下、荒川):行きのバスの中でたくさんおしゃべりをしたり、到着してからは宮代学園にはない大きな園庭でのびのびと遊んだりしたことで、リラックスした状態でワークショップを迎えられました。交流ワークショップでは、もっと輪の中に入れない子がいると思っていましたが、みんな自由に身体を動かしていて、楽しんでいる様子が伺えました。

いろんな人と関わりながら踊る
城俊彦/ダンサー:こんなに長く子どもたちと一緒に過ごすことがなかったので、ワークショップでは見せない、普段のみんなの様子を垣間見ることができ、新鮮でした。バス移動で疲れてしまうのではないかと心配していましたが、到着してからは休むことなく園庭で遊んでいたので、新しい環境にも慣れた状態でワークショップに臨めていたように感じます。子どもたちにとっても特別な友だちができた、良い時間になったのではないかと感じます。
永田あかね/友愛学園児童部副施設長(以下、永田):お互い知らない中で出会ったときに、どういう反応をするのか見守っていましたが、子どもたちはあまり気にする様子もなく、当たり前のように一緒に踊っていて驚きました。いつもと同じ場所ですが、なんとなく普段と違う雰囲気を感じ取っていて、いつも以上に踊る子や飛び入りで参加した子も楽しそうに取り組んでいました。
石川淳/友愛学園児童部施設長(以下、石川): 友愛の子どもたちはホーム感があり、よりエネルギッシュに動いていたので、宮代の子たちはその勢いに押されている印象を受けましたが、意外と楽しんでいたのだと知って安心しました。正直、もっと大人の介入が必要かなと思っていましたが、こちらが想像する以上に子どもたちはその場を受け入れ、音楽に合わせて手を握り合ってみたり、一緒に円になって踊ってみたり、全くの初対面でも彼らは動けるんだなと、新たな発見と驚きがありました。
松岡大/舞踏家:あの人数でしか生まれないグルーヴがあったかなと思います。数が重要ではないのですが、ある程度の人のエネルギーが混ざり合うと、それに影響を受けて、おとなしい子も盛り上ったりしますよね。城さんのワークショップの様子を見られたのも刺激になりました。子どもたちにとっても、色んなスタイルのワークショップを体験できるのは良い機会だと思います。
堤康彦/NPO法人芸術家と子どもたち代表:全体的に馴染んでいるように感じました。特に宮代の子どもたちは初めて会う、場所見知りがあるかと思っていましたが、意外と馴染んでいて驚きました。はじめてのお友だちと一緒に何かをするのはわかっていたのではないでしょうか。人に見せたり、一緒に何かやったりするのがみんな上手で、相手の存在をちゃんとわかっているんじゃないかと感じました。
―日常の中でイレギュラーが起こると、良くも悪くも、その後に影響が出ることがあると聞きます。交流が終わってからの普段の生活の様子や、もし逆に刺激が強すぎて困ったことなどがあれば教えてください。
永田:特に変化はなく、来ていた子たち(宮代学園)については「だれ?」、「どこから(来たの)?」のような質問もありませんでした。本当にその場を楽しんでおしまい。今日はいつもよりアーティストさん多いなぁぐらいです(笑)。
石川:見学者が来ると「名前は?」という質問や、短期入所で来た子には「いつまでいるの?」と聞くこともありますが、今回は一切なかったですね。

友愛学園児童部でのワークをみんなで体験
椎名:終わった後は「また行きたい!」という発言はありましたが、「何のお友だちだったの?」といった話題は出ませんでした。“楽しいお出かけ”ぐらいのイメージでしょうか。行くまでは「(友愛学園児童部は)どういうところなの?」と聞かれましたが、「宮代と同じようなところで、生活をしている人たちがいるんだよ」と伝えました。
荒川:その日だけじゃなくて、翌日に出勤したら「昨日楽しかったね!」と子どもから声をかけてくれたので、印象に残っているんだと感じています。
中西麻友/NPO法人芸術家と子どもたち事務局長(以下、中西):宮代の子はバスに乗ったので、出かけた記憶として残りやすいけど、友愛の子は「知らない人がバスに長時間乗ってきた」ということは理解しづらいかもしれませんね。でも、そういう背景を考えなくても、ダンスや音楽があればつながれ、人と人は本当はこうやって仲良くなれるのかなと思いました。
―交流を通して見えたもの、そしてこれからに向けて
中西:バス移動の道中、大人の動き方が行き届いていてとても感心しました。子どもたちもどこか外向きの顔で、自分で手を洗ったり、迷子にならなかったり、しっかりしていたように見えました。施設の方が移動を伴うワークショップを受け入れて、実現してくれることは大変なことだと思っていましたが、前向きに受け入れてくださり、ありがとうございました。

宮代学園と友愛学園児童部のアーティストチーム
永田:お出かけやドライブが好きなので、車に乗ってどこかに行くことに対しては抵抗ないと思います。普段と変わらずの状態なのか、外向きの顔や動きになるのか、見てみたいです。機会があればぜひ宮代学園へ遊びに行きたいです!
ワークショップの振り返りで、職員の方々から「〇〇さんのあんな姿、初めて見ました」という言葉をよく聞くことがあります。普段では見られない表情や行動が、なぜワークショップでは現れるのでしょうか。お互いを気にせず受け入れ、ルールや評価から少し離れられる空間。自由に自分を出していいという安心感。そんな場だからこそ、優しさや仲間を思う気持ち、共に取り組む結束感が、自然に出てくるのかもしれません。情緒やその日の気分によって参加が難しい日も含め、継続するからこそ見えてくる多様な一面。ふとした瞬間に思いがけない姿に出会うたびに、子どもたちの可能性の広がりを教えられます。これからも、一人ひとりの自然な姿が立ち上がる瞬間を、大切に見つめ続けていきたいと思います。そして、こうした活動の輪が、これからも少しずつ広がっていくことを心より願っています。
最後になりましたが、一緒に場をつくってくださった各施設職員の皆様、アーティストの方々のご尽力に、この場を借りて改めてお礼申し上げます。
写真・編集:NPO法人 芸術家と子どもたち
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