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コラムColumn

【シンポジウム報告】少年院×アーティスト~矯正教育におけるアーティスト・ワークショップの可能性~<中編>

【シンポジウム報告】
少年院×アーティスト
~矯正教育におけるアーティスト・ワークショップの可能性~
<中編>

シンポジウム「少年院×アーティスト~矯正教育におけるアーティスト・ワークショップの可能性~」の様子をお届けしているコラムの中編。今回のコラムでは、東日本少年矯正医療・教育センターの向井先生、北村先生によるご講演及び、ダンスカンパニー・セレノグラフィカのお二人によるミニ・ワークショップの様子をお届けします。
※記事内の画像は、発表者のスライドを転載したものです。

>>シンポジウム前半の様子を記載した<前編>の記事はこちらから

【助成】公益財団法人ベネッセこども基金


シンポジウム「少年院×アーティスト」~矯正教育におけるアーティスト・ワークショップの可能性~ 概要

登壇者 山本宏一/法務省矯正局少年矯正課 課長
向井信子/元・東日本少年矯正医療・教育センター教育調査官、現・法務省大臣官房会計課
北村靖子/東日本少年矯正医療・教育センター統括専門官 法務教官
隅地茉歩/セレノグラフィカ(ダンスカンパニー)
阿比留修一/セレノグラフィカ(ダンスカンパニー)
実施日時 2024年1月14日(日)13:30〜16:00
実施場所 IKE・Biz としま産業振興プラザ 6階 多目的ホール
プログラム

①芸術家と子どもたちの活動紹介
②講演『生きづらさを抱える少年院の子どもたちへの対応の現状と課題』
 …山本宏一
③講演『東日本少年矯正医療・教育センター(少年院)でのアーティスト・ワークショップの取り組みについて』
 ~セレノグラフィカによるミニワークショップ付~

 …向井信子、北村靖子、隅地茉歩、阿比留修一
④フリーディスカッション『“矯正” とは何か?』
 ~子どもたちが社会で生きていくために、アーティスト・ワークショップができること~
 …山本宏一、向井信子、北村靖子、隅地茉歩、阿比留修一

太字の③が、今回の<中編>のコラムでお届けする内容です。

参加者 法務省関係者、矯正教育研究者、教員、アーティスト、メディアなど80名

『東日本少年矯正医療・教育センター(少年院)でのアーティスト・ワークショップの取り組みについて』
~セレノグラフィカによるミニワークショップ付~ 

向井信子さん(以下、向井):東日本少年矯正医療・教育センターでは、教育調査官として、外との繋がりを橋渡しする広報や新しいものを導入する仕事をしておりました。北村さんは、授業のカリキュラムを作ったり、実際に子どもたちの面倒を見たりしています。本日は、「芸術家と子どもたち」さんを通じて、こうやって知り合って出会えた皆さんに、少年院やそこにいる子どもたちのことをいろいろ知ってほしいなという思いで来ました。そうすることで社会全体が少年たちを支えてくれる、そういう場になるんじゃないかなと思っています。

 

// 東日本少年矯正医療・教育センターってどんなところ?

東京駅から西に1時間ぐらいの東京都昭島市にあります。少年たちが住んでいる寮と教育機関である学校の建物があり、そして、常時医療が必要な子たちのための少年院なので、病院の機能もあります。中学生までは学校の勉強をしていますが、中学を卒業して義務教育の対象年齢でなくなった子たちは、主に職業訓練をしています。病院のスペースでは、常勤の医師、ナースがいて、子どもたちの様子について法務教官と医療スタッフで意見交換をしています。全体的には、生活指導厚めの全寮制の学校という感じです。
※施設内の詳しい様子は、「少年院見学ツアー」としてYouTubeで公開しているので、是非こちらをご覧ください。

東日本少年矯正医療・教育センターには、いわゆる発達上の課題を抱えている子どもたちの「支援教育課程」、医療を加えなければいけない子どもたちの「医療措置課程」の2つの課程があります。「医療措置課程」には、令和5年4月1日現在には男子12人、女子10人でしたが、今は男の子がちょっと増えて18人います。知的障害、発達障害、情緒障害を抱える「支援教育課程」は、令和5年4月1日現在では63名。現在はさらに増えて、78名います。平成31年4月に「支援教育課程」の少年を収容していた神奈川医療少年院と「医療措置課程」の関東医療少年院が移転してきて合体した少年院です。

 

子どもたちが当センターに入ってきたときに医師に診断をしていただき、その時につけられた診断名です。圧倒的に多いのはASD(自閉スペクトラム症)で、支援教育課程、医療措置過程ともに診断されることがとても多い。
その次には知的障害・軽度知的障害・境界知能の子も24人ということで多くなっております。

 

通常のいわゆる一般社会での正規分布でいうと、IQ95~105が一番多い層ですけれども、当センターに入っている子どもたちの知能指数は、IQ60~69の層が一番多くなっています。知的障害だと言われるのは79以下になりますので、当センターの知的分布はかなり偏りがあるということが見てとれると思います。

 

男子在院者の52%、女子在院者の70%に被虐待経験があります。少年院全体で言うと、男子は41%、女子は60%となっているので、当センターでは被虐待経験がある子がとても多いです。特に女子の在院者については、生育環境から非常に劣悪で、かなり酷い虐待を受けてきたというような子の割合が非常に多いなと感じています。一般社会では10~15%ですので、圧倒的に多い数字になっています。

 

令和4年のデータでは16~18歳が多いですが、現在は、いわゆる特定少年と言われる18~19歳の子たちで、成人ではあるんだけれども少年法で手厚く処遇される子たちの割合がかなり高くなってきています。14~15歳という年少の少年が少なくなってきている印象があります。

 

福祉手帳とは、療育手帳、精神障害者福祉手帳、身体障害者手帳のことを指します。当センターでは、入院前に児童相談所や児童福祉施設などで取得済みという子が圧倒的に多いです。そして、2割は在院中に取得しています。ですので療育手帳などで福祉の手続きを経たほうが、これから生きやすくなるという子が当センターは非常に多いということが、見てとれるかと思います。

 

// 少年院でのアーティスト・ワークショップ導入まで
(「芸術家と子どもたち」が、初めて東日本少年矯正医療・教育センターを訪れた時の様子から、導入までの様子をお芝居仕立てで紹介いただきました!)

芸術家と子どもたち(以下、芸子):「少年院で是非アーティストワークショップをやりたいんです!」
向井先生(以下、向井):「どんなことをやっているんですか?」
芸子:「なんでもやれますよ。ダンスでも、美術でも、音楽でも!HPで動画、みてください!」

「芸術家と子どもたち」さんのHPで動画を見てみたら、小学生たちが自由にひらひらと踊っている動画が出てきてですね、「ちょっとうちの子たち、ここまで自由ってなかなか難しいよな」って思いはしたんですが、北村さんに相談しました。

向井:「こんな話があるんだけど?」
北村先生(以下、北村):「それはどういうことができるんでしょうかね。」
向井:「何でもできるらしいよ。ダンスでも、美術でも、音楽でも。」
北村:「何でもって言われると逆にちょっと難しいんですけど、女子の少年でダンスとかっていうのは結構いいかもしれないですね。」
向井:「女子のダンス?」
北村:「そうなんですよね。体育では、どうしても男子と一緒の体育をしなければならないので、男子が好きなサッカーとか長距離走とか、筋トレとかを一緒にやらされることが多くて。女子はそういうの苦手な子も多いんですよね。なので他に何かできたらなって。例えばダンスとかっていうのも、男子はちょっとわからないけど女子だったらありかなって思うんですよね。」

一応、少年院も学校の授業みたいにカリキュラムが決まっていて、何の時間に何をどれだけやらなきゃいけないとか、体育の時間には何をやるっていうのを施設ごとに決めているんですね。
少年院は男子がほとんどを占めていて、男子のほうに偏ったメニューになっているので、女子向けの何かが必要なんだっていうニーズがあったと。

向井:「そういうニーズがあったんだね。でも、ダンスってできる子とできない子の差が結構ありそうで、なんか自由度が高そうで、逆に難しいかなって思ったりするんだけど。」
北村:「そうなんですよね。確かに、「好きにやっていいよ」って言われると、子どもが困ってしまいそうですよね。実際にその日に誰が参加するかっていうのにもよってきますよね。」
向井:「どんなことをやっているのか話を聞くだけだとよくわかんないから、まずは私が見学させてもらってくるね!」

ということで、児童養護施設でセレノグラフィカさんがされていたワークショップを見学させてもらいました。
私(向井先生)の感想としては、「やっぱり体を動かすっていいなっていうのと、そういうことを通じて仲良くなれるのもいいなと思いましたし、ちっちゃい子や高校生ぐらいの子、いろんな人たちがみんな心理的にも身体的にも安全に楽しく参加できてたな」と思いました。なので、「うちの少年院でもできそう!」と。

向井:「見学に行ってみたんだよ。アーティストの方も一人ひとりの子どもたちに上手に声をかけてくれて気を配ってくれたりとかしてたよ。できれば、北村先生たちも見学に行ってきてほしいな!」
北村:「はい、行ってきます!」

ということで、オンラインで、児童養護施設でワークショップをされている様子を見させていただきました。

北村:「あの感じだと、もうちょっと工夫すればできるかもしれませんね。女子寮の先生と相談してみましょう。」
向井:「やるんだったら、子どもたちにも職員にもやってよかったねって言ってもらえるようなものにしたいよね。」

ということで、始まりました。
少年院には、結構、外部の方が来てくださるんですけれど、やはり中のことをよくわかっていただかないと、「あんなことを言われてしまうと、ちょっと子どもたち可哀想だったな」とか、逆に全然ついていけないようなプログラムだと、参加している子たちが劣等感を感じてしまったりすることもあって結構難しいんですよね。ですが、今回のアーティスト・ワークショップについては、「これならできそう」と実感が持てたので、ぜひ進めさせていただこうということになりました。

 

// なぜ少年院でワークショップをするのは難しいのか?
「芸術家と子どもたち」の方たちが、周囲の方たちに「少年院でワークショップをするは難しいんじゃない?」と言われていたそうですが、何が難しいのかなと考えると、「少年院にいる女の子」って言われたときの、世間のイメージと実際の子どもたちの様子の重なってる部分が少ないのではと感じています。世間のイメージ的には「不良っぽい子」「怖い子」「斜めで睨んでくるような子」ばっかりいるんじゃないかと思われているかもしれないけれど、実際は、誰かから被害を加えられそうになった時に、「窮鼠猫を噛む」というような形で犯罪を犯してしまった子も、このセンターの中には多いんですよね。

非行少年ってこういう子でしょ、というイメージがあると思うんですけれど、実際は本当にいろんな子の集まりで、年齢も違うし、学校に行っていたり、行っていなかったり、生活歴も違えば、障害がある・なしについても、いろんな特徴があったり、身体を動かすことの得意・不得意も、スキップができない子もいれば、国体の選手をやっていたことがあるような子もいたりするんです。対人関係についても得意・不得意があったり、大きい音が鳴っただけでびっくりしちゃって身体が動かなくなっちゃう子もいれば、言葉で言われることがすごく苦手な子もいて。その場で指示されて何をすればいいか理解するのが難しい子もいたり、何が不調の引き金になるかわからない子もいます。また、少年院に入ってくるタイミングがそれぞれ違うんです。家庭裁判所で少年院に入りなさいと言われた時に入ってくるので、4月に入ってくる子もいれば、5月、6月、7月に入ってくる子もいるので、ワークショップをやるときに、少年院に来たばっかりの子も1年ぐらい経っている子もいたりします。そういうところで、どこに焦点を合わせればいいのか難しい部分もあるのかなと思いました。

他にも、少年院独自の事情があります。

NG質問
普通だったら「名前は何?」「出身地はどこ?」「年齢は何歳?」という話が出てから、いろんなことが始まると思うんですが、そういった自分の背景を話すことがNGになっています。

身体接触NG/他の少年との関わる場面の制約
身体接触はなるべくしない、身体を触られることへの得意・不得意もあるし、ちょっとした接触が暴行と捉えられてしまうというケースもあったりします。特に異性との接触はNGだったり、特にうちのセンターは医療少年院でもあるので、他者と直接的に関わる場面には少し制約があります。

写真・ビデオ撮影の制約
施設の特性上、写真や映像撮影にもあまり協力できないため、「芸術家と子どもたち」さんの活動報告として、それは大丈夫なのかなという心配もありました。

細かな事前調整が必要
他にも色々な細かい事前調整が必要になりそうで、「芸術家と子どもたち」さんが面倒くさくないかなというのも思っていたところです。

ということもあり、導入にあたって当センターとしては色々心配になっていたんですけれども、こちらが疑問を呈するたびに、
「NG質問はしません。子どもたちには、”ダンサーネーム”をつけてもらって、それで呼び合うようにしましょう。」
「身体接触のないプログラム構成にします。ペアワークなども、事前に先生の方に検討してもらうようにしましょう。」
「写真・ビデオ撮影は、少年院で撮った写真を一部提供してもらって、あとはイラストで記録を残すようにしてみましょう。」
と応えてくださり、さらに、事前調整が必要なことも理解して、本当に細かくいろいろ事前に打ち合わせさせていただいて、ようやく当日を迎えたという状況です。

難しさを乗り越えて少年院でワークショップをやりたいなと思ったのは、一番にですね、「是非、少年院の子どもたちのために何かやりたい」と言ってくださる「芸術家と子どもたち」の皆さんの笑顔を見たときに、「そんなふうに言ってくださる方たちがいるんだったら、我々も是非その思いを遂げて、子どもたちに素敵なものを届けたいな」という思いが芽生えまして、当日を迎えられたと思っております。

ここからはですね、実際にセレノグラフィカさんに少年院でやっていただいたワークショップを、少し皆さんに体験してもらえたらと思います。セレノグラフィカさん、お願いします!

★シンポジウムにお越しくださった80名の皆さまと、実際に身体を動かしながら、ワークショップを体験しました♪
★東日本少年矯正医療・教育センターでのワークショップの様子はコラム「カラダとココロがおどるとき~少年院での実践(アーティストのこえ)~」をご参考ください。

①まずは座ったまま耳のマッサージ

②自由に歩いて、出会った人とエア・ハイタッチ!

③続いて、出会った人と腕を組んで回ります♪

④はじめましての人ともダンスでご挨拶

⑤ペアになり「人差し指を追いかけて」

⑥あちこちで素敵なダンスの輪が広がっていました♪

 

 

【講師プロフィール】 
向井信子/元・東日本少年矯正医療・教育センター教育調査官、現・法務省大臣官房会計課

千葉県柏市出身、早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻修了(臨床心理士、公認心理師)。大学在学中に、少年院を見学して法務教官になることを決意。平成12年に東京都の愛光女子学園で法務教官人生をスタート。その後、法務省矯正局、大臣官房、矯正研修所、榛名女子学園、東京矯正管区での勤務を経て、令和3、4年度は東日本少年矯正医療・教育センターにて、学生や一般の方々に対する少年院の広報などを担当。芸術家と子どもたちによるアーティスト・ワークショップをセンターで導入するための各種調整に携わる。「より多くの方々に少年院のことを知ってもらい、少年たちの応援団になってほしい!」がモットー。

【講師プロフィール】 
北村靖子/東日本少年矯正医療・教育センター統括専門官 法務教官

岡山県岡山市出身。岡山大学大学院文学研究科卒。
平成16年に、香川県の丸亀少女の家(「家」ですが少年院です。)に採用。その後、榛名女子学園、前橋刑務所、前橋少年鑑別所(群馬県に10年間住みました。)を経て、東日本少年矯正医療・教育センターに企画統括で着任。少年院で、外部協力者の方々の活動を、いかに被収容者の教育につなげていくか、にチャレンジする日々です。

【講師プロフィール】 
セレノグラフィカ/ダンスカンパニー

©Ai Hirano

1997年、隅地茉歩と阿比留修一によって設立。カンパニー名のセレノグラフィカとは、Selenography(月面地理学)+icaで「月究学派」(時間や場所によって変化する月のように、一見とらえどころの無いダンスやアートを追求する者たち)の意の造語。関西を拠点に国内外、屋内外を問わず幅広く活動を展開するダンスカンパニー。多様な解釈を誘発す る 不 思 議 で 愉 快 な 作 風 と 、 緻 密 な 身 体 操 作 が 持 ち 味 。 隅 地 茉 歩 ( T O Y O T A CHOREOGRAPHY AWARD2005「次代を担う振付家賞」[グランプリ]受賞)は「踊るぬいぐるみ」、阿比留修一(平成8年度大阪府芸術劇場奨励新人認定)は「かかとの無い男」とあだ名され、ヨーロッパ、韓国、オーストラリアなど国外でも作品を発表。近年は公演、ワークショップ、教育機関へのアウトリーチを含め、あらゆる世代の心と身体にダンスを届けるべく全国各地へ遠征を重ねている。
(一財)地域創造「公共ホール現代ダンス活性化支援事業」登録アーティスト。


向井さん、北村さん、貴重なお話と資料の数々、本当にありがとうございました。そして、セレノグラフィカの隅地さん、阿比留さん、こころおどる素敵な時間をつくってくださりありがとうございました。
<後編>では、登壇者の皆様とのフリーディスカッションの内容をお届け致します。

編集:NPO法人芸術家と子どもたち
※無断転載・複製を禁ず。