保育園の4歳児クラスで行われた、グラフィックデザイナーの種市一寛さん&宮添浩司さんによるユニット「バレ・バレ」のワークショップをご紹介します。アーティストの方が提案してくれることはいつも刺激になるので、こういった機会を楽しみにしているし、作ることが多少苦手な子も思いっきり楽しんで、今後の制作へつなげていけるような活動を、という先生からのリクエスト。会場は保育室で、いつもの部屋をまるごと海の中に作り変えてのワークショップとなりました。

まずは、ホールで子どもたちと出会います。挨拶の後は海の絵本を見せながらの導入。見た事のある魚の名前などを口々に話し出す子どもたちに、「これからみんなで海に探検に行きたい人?」と尋ねると、「行く!」と元気に答える子や、「ちょっと怖い」と答える子も。そこで、海に行くために「魔法のスーツ」を装着します。ポリ袋で出来たスーツですが、子どもたちのワクワク感が高まって、そのまま海の中(保育室)へと出発です!
最初の数秒はソーッと部屋に入る子どもたち。でも入ってしまえばもう気持ちを押さえずに、てんこ盛りになったすずらんテープの山に埋もれたり、壁に貼られた魚たちや天井のネットなどに触ったり「ワーワーキャーキャー」大興奮の子どもたちに、大人も笑いが止まりません。

そうして空間自体を満喫したところで、アーティストが一つだけ吊るされた魚に注目。「1匹だけだと淋しいよね。お友だち作ろうか?」と問いかけて、制作の時間に突入しました。まずは、丸や三角に切られた3色ほどの画用紙を使って魚の形を作ります。色の選び方や組み合わせ方で一人ひとり違った魚が登場します。

一通り形が出来た所で、「お魚さんにお洋服を着せてあげよう。」と、飾り付けに使う様々な素材(マスキングテープ、シール、毛糸など)を紹介します。材料が登場するとまた子どもたちの興味も深まり、材料の箱に群がりながら、それぞれ自分が使ってみたい素材を持っていきます。マスキングテープは、ハサミで切るのが難しい素材でもありますが、何回も繰り返すうちに、なんとかかんとか切れるようにもなり、この1日だけでもまた子どもたちの成長を感じました。

材料だけでなく、イカやタコなど、アーティストが作った別の見本なども時々見せながら、子どもたちのイメージを少しずつ刺激して制作は進みます。一つ完成するごとに天井から吊るして飾るのですが、大人を見つけては自分の作品がどこにあるか教えてくれる子もいて、誰かに自分の作品を見てもらうことの大切さも改めて感じました。

次々に作品を持ってくる子どもたちに、天井に吊るす作業が追い付かずスタッフもてんやわんやですが、予想以上に4個5個と作り続けても途切れない子どもたちの集中力には感心しきりです。
時間が経つと、材料が増える面白さと同時に、同じ素材でもいろいろな使い方が生まれてきます。形の紙を長~くつなげたり、リボンを長くつかって垂らすようにしてみたり、魚だけじゃなく、お魚さんの家なども加わりました。紙コップなどの立体的な素材も加わると、海はますます豊かになっていきます。


制作が終盤に差し掛かった頃には、「魔法のシール」を少しずつ子どもたちに渡しておきます。そうして60分程が経過したところで、保育室の電気を半分消灯。何事かと思っている子どもたちに、海が夜になるからと片付けの声かけをします。そして一度全員で座ったら、アーティストから魔法の呪文が。「海さん、おやすみなさい。」とみんなで一緒に唱えると、そこはもう夜の海!実は、魔法のシールや、最初からいた魚たちには畜光塗料が仕込んであり、夜の海で光るようになっているのです。子どもたちは「ウワーッ!!!」と大喜びで、暗いにもかかわらず海中を動き回って、全身で楽しさと喜びを表してくれました。

夜の海を堪能した後は、海が朝になり、みんなでホールに戻ってワークショップを終えました。終了後の振り返りでは、先生から、「制作が苦手な子もいたので、あんなに集中するとは思わなかった。」「今日は能力的な個人差があまり出ずに、一人ひとりが興味を持って取り組んでいた。」「いろんな素材を心豊かに使えた。」などの感想をいただきました。また、この日は作品を夕方まで飾っておき保護者の方に見てもらえるようにしたり、実施後も少し海を残しておいたり、その後も園で活用して下さるとのことでした。
アーティストは、楽しい環境を整えて、楽しい仕掛けを用意して、タイミングを見計らいながら子どもたちを刺激します。でもアーティストが一方的に投げかけるだけではワークショップは成り立ちません。子どもたちの時々の反応や制作の様子に応じて、より制作に集中していけるように、より子どもたちがイメージを広げていけるように刺激をしていく。そうして、出来あがった海の豊かさの中で、子どもたちの集中力と、空間や材料への反応の良さ、一人ひとりが持っている力や想像力の広さに本当に感動した一日でした。
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バレ・バレ/グラフィックデザイナー
https://www.children-art.net/bare_bare/